【TPP反対 現場は訴える】『小規模は壊滅的 山口県漁協』|日本農業新聞4月24日

 「多種多様な小規模漁業が壊滅的打撃を受ける。例外なき自由化を一方的に押し進める政策に断固反対する」

 日本のTPP交渉参加問題について、山口県漁協が16日に発表した見解だ。TPPで安い水産物が無秩序に輸入されれば、個々の漁業者が廃業するだけでは済まない。地域の水産業全体が崩壊しかねないからだ。

 アジやイカなど主な水産物の関税は現在、軒並み10%を切る。一方で、国産を守る防波堤として、特定の品目の輸入量を制限する「輸入割当制度」を維持している。例えば2011年度はアジ12万5000トン、イカ7万4950トンを上限に輸入を制限した。これが実質的に輸入との競合を抑え、国産を守っている。

 しかし関税の全廃を原則とするTPPでは水産物の関税の撤廃とともにこうした輸入制限の廃止も懸念される。また米国は漁業補助金の禁止も提案。補助金を使えなくなれば、東日本大震災の被災地の復旧・復興が進まなくなるのをはじめ国内の漁業が成り立たなくなるとの不安も広がる。

・TPPで努力 無に 安価・大量輸入に懸念

 環太平洋連携協定(TPP)への参加による影響を、山口県漁協の塩谷正人理事は「乱獲をしてでも、日本に大量に安い水産物を輸出してくる。とても太刀打ちできない」と指摘する。

 その懸念は、生産・流通・加工など水産業の現場も同じだ。

 県最大の水揚げ額を誇る萩市の県漁協萩地方卸売市場。近海で捕れたアジやハマチ、イカなどが並ぶ。取引は県内向けが中心だ。早朝3時からせりが始まり、大勢の仲買人でにぎわいを見せる。

 一方で竹中輝夫市場長が厳しい販売状況を明かす。「水揚げが年々減っているし、安値志向も強まっている。TPPに参加すれば、(安い輸入品への引き合いが強まり)地方の水産物の買い手がいなくなるのではないか」

 同市場の2011年度の水揚げ額は45億円。この10年で20億円も減った。燃料費の高騰と高齢化が影響し、漁に出る日数を減らしたり、小さな漁船に切り替えたりする漁業者が増えたためだ。不景気による単価下落や漁獲量の減少が加わり、さらに漁に出なくなる悪循環となっている。

 県漁協は稚魚の放流や休漁で資源を守ったり、「萩の瀬付きあじ」など独自のブランドで有利販売につなげたりしてきた。それだけにTPP参加は、こうした努力を無にすると警戒する。

 水産加工業や造船、資材メーカーなどの関連業者の多くも TPPに不安を持つ。萩市で干物を手掛ける(株)広松の廣瀬博之専務は「地元産を使うことで省コストや付加価値につなげてきた。外国産を使うとなれば大手との競合になる。勝負にならない」と話し、TPPをめぐる情勢に注目する。

 県漁協が国にまず求めるのは、漁業への影響の正確な説明だ。政府の姿勢は不十分だとして、JA山口中央会などと連携して反対活動を展開しながら情報収集にも力を入れる。

 塩谷理事は「TPPは漁村を崩壊させ、地域産業だけでなく文化も失わせる。国民の安全・安心を守ることを最優先に、国は、これからの漁業をどう振興するか考えるべきだ」と強調する。(山崎崇
正)

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