★前原誠司新代表消費税増税容認論が正しくない理由ー(植草一秀氏)

民進党が新代表に前原誠司氏を選出したが、前途は多難である。

主権者国民にとっての政治とのかかわりにおいて、何よりも重要なのは

「政策」

である。

「政党」

ではない。

どの党が好きとか嫌いとか、そんなことはどうでもよい。

「良い政策」を推進する政党は「良い政党」であって、

「悪い政策」を推進する政党は「悪い政党」である。

それだけだ。

「政策」こそ、主権者にとって何よりも重要な考察の対象であり、

「政策」こそ要である。

次の総選挙で主権者国民が判断しなければならない最重要の政策テーマは、

原発、憲法、経済政策

である。

原発では、いよいよ政権が東京電力柏崎刈羽原発の再稼動推進に動こうとしている。

福島の事故があり、原発廃止の岐路に立つ日本。

その日本の原発政策を福島事故前に完全に回帰させるのかどうか。

原発問題は依然として最重要の「政策テーマ」である。


「憲法」で問題になるのは、「戦争」の位置付けだ。

日本は戦後、「戦争を放棄する国」になった。

これを72年間維持してきた。

しかし、安倍政権は日本を「戦争をする国」に改変しようとしている。

その是非を判断するのは主権者国民である。

これも最重要のテーマである。

そして、もうひとつの最重要テーマが「経済政策」である。

安倍政権は「格差拡大推進」、「格差拡大放置」の経済政策を実行している。

この経済政策の是非が問われている。

「格差」にかかわる「経済政策」として検討が求められるのは、

「歳出構造」、「税制」、「労働政策」

の三つである。

「歳出構造」で問題なのは、「利権支出」のウエイトが大きく

「プログラム支出」のウエイトが低いこと。

日本財政の最大の構造問題がここにある。

歳出構造を全面的に刷新すれば、現在の支出水準で社会保障を劇的に

拡充することができる。


直近25年間の「税制」変遷を見ると、

所得税と法人税が「巨大減税」された一方で、消費税が「巨大増税」された。

この「税制改変」を是とするのか、非とするのか。

そして、格差拡大の最大の背景は、

「資本」による「労働コスト最小化」の激しい運動と、

これを全面支援してきた政府による労働政策改変である。

正規労働者が激減して中間所得者層が激減し、

新しい低所得者階層が大量に生み出されてきた。

この流れを変えるための経済政策が求められている。

「歳出構造」が全面的に刷新されるなら、消費税が存続しても、

格差問題は解消し得る。

北欧諸国の事例を見れば、それは分かる。

しかし、日本財政の最大の問題は「歳出構造」にある。

歳出において、社会保障支出が削減の対象とされ、

各種利権の温床である裁量支出=利権支出が増大されてきた。

この「歳出構造」が見直されぬまま、消費税増税を続けていることが、

「格差拡大推進」、「格差拡大放置」の結果を生み出しているのである。

2009年に発足した鳩山政権は、ここにメスを入れることを明示した。

その政策基本方針を分かりやすく表現したのが

「シロアリ退治なくして消費税増税なし」

なのだ。

そして、民主党が主権者国民から完全に見放される主因になったのが、

菅直人政権と野田佳彦政権による「シロアリ退治なき消費税増税」への「転向」

であった。

この「原点」を直視することなく、「消費税増税推進」の旗を掲げる以上、

前原民進党に明日はないと言って過言ではない。

「歳出構造」を全面的に刷新できるなら、

最終的には消費税も財源調達の手段にはなり得るだろう。

しかし、「歳出構造」を変えずに、消費税増税を容認するなら、

これまでの「格差拡大推進」、「格差拡大放置」の路線を踏襲するだけのことになる。

だからこそ重要なことは、「歳出構造の刷新」を実現するまでは

消費税増税を封印することなのだ。

これが「シロアリ退治なき消費税増税封殺」である。

民主党の凋落の原因を踏まえるなら、消費税をいったん5%に引き戻し、

その上で「歳出構造刷新」を断行することを提示するべきである。

消費税増税容認の民進党では、主権者国民の支持を得ることは困難である。


民進党は今回の代表選で、党内に、基本的には正反対の政策主張を持つ

二つの勢力が同居していることが明らかになった。

代表選の前から、このことはすでに明らかであったが、

それが二人の立候補者の主張によって、より鮮明になった。

基本政策方針が異なるのである。

相違の軸は、原発、憲法、消費税である。

主権者国民にとって、最重要の三つの政策課題である。

原発を辞めるのか、それとも続けるのか。

原発をやめるというのは、「再稼動しない」ということだ。

日本は原発を再稼動せずにやっていける。

このことは、原発全面休止で何の問題も発生しなかったことで証明されている。

そして、日本の主権者国民の多数が「原発再稼動なし」を求めている。


滋賀県、鹿児島県、新潟県の知事選で、

主権者の多数が「原発再稼動阻止」に賛同していることが明確になった。

しかし、安倍政権は原発推進の基本路線を強行している。

しかし、実は民進党内部にも、原発稼動容認派と原発稼動阻止派の両者が

存在している。

これでは、主権者国民に明確な選択肢を示せない。


日本国憲法は戦争放棄を明記した。

この憲法を私たちは70年以上堅持して来た。

そして、その憲法解釈上、「集団的自衛権の行使」は「憲法解釈上許されない」

との判断を、40年以上にわたり堅持してきた。

つまり、「集団的自衛権の行使は許されない」というのが、

憲法の一部として保持されてきたのである。

したがって、集団的自衛権の行使を容認するには憲法改定が必要になる。

ところが、安倍政権は憲法改定の手続きを踏まずに、

集団的自衛権行使を容認し、この憲法解釈に基づいて「戦争法制」を強行制定した。

この政策を是とするのか、非とするのか。

これも、現在の最重要政策判断事項である。

判断を下すのは、もちろん、主権者国民でなければならない。


そして、私たちにとって、最も切実な日々の問題が「経済政策」である。

2009年に民主党は

「シロアリ退治なき消費税増税を許さない」

という、一本筋の通った政策方針を明示した。

これは、私の政策提言に基づくものであったが、

この基本方針が主権者国民に支持された。

ところが、2010年に鳩山政権が破壊されて、

権力を強奪した菅直人氏が率いる菅政権がこの基本公約を破壊した。

菅直人政権と野田佳彦政権が

「シロアリ退治なき消費税増税を許さない」

の基本公約を破棄して、

「シロアリ退治なき消費税増税」

に突き進んだ。

民主党凋落、転落の主因はこの問題にあると言って間違いないだろう。


前原氏の主張には、この事実に対する反省がまったくないのである。

前原氏は

「消費税増税をしても歳出構造を変えれば格差問題を是正できる」

と主張する学者の考え方に乗っているようだが、現実には、

「歳出構造を変えられないなかで消費税増税だけが進行する」

ことを阻止できなかったのが、過去の歴史の事実なのである。


私が当時声をからして主張したことは、

「消費税増税を封印しない限り、歳出構造改革は絶対に進展しない」

ということだった。

「歳出構造を刷新しない限り、消費税増税を認めない」

という「縛り」をかけない限り、

歳出構造改革=シロアリ退治=利権支出削減は進まない。

これが「シロアリ退治なき消費税増税を許さない!」のスローガンの意味

だったのである。


したがって、いま明確に打ち出すべきことは、消費税減税である。

消費税を減税し、その上で歳出構造を変える。

また、過去25年間の税制改定は、

所得税と法人税を減税するための消費税増税であった。

所得税と法人税負担を維持して、その上に消費税負担を求めたものではない。

つまり、富裕層の減税のために、所得の少ない階層に、

過酷な負担を押し付けてきた歴史なのだ。


最重要の政策対応は、

第一に、歳出の構造改革である。

利権支出を削減して、これをすべて社会保障支出の拡充に振り向ける。

第二に、労働政策を抜本的に見直して、労働者の処遇と身分の安定性を確保する。

第三に、消費税をいったん廃止の方向に舵を切る。

消費税増税を容認しているから歳出構造改革がまったく進まないのだ。

「政治と政策のリアリズム」に基づかない「きれいごと」は、

霞ヶ関シロアリ官僚と、永田町利権政治屋の財政私物化を放置、容認する

隠れ蓑になってしまうことを、はっきりと認識する必要がある。

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