2019.2.10 Journal de Dimanche記事全文【ゴーン事件、日産を非難するルノーの書簡】


ゴーン事件、日産を非難するルノーの書簡
自動車メーカーの弁護士が日本の調査の「逸脱」を非難


何週間もの間、ルノーは沈黙していた。勾留中である会長の推定無罪の原則を尊重し、さらに、日産とのアライアンスの将来を維持するために。しかし、まひ状態から醒めたルノーは、水面下では、カルロス・ゴーンに対し日産が起こした行動に対して、活動していなかったわけではない。二社の関係は数週間の間に緊迫したものになった。我々が広範囲にわたり引用するこのショッキングな文書が、その証拠だ。
    これは、本件の発生から2ヶ月後の1月19日に、ルノーの弁護士事務所であるクイン・エマニュエル・アークハート・サリバンから、日産の弁護士事務所であるレイサムアンドワトキンスに送られた書簡だ。10頁の文書の中で、パリの法律家たちはまず、カルロス・ゴーンに対して行われたことについて、ルノーが十分に早い段階で、情報提供も、十分な主張もなされなかったことについて遺憾の意を示した。同弁護士らによると、それは、数十年間の協力関係を強固にするために2015年に二社の間で合意したRAMA (Restated Alliance Master Agreement) の精神を妨げるものである。
    たしかに、ルノーの弁護士は「ルノーと日産のアライアンス内で仮に悪事が起きていたならば、それについての調査には全面的に協力」すると表明した。しかし、彼らは調査の重大な逸脱を指摘し、「日産及び日産の弁護士による内部調査の手法とならびにルノーの従業員の対応の仕方についての重大な懸念」を表明している。
    彼らによれば、日産とレイサムは、後半の逮捕の後、アライアンスパートナーのルノーに報告することなく、フランスでカルロス・ゴーンに対する告発を補強する要素を探していた。同様に、日産とレイサムは、ルノーに知らせることなく、アライアンスの旧ボス(ゴーン)の、ブラジル、レバノン、オランダのマンションを捜索しようとも試みた、「ルノーの書類が見つかるかもしれないにもかかわらず」だ。そのため、告発さながらの声明(となっているが)、「ルノーは日産と日産の弁護士が、日本の検察庁によるルノーの従業員に対するインタビューを得るのに使った手法について、理解し非難するに足る十分な証拠を収集した」と書簡の書き手は主張する。彼らの職責を明示する前に、「日産は、ルノーあるいはルノーのコンサルタントに許可を求めることなく、ルノー従業員に電話やメールで直接接触した。これはアメリカ、フランス、そのほかいずれの国の規範や規則とも相容れない。日産の担当者は、検察庁の調整の下に行動していると名乗り、日産と日産の取締役会を、検察庁の延長であるかのように効果的に変質させた。日産は、要請を受けた従業員に対し、旅費と東京での宿泊費を支払うとの申出までも行った。」
 主張の裏付けとして、クインは12月14日から1月3日の日付の、クボヒデアキという人物とターゲットとされた従業員との間のメールのやり取りを引用する。「私は申立てのあったカルロス・ゴーンの罪の内部調査において、社長[西川廣人]と日産の取締役会の責任のもとで働いている。」12月14日、クボヒデアキからの最初のメールだ。
    「私はまた、カルロス・ゴーンを虚偽の有価証券報告書の件で逮捕し起訴した東京地検との調整役としての責任も負っている。検察の捜査の中で、捜査の助けになるかもしれない人物としてあなたの名前が登場した。検察はあなたから話を聞くことにとても関心を持っており、あなたに依頼するよう日産に求めてきた。インタビューを了承し、協力していただけると非常に嬉しく思う。あいにくだが、検察は対面でのみインタビューを行うことが可能だ。そのため、あなたが東京に来るのが望ましい。もちろん旅費と宿泊費は負担する。」
    従業員の反応は、彼が張られた罠にはまらなかったことを表している。
「ご存知の通り、私は5年以上前に日産を辞めた。」と彼は12月21日に書いた。「そうは言っても、私は捜査の証人として検察庁に力を貸すという原則に反対するつもりはない。しかし、この要求が日産からなされ、検察から直接行われたものではないことに私が驚いていることはお伝えしなければならない。これは通常のやり方なのか?ともかく、パリでの聴取(法的に可能であるならばビデオ会議でも)に応じる用意はある。ただし、当然ながら、正式な召喚が合法的な手段で行われるという条件で。」
    クボヒデアキは翌日の12月22日に長文でこれに返答した。「国際法の下では、検察庁は外国にいる人々に対し、電話やビデオカンファレスで直接質問する権限を有さない。」と彼は主張する。「それはその国の主権を侵害することになる。そういうわけで、関係のある会社が関係者を他国から日本へ連れてくることが慣例となっている。本調査のために、複数人がすでに日本に来て、帰国している。」
    クボは、ビデオ会議によるヒアリングは、日産の内部調査チームが法的な助言を受けて行い得るが、それは検察の捜査資料に頼ることができないだろうという。そこでクボはこの従業員に再度要請した。「最善の解決策はあなたがインタビューのために日本に来ることです。」

    クリスマスの祝祭も、日産の調査員たちを立ち止まらせることはなかった。カルロス・ゴーンの勾留を正当化するための要素が足りなかったのだろう。彼らには証言が必要だった。
    そこで12月27日、クボヒデアキは別のアプローチを試みた。日本とフランスの司法条約を尊重した法的手続きに時間がかかることに言及した上で、今度は、弁護士同席の下、内部調査員がビデオ会議による尋問を行うことを提案した。「参加することに合意してくれると非常にありがたく思う。」とクボは言う。「パリの適切な場所を選んで、お知らせする。質問者はコンプライアンスマネージャーのクリスティーナ・ミュレーと、弁護士のオカダ、モリ、ホンダです。」12月30日、不足していた情報が届いた。「場所はレイサムアンドワトキンスのパリのオフィスです。世界的な弁護士事務所です。」とクボヒデアキは書いた。
    「公的な法的手続き、つまり、日本とフランスの司法共助条約に従いたい。」同日、当該ルノーの従業員は返答した。「たとえ遠隔地からであっても、検察庁の公的な調査の妨げとなる可能性のあることを行なったり参加したりしたくない。ご理解いただけると思います。」
    不承諾という結論はこの日本人調査員(クボ)をいらつかせたようで、同日、彼は恫喝に近い主張で返信した。
 「検察の行う犯罪捜査のいかんを問わず、我々日産は、コーポレートカバナンスの文脈の中で、我々自身の調査を行い、真実を突き止め、適切な対応を行わなければならない。我々が必要とする情報の範囲は必ずしも検察のそれと同じとは限らない。これは我々にとって緊急の事項なのだ」、と述べて尋問の提案を正当化しようとした。「他の従業員やCFOらも含めた元幹部も、既に受け入れ、あるいは受け入れようとしている。今のところ、協力に応じないのはルノーのもう一人の従業員とあなただけだ。…検察はビデオ尋問のことを認識しており、検察の捜査の妨げになることを心配する必要はない。」

    それでも、2019年1月3日、このルノー従業員は、再度日産とレイサムのインタビューを拒絶すると連絡した。「あなたの最後のメールの内容には、誤解があるようなので、それを解きたい。何度もお伝えしたように、日本とフランスの司法共助条約の枠組みでならば協力する用意があるし、喜んでそうする。この条約は証言を得ることも含め、刑事上の事柄に関する二国間の協力を規律する確固たる枠組みを提供している。これが全ての関係者にとって最も安全で効果的な方法だ。」と伝えた。
 適切なアドバイスを得たのだろう、ルノー従業員は、次のように、自分の立場を主張する。「あなたは私に私的で非公式な調査に応じるよう提案している。私の理解が正しければ、あなたは私に、一人で、日産を代表する4人の弁護士チームの前で3時間座っているように要求している。不明確なプロセスでコーポレートガバナンスの活動の一環として行おうとしている。これは、あなたが最初のメールで言及したものとは異なる問題だ。現在日本で進行中の刑事手続には協力するつもりなので安心してほしい。しかし、それは条約の規定に従って公式の法的な手段によってなされなければならない。」
   この訓示的なやり取りが、フランスの弁護士に次のような厳しい批判コメントをさせるに至った。「国際協定の枠組みから外れてルノーの従業員にインタビューすることは、フランス法に違反する。」と彼らは書いた。ちなみに彼らは、日産がルノー従業員に、1月1日にインタビューがあると12月31日に知らせたことも残念に思っている。
 しかし、メールはそこで終わらない。カルロス・ゴーンの社長辞任から数日後、ルノーの弁護士らは、不満の原因を全てまとめて、徹底的に攻撃することを決めた。彼らは日産がルノーに知らせることなく、ルノーアライアンスで働く幹部の報酬を調査したことに驚いている。また、レイサムアンドワトキンスの利益相反についても指摘している。「ご存知の通り、レイサムアンドワトキンスは日産の役員報酬の方針に深く関与している。それはカルロス・ゴーンに対する容疑の根拠となるものだ。」と彼らは指摘する。「レイサムは日産の取締役会で様々な事項についても助言を行なっていた。」
 最後の標的はハリ・ナダ、日産でカルロス・ゴーンの執務を率いていた人物だ。
    メールを書いた人物は、ハリ・ナダが1月11日にルノーの社長であるティエリー・ボロレに対してメールを送り、日産でカルロス・ゴーンに近い立場にあったホセ・ムニョスの辞任を伝え、「ルノーのいかなる社員も幹部も日産あるいはアライアンスに関して話し合うために接触してはならない」と要請したことを知り驚愕した。ナダは内部通報者のうちの一人、つまり、ゴーンに対する反抗の引き金を引いた人物のうちの一人だとされている。そのため弁護士らは、ナダが本件で日産を代表する立場で長期間関与していることは、調査の動機と客観性について疑問を投げかけるものだと考えている。「中立的な事実調査というよりは政治的キャンペーンのようだ」と弁護士らは抗議する。
 この書簡が送付されてから、ジャン・ドミニク・スナールがルノーの会長に就任した。彼はアムステルダムと東京において日産との対話の再開に臨む。対話の目的は、この数週間で起きた出来事によって弱められたアライアンスを救い再生させることだ。対話は再開されたが、課題は計り知れないほど大きそうだ。

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