【TPP反対 現場は訴える】『”選択権”奪わないで いわて生協』|日本農業新聞4月29日

 岩手県滝沢村にある、いわて生協の店舗「ベルフ牧野林」。県都・盛岡市に近接する同店の平日の売り場には、子連れの若い女性客が目立つ。
 
 3歳と6カ月の2児の母親で、同店から程近い同市みたけ地区に住む主婦の神部友佳さん(31)が豆腐売り場に立っていた。パッケージの「遺伝子組み換え大豆は使用しておりません」という表記を確認してから商品を籠に入れる。「子どもが小さいから、原材料や食品添加物はいつも気にしている」
 
 神部さんは、政府がTPPに参加することを不安視する。健康への影響が不確かな遺伝子組み換え(GM)食品の表示義務が緩和されるとの懸念が理由の一つだ。
 
 「買い物するときは商品の表示の内容を見て、安全かどうかを判断する。消費者の選択の材料を奪わないでほしい」と幼い娘を抱きながら話した。



 いわて生協は、県内に12店舗を持ち、共同購入は毎週5万4000人が利用。会員数は20万7000と県内世帯数の4割に上る。TPP参加によってGM食品の輸入拡大や、残留農薬や食品添加物の規制緩和などが懸念されるとして、2010年11月にTPP参加に反対する声明を発表した。以降、県内のJAグループなどと連携し、署名活動や勉強会を行う。
 
・食の安全性 後退懸念 産直運動にも悪影響

 いわて生協は、食品の表示や添加物は使用基準などを独自に設定し、組合員の理解を得てきた。同生協独自の「アイコープ商品」では、非GM大豆を使った加工品には、豆腐の他に表示義務のないしょうゆや、店内で調理した総菜にも「遺伝子組み換えでない」と表示している。
 
 食品添加物は、①不必要な添加物は使わない②使う場合は最低限の量に限る③安全性に問題があるものは使わない―との考え方で、1996年から国より厳しい基準を設けて守ってきた。
 
 同生協の金子成子常務は「環太平洋連携協定(TPP)に参加すれば今まで積み上げてきた取り組みが大きく後退してしまう」と警戒感を募らせる。



 TPPの悪影響は、産直運動にも及ぶと懸念する。現在、いわて生協が取り扱う2割の農畜産物は、県内32の生産者団体との契約栽培によって供給されている。「農畜産物の関税撤廃によって生産者の離農が進めば、こうした運動も立ち行かなくなり、輸入食品が売り場や食卓になだれ込む恐れがある」(金子常務)からだ。
 
 同生協は輸入食品に苦い経験がある。農薬による中毒が発生した2008年の中国製冷凍ギョーザ事件だ。管内の一部店舗でも同じ商品を扱ったことがあった。健康被害はなかったが大きな混乱を招いた。その反省は忘れていない。以後、食の安全への意識とともに国産・県産への志向が高まった。
 
 生協で進める産直運動は、扱う農畜産物がどんな場所で作られているか確認する産地視察や、生産者との交流に支えられてきた。昨年は46回開催し、計1100人の組合員が参加した。
 
 牧野林店で買い物をしていた盛岡市みたけ地区の主婦・水沢歩さん(33)は言う。「生協の活動で被災地で頑張っている農家さんのことを知った。政府はなぜそうした人たちの心をくじくTPPを進めようとしているのでしょうか」

(宗和知克)

引用者注1:いわて生協HP⇒ http://www.iwate.coop/
注2:食品添加物についての入門書としては、安部司『食品の裏側』東洋経済新聞社2006年がある。東洋経済オンラインHP該当ページ⇒ http://www.toyokeizai.net/shop/books/detail/BI/9aa414438938f912c0c5077cdf4432fe/

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