論説『食料安保相会合 各国が増産政策強化を』| 日本農業新聞5月29日

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)の食料安全保障担当相会合が30、31の両日、ロシアのカザンで開かれる。世界人口が70億人を突破する一方、世界的な食料価格の高止まりが続き、栄養不足人口は依然9億人を超える水準で推移する。人口増加が続くアジア地域の食料安保の確立は、世界の食料安保につながるものである。これまでの取り組みを強化する力強い「カザン閣僚宣言」の発信とともに、各国での着実な閣僚宣言の実施を期待したい。

 食料安保相会合は初めて、2010年10月に新潟で開かれた。採択した閣僚宣言や行動計画には、国土保全や景観形成といった農業の多面的機能の重要性を盛り込み、農業生産増大の必要性や農業投資の促進などを明記した。議長を務めた鹿野道彦農相は、日本の食料自給率を向上させ、世界の食料需給の安定に貢献する考えを表明した。

 宣言から1年7カ月余りが過ぎる中で、東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス日中韓による緊急米備蓄など動きだした政策もあるが、各国での食料増産や食料の安定的で公正な配分では取り組み強化が必要だ。新潟に続き2回目となるカザン会合では、食料増産政策の強化とともに、持続可能な農業の維持・発展に向けた国際協力や貿易ルール確立への力強いメッセージの発信を求めたい。

 食料価格は近年、高止まり状態にある。穀物・大豆価格をみると、08年の高騰前の06年当時に比べトウモロコシは約3倍、米や小麦、大豆は約2倍の水準にある。世界銀行と国際通貨基金(IMF)は4月に発表した報告書で、15年までに栄養不足人口の半減などを掲げた国連の目標について「国際的な食料価格高騰によって遅れがみられる」と指摘した。人口増加や異常気象の恒常化で、食料は今後も逼迫(ひっぱく)感を強めることは必至だ。

 日本国内では、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題が議論されている。関税全廃を原則とするTPPに参加すれば、食料自給率は13%に低下する。TPP参加は、政府が掲げる食料自給率目標50%に矛盾した政策である。人口・開発研究委員会(JA全中委託)の調査によると、日本がTPPに参加すれば、日本の米輸入が増加し「アジアの飢餓人口が2億7000万人増える」という。TPP参加は世界の食料安保の確立にも大きな影を落とす。

 食料は余剰時代が終わり、不足時代へと着実に時を進めている。食料問題は紛争の引き金を引く最大要因の一つだ。21世紀半ばには世界人口が90億人を超えると見通される中で、貧困、栄養不足、飢餓の解決なしに、世界的な平和の維持も人類の持続的な発展もない。食料安保確立の視点に立った食料増産政策の推進や「多様な農業の共存」が可能になる貿易ルールの確立に向かって、今こそ全世界が足並みをそろえるべきである。

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