『推進派が希望的観測 米国ガス解禁求める 供給不安、環境汚染に懸念』|日本農業新聞5月22日

 民主党の経済連携プロジェクトチーム(PT)で、環太平洋連携協定(TPP)推進派の議員はTPP参加のメリットとして、米国からの天然ガス輸入につながり、エネルギー政策上も有効だと主張し始めた。米国が、自由貿易協定(FTA)を結ぶ国にしか天然ガスの輸出を認めていないからだ。しかし米国からの天然ガス輸入には不安定要素が多く、採掘には環境汚染も懸念される。慎重派議員からは「希望的観測だ」と指摘が上がる。
 
 TPPのメリットを議論した16日の経済連携PT総会。推進派の蓮舫前行政刷新担当相が「TPPを有効活用し、米国からシェールガスを確保できるように交渉すべきだ」と発言した。
 
 シェールガスは頁岩(けつがん、シェール)層から採取する天然ガス。米国は近年、技術発達で採掘量が急増している。価格も大幅に低下し、液化天然ガス(LNG)にして年間数千万㌧を輸出する計画も進む。だが安全保障上の理由で、米国はアラスカ州を除き、原則としてFTA締結国にだけLNGの輸出を許可している。ただ、締結国以外への輸出許可の例もある。
 
 一方、日本は、原子力発電所の停止を受けた火力発電の需要増などで、LNGの輸入が増えている。2011年度の輸入量は8318万㌧で前年比17%増。マレーシアなどからの輸入が多いが、需要増で平均単価も前年度より29%上がった。12年度はさらに輸入増が見込まれている。
 
 蓮舫氏の主張は、FTAの一種であるTPPに参加し、米国にLNG輸出解禁を求めるものだ。だが16日のPT総会では、中村哲治氏(参・奈良)が「どれだけ輸入できるかなど、データを示さなければ議論にならない」と指摘。米国のLNG輸出には不安定要素が多く「TPPに参加しても輸出が解禁されるとは限らない」(政府関係者)との見方があるからだ。
 
□■

 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構の今年2月の調査は「米国のLNG輸出実現にはさまざまな課題がある」と指摘する。第一の課題は、産業界を中心とした米国内の反発。日本への輸出で需要が高まり、国内価格も高騰する可能性があるためだ。現在の低価格なガスでコストを削減している製造業や発電業界などが、議員に圧力をかけているという。
 
 輸出供給能力にも不安がある。米国の天然ガス埋蔵量の試算にはばらつきがあり、米国自体が天然ガスの世界最大の消費国。また天然ガスの輸出には、液化するための施設に巨額の投資が必要だが、米国の輸出業者は実績に乏しい中小規模がほとんど。資金調達などの面から、年間数千万㌧のLNG輸出計画は一部しか実現しない可能性が高いという。
 
 さらに、シェールガスの採掘には環境への悪影響も指摘される。生産量急増のきっかけとなった採掘法は、化学物質を含む大量の水を地中に流し込むため、水質・土壌汚染や地域の水不足への懸念が強い。地中への水の注入が地震の発生リスクを高める可能性もある。フランスやブルガリアなどでは、この方法による採掘を禁止している。
 
 これらを受け、同党のある慎重派議員は「推進派の主張は希望的観測にすぎない。メリットが無いから後付けで出してきただけだ」と一蹴。別の慎重派議員は「不確実なメリットのために、多くのデメリットが確実なTPP交渉に参加するわけにはいかない」と語る。
 
□■

 その一方で今後、LNG輸出解禁の条件として、米国が日本にTPP交渉への参加を求める可能性もある。「米国内の企業がLNG輸出を認めるには、より大きな利益をもたらす日本のTPP参加が必要」(政府関係者)というわけだ。
 
 日本政府は昨年9月、LNG輸出を求めて米政府との協議を開始し、今年4月30日の日米首脳会談での合意を目指していた。だが同会談で野田佳彦首相が「(米国の輸出に)日本企業の関心も高い」と解禁を求めたのに対し、オバマ米大統領は「政策決定過程の途中にある」として保留した。
 
 これに先立って4月中に、三井物産と三菱商事が年間800万㌧、東京ガスと住友商事が同230万㌧のLNGを調達する契約を、米民間企業との間で合意していた。「政府の認可を待つだけ」(商社関係者)となっており、これを理由に国内経済界がTPP交渉参加を求めることもありそうだ。

Reply · Report Post