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23rd May 2012 from Twitlonger

「TPPの真実を示し、冷静な選択を」
鈴木宣弘(東京大学大学院教授)

◎「情報収集のための事前協議」ではない

 TPP交渉の現状は、国内向けには、「情報収集のための事前協議」と言われているが、実際には、「実質的な事前交渉」が進んでいる。米国からは、TPPに入れてほしいなら「頭金」を払えと、自動車、郵政、BSE(狂牛病)など、「いちゃもん」のような懸案事項の解決を突き付けられている。例えば自動車についても、軽自動車の区分、車検、エコカー減税の廃止、米国社の日本車市場におけるシェアの目標設定・達成を要求し、郵政についても、民営化に逆行していると怒り、BSE(狂牛病)についても、つい先日、カリフォルニアで発症した牛が見つかったのに、輸入基準を緩めようと迫っている。まさに「言いがかり」に近い。
 それらをきちんと国民に示して議論し、「できないことはできない」と毅然と米国に回答すれば、TPPの正式参加はできなくなる。懸案事項が解決されたと米国が納得しないと、米国政府は議会に日本の参加承認を求める通告ができないからである。そこで、政府は、水面下の条件提示によって、これ以上の懸案事項の表面化を押さえ、国民には曖昧にしたまま、何とか折り合いをつけ、参加承認にこぎつけようと必死の交渉を行っている。「密約」が整ったタイミングで、日本の「決意表明」と米国議会への通告が行われようとしている。


◎国民不在の暴走-どう責任を取るのか

 各種説明会で政府から提出される文書には、TPPに対する懸念に対して心配の必要がないことを意図的に強調しようとする工夫があからさまである。質疑の回答も、懸念があることを認めるのは農林水産省のみで、あとは、まともに質問に回答しない。
つまり、国民に情報は出さないか、楽観的な観測だけを出して、曖昧にしておいて、気がついたら正式参加が決まった、という筋書きが進んでいる。国民生活に激変をもたらす重大な協定について、国民に知らせずに不意打ち的に決めるという政治手法は異常であり、「国会の批准のときに議論すればいい」ではすまされない。
水素爆発直後に人の命に直結する放射能情報を隠ぺいしたことは「殺人罪」に匹敵するが、TPP情報を意図的に隠し続けたことも、国の将来に誤らせかねない大罪である。こうした行為が、きちんと断罪されるシステムがないと、責任も問われずに、恐るべきことが繰り返されてしまう。


◎TPPは最も雇用を減らすFTA

 直接投資、サービス分野での自由化の徹底によって、ベトナムに攻めていくのがTPPの利益だという経済界の主張からわかるように、TPPは産業の「空洞化」を最も促進するFTAだから、日本人の雇用は減る。米国でも国民の69%がこれ以上雇用を失いたくからTPPも他のFTAも反対と言っている。
 「製造業だからTPPに賛成」というのは短絡的である。いったい誰の為のTPPなのか。一部の大企業とその資金に依存する一部の政治家、人事交流等で企業と一体化している一部の官僚、スポンサー料でつながる一部のマスコミが一体となって、さらに規制緩和を徹底し、多数が雇用を失い、食料や医療も十分受けられなくなるような格差社会を拡大することが、これ以上許されるのだろうか。「大店法」撤廃や派遣労働の緩和で、シャッター街が広がり、不安定で低い所得の若者が続出し、規制緩和の行き過ぎが見直されつつあるときではないのか。


◎もっとよい選択肢があることが伝わっていない

 「経済連携を進めて貿易拡大するためにはTPPしかない」わけではなく、目の前に、日中韓FTA(自由貿易協定)の年内交渉開始が5月に、日EUが6月にも、ASEAN+3(日中韓)が年内にも具体化しようとしていることを忘れてはならない。
 経済連携の選択肢の中で、TPPは、例外なき関税撤廃と日本独自の国内制度運営の制約という過去最大の衝撃を与えるにもかかわらず、得られる経済的利益は、内閣府の試算でも、ASEAN+3の半分、日中2国のFTAよりも小さい。つまり、TPPは失うものが過去最大で得るものが最小の「史上最悪」の選択肢なのである。


◎極論ではなく「中庸」を

 徹底的な規制緩和を断行し、市場に委ねれば、世界の経済的利益は最大化されるという論理は、単純明快だが、極めて幼稚である。突き詰めれば、政策はいらないのであるから、市場原理の徹底を主張する官僚も、政治家も、政治経済学者も、自分もいらないと言っているようなものである。
 既得権益を守るルールえ緩和すべきものはあるだろうが、すべてなくせばうまくいくというのは極論であり、現実的に適切な「中庸」こそが求められている。TPPという極論ではなく、ASEAN+3,日EUなど、日本に、アジアに、そして世界にとって、本当に均衡ある社会の発展につながる柔軟で互恵的な経済連携を具体化することこそが日本の使命なのではないか。もちろん、米国を排除するのではなく、米国が柔軟で互恵的な枠組みに入りたいというのなら歓迎であり、それはTPPの収束を意味する。

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