【広がる危機感 4】『国民皆保険守れ 日医・横倉義武会長』|日本農業新聞4月24日

 国民が必要なときに、良質な医療を提供できる国民皆保険制度を何としても守り抜く必要がある。大きな負担を掛けずに、誰もが安心して医療を受けられる日本の医療制度を環太平洋連携協定(TPP)によって崩壊させてはならない。

 私が子どものころは公的医療制度が創設されておらず、農村部で医療を受けることは、そう簡単なことではなかった。農村の医師はより良い医療を住民に提供するために身を削って診療をしていた。当時、支払いができない農家はダイコンをお金の代わりに病院へ持っていくこともあった。

 医療がどれだけ人々にとって必要なのか。幼いころの経験から私は、国民皆保険の大切さ、地域医療の大切さを身をもって分かっている。国民皆保険は日本が世界に誇るべき制度だ。

・あやふやな政府

 米国は昔から貿易交渉で、日本の医療の在り方に対してさまざまな要求を続けてきた。

 TPPはその延長線上にあり、米国は日本の医療制度に大きな改革を求めてくるのではないかという疑念が拭えない。国民皆保険制度の他にも薬価制度の問題や混合診療の全面解禁、外国の医療機関の参入、医療の株式会社化など危惧していることは多々ある。

 資源の乏しい日本が経済成長をしっかり進めてこられたのは、過去の貿易交渉で守るべきところは守ってきたからだ。

 政府には、国民皆保険制度を守ることを確約してほしいと以前から求めてきたが、明確な、納得できる回答やメッセージは現時点までない。政府は国民皆保険制度を堅持するという強い意志を早急に示してほしい。

 JAグループは安全な食と農業を守るという視点から、われわれは国民の医療と健康を守るという立場から、それぞれ運動を展開している。JAグループと共に、TPP交渉への参加に反対する活動に取り組んでいる地方の医師会も多い。

 私の地元の福岡県医師会でも、いち早くJAグループと共同で行動を起こした。今後も一緒にやれるところはやっていけたらいいと思う。

・地域医療再興へ

 4月に会長に就任し最も力を入れたいことは、地域医療を再興させることだ。米国の医療は金持ちにとっては良いが、それ以外の人には非常に厳しい仕組みだ。

 日本は、国民皆保険制度があるから農村部でも大都市でも等しく医療が受けられる。しかし医師不足などで、大都市も地方も医療が疲弊している現状もある。各地域の個性に合った、そこに住む人にとって必要な医療を提供できる地域医療に立て直さなければならない。

〈プロフィル〉 よこくら・よしたけ

 1944年、福岡市生まれ。福岡県医師会長、日本医師会副会長を経て4月から現職。

(聞き手・尾木浩子)(おわり)

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