【TPP反対 農業だけじゃない Part2②】『税理士 中小企業を守りたい』|日本農業新聞4月27日

 会合や懇親会、顧客への訪問・・・・・・。事あるごとに環太平洋連携協定(TPP)の問題点を関西弁で訴える税理士がいる。神戸市の坂井昭彦さん(46)だ。

 「TPPって知ってまっか」

 名刺の隅には「STOP TPP」の赤い文字。60代以上のベテラン税理士がそろう会議でも、手を挙げてこの問題について提起する。地域の経済動向を数字で把握する税理士だからこそ、地域の疲弊に直結するTPPを許してはならないと思う。

 これまでにTPPの問題を説明した人は数百人に上る。「それだけ、この国の根幹を変える一大事と思ってます」。大企業だけを優遇して、地場産業を空洞化させるような政策を見逃すわけにいかない。近畿一円の中小零細企業を顧客に持つ税理士として「TPPは国内の99%を占める中小企業にしわ寄せをもたらす」と、率先して警鐘を鳴らす。

 坂井さんのここ最近の睡眠時間は平均4時間。税理士業務に加え、寝る間を惜しんで、TPPに関する推進派・反対派双方の情報を、インターネットや論文、本、専門紙などから収集しているためだ。韓国語を話せる友人を通じ、ミニTPPといわれる米韓自由貿易協定(FTA)の情報も仕入れた。

 常に思いをはせるのは、海外進出した大手企業に簡単に下請け契約を打ち切られ、厳しい経営を余儀なくされる中小企業の顧客の姿だ。もしTPP交渉に参加すれば、地場産業の疲弊はさらに加速しかねない。「農業だけでなくサービスや労働、文化、技術など多くの国内産業が犠牲になる。セーフティーネットもないまま格差は一気に広がる」

 「平成の開国」「自由貿易」。TPP推進派が主張する「言葉の巧みさにだまされたらあかん」とぴしゃり。坂井さん流にTPPの危険性を訴え続けてきたことで、当初は「農業と製造業の問題」と受け止めていた顧客や税理士仲間も、少しずつ、耳を傾けるようになった。

 こうした地道な取り組みが実を結び、税理士業界には、着実にTPPへの危機感が広がり始めた。日本税理士会連合会は、3月に法務省に提出した意見書に「TPPを非常に危惧している」との文言を盛り込んだ。日本独自の税理士の資格制度がTPP参加によって、破壊される可能性があるためだ。税理士の業界紙などでもTPPの問題点を指摘する記事などが掲載されている。

 「税理士の顧客は、地域で地道に経営している中小企業。中小企業にとってTPPは死活問題となる。とにかく危険性を啓発して、守るべきところは守る大切さを広く伝えたい」と坂井さん。税理士の立場から反対の声を上げ続ける。

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