【TPPへの対応 各党幹部に聞く①】『民主党 櫻井充経済連携PT座長代理 自民党 大島理森副総裁』|日本農業新聞4月25日

・選択肢は他にもある:民主党 櫻井充 経済連携PT座長代理

 ―――TPPに関する民主党調査団の報告の要点は。

 交渉に参加する9カ国によるルール作りに、日本がどこまで関与できるかだ。タイミングの問題もあるが、調査結果では、完全に出来上がったものや、8割くらい方向性が決まったものについて、米国政府は「(ルール作りへの日本の参加は)遠慮してもらいたい」というニュアンスだった。日本が仮に交渉参加を表明しても、残りの部分しか関与できないということだと思う。

 米国もカナダも基本的には日本の交渉参加を歓迎する立場だったが、ルール作りへの参加の余地がどのくらい残っているかは残念ながら分からない。

 ―――党経済連携プロジェクトチーム(PT)では今後どういう議論をするのか。

 TPPについては賛否両論があるが、TPPや2国間を含めて日本が選ぶべき経済連携をどう考えるかだ。米国にとっては、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けた道はTPPしかない。これに対して日本は、TPPの他にもいろいろな選択肢がある。

・国家戦略の構築必要

 ――具体的にはどんな選択肢があるのか。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)に日本、中国、韓国を加えた「ASEANプラス3」や、この枠組みにインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた「ASEANプラス6」、日中韓などだ。その中で日本はどの枠組みで取り組むべきか。それとも他に新しい枠組みを示すのか。国家としての戦略やビジョンを検討したい。

 ―――TPPは全品目の関税撤廃を原則としているが。

 関税撤廃から除外できる例外品目を確保できるかは交渉次第だ。交渉入りの段階では全品目を自由化のテーブルに上げるが、例外は確保できるとみている。オーストラリアやニュージーランドは農産物で失う物はないだろうが、米国なら砂糖、カナダは乳製品など関税を撤廃できない品目を抱えている。最終的には完全に交渉次第だろう。

 とはいえ、日本がこれまで締結してきた自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)では全品目に占める関税撤廃品目の割合は90%以下だった。これに対して、世界各国によ る最近の経済連携は95%超を目指している。TPPに限った話ではないが、日本は今後も90%以下で経済連携を進めるのか、それとも高めるのかが問われる。

 カナダは守るべきものなどを明確に定め、戦略的に経済連携に取り組んでいる。一方、農水省はこれまで何を決めてきたのか。ガット・ウルグアイラウンド(多角的貿易交渉)の後で実施した6兆100億円の農業対策で何が変わったのか。ただ単純に全部反対ではいけない。古い体質を変えない限り、日本農業の再生はないと思う。JAグループもどうすればいいのか農業改革の道筋を考えてもらいたい。

 自由化を進めれば必ず痛みを伴う。痛みを手当てするために十分な予算を確保できるのか。また、農業分野の主力はやはり米だと思っているが、その次にどういう例外が必要なのかを議論すべきだろう。

 ―――公的医療保険制度などは守れるのか。

 民主党内でもまだ納得してもらえていないが、日本が仮にTPP交渉に参加したとしても公的医療保険制度は守れると思っている。米国とFTAを結んだカナダも堅持している。日本が高いレベルの経済連携に取り組む際は、国家主権を侵害し国益にかなわない内容なら絶対に首を縦に振らない、毅然(きぜん)とした国家としての全体像や戦略、交渉能力が必要だ。(聞き手・阪上裕基)



・日本中に疑念と不安:自民党 大島理森 副総裁

 ―――首相が訪米時に、TPP交渉への参加を表明するのではないかと懸念されている。

 TPPについて首相は十分な情報を開示せず、国民が訴えている問題点にも答えていない。国民的議論はおろか、農業者をはじめ国民全体に疑念や不安がまん延している。このような状況下で訪米し、参加を表明することはあってはならず、阻止しなければならない。

 首相は今、消費税増税で頭がいっぱいで、TPPについて深い洞察を持って判断できる状況にないと思う。だが、だからこそ怖い。「こうなったら日本はどうなる」「農業者はどうなる」かを考慮せず、なし崩し的に突っ込んでいく恐れがある。

 ―――自民党はTPPにどう対応するのか。

 政府が「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。この方針を柱に、交渉参加の是非の判断基準を決めた。

 われわれは政権与党時代、WTOや経済連携協定(EPA)の交渉には、政府と与党で基本方針を定め、その権限の中で政府が交渉してきた。


・関税全廃は認めない:大島副総裁

 ―――政権交代で交渉の方法が変わったのか。

 民主党政権では党の方針が政府を拘束しない。確かに、外交交渉権は政府にある。だが民主党は、国民の声を聞いて政治が判断するのが「政治主導」と訴えていたではないか。これでは外務省主導で、密室の中で実質的な交渉が進む。そういうやり方は断じて許されない。

 ―――参加国との事前協議の中で「農産物などの関税の90~95%を即時撤廃すべきという考えの国が多数ある」など、TPPの高いハードルがあらためて見えてきた。

 関税は一つの政策手段だ。日本がグローバル(地球規模)経済の中で生き抜いていくためには、世界を相手に物を売ったり、買ったりしなければならないが、関税を全部撤廃してもいいというわけではない。世の中に不要なものではない。われわれが与党の時にも関税を一定部分、削減する交渉をやってきた。だが「聖域なき関税撤廃」は関税自主権の放棄であり、認められない。

 関税以外にもTPPには国益を揺るがす多くの問題がある。住む、食べる、医療といった、日本人の生活の場はグローバル化できない。こうした部分までTPPの交渉分野に含まれれば、日本人が日本の国土の中で、安心して、希望を持って生きていけなくなる。

 また自動車の市場開放や遺伝子組み換え(GM)作物の表示、投資家・国家訴訟(ISD)条項などの問題についていえるのは、「郷に入らば郷に従え」という言葉だ。それぞれの国や市場には、長い歴史と文化の中でつくられたルールがある。自民党はこうした分野も「判断基準」の中に含め、安易な妥協をしないよう政府に求めている。

 ―――今、野田政権がすべきことは何か。

 国民の基本的な生活を守るのが国益であり、政治の役割。国民との対話の中で、懸念について一 つ一つ説明するのが責務だ。現状ではそれが全くできておらず、交渉参加の表明などでき る段階にない。無理に推し進めても国民の理解は得られず、国会で批准されることもないだろう。

 TPPには全ての関税を撤廃するなどの原則がある。それなのに日本が原則を持たずに事前協議に臨み、交渉参加の是非を判断するのは大変危険だ。民主党内にも慎重派の議員が多数いる。自民党のように、政府・与党でまず基本方針をまとめな ければならない。その上で国民的議論を呼び掛け、判断を仰ぐべきだ。(聞き手・岡部孝典)

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