ベヴァリースミスさんの羽生くん記事全訳です。⭐️注意⭐️現地でのファントラブルなどについても記事になっているのでそれが不快な方は読まれない方が良いかと思います。


羽生-完璧ではないが冷静

2度の五輪金メダリスト、羽生結弦が滑らかに氷の上を滑走するのを眺める時、さまざまな事象を体感する。

これが、日本からのファンが大挙してチケットを買い求め長旅を経て観戦にくるほど惹きつけられる理由かもしれない。早い者勝ちの席取りのため、ドアの前で徹夜するファンも見られた。
金曜の朝7時頃にはファン同士の諍いが原因で警察が呼ばれることになった。場所取りのために留置した小物をだれかが動かしたのがその理由だ。

苛立ちは次第に収まり、羽生がSPで注目の舞台に立った。彼が五輪二連覇を達成して以来初めて、世界は彼がこの地味なオータムクラシックで競技するのを目にした。
このチャレンジャーシリーズの試合に羽生が出場し始めて四年、この試合は彼の初戦を観に来る試合としてその名をあげることとなった。

そして、彼は97.74点で16歳のチャジュンファンに7点差をつけいとも簡単に首位に立った。さらに、これはCSspの点を一切得られなかったうえでのことだ。スピンへのエントリーがぎこちなくなり、回転不足はスピンをノーバリューにしてしまうのだ。どのスピンでも、足替えは最低3回転のスピンに挟まれていなければならない。

羽生は音楽を感じられていなかった、と話す。
ブライアンオーサーコーチはこう話す。
「スピンは簡単に修正できます。だから気にしていません。それにジェフリーバトルの振り付けたこのプログラムにはとても満足しています。とても美しいプログラムだと思う。僕たちは大丈夫だと思います。例年のこの時期に比べれば、いい軌道に乗っている。」

ディブラジオの「オトナル」に載せて、羽生は優しげに、繊細な腕使いでこれまでの型を破ってみせた。彼は冷静に見えたが、ジャンプはいつもの堅牢さを欠いた。終了後にはプーの雨が降った。

試合前に、羽生はこの試合では4Lo、4S、4Tまでを行うと話していた。さらにその前には、GOEで加点がもらえる出来であれば、前人未到の4Aもレパートリーに加えたいと話した。

オーサーは、
「レーダーには載っている、と言っておきましょう。彼が心からやりたいと思っていること。誰かがやるとしたら、彼しかいないでしょう。」
と話した。
このジャンプには多大なパワーとスピードが必要だ、とも話し、羽生がこのジャンプを跳ぶには強さを培うことが必要という。練習では試してみたそうだ。
「賢くならなくてはいけません。充分な強さがあることを確認しなくては。今現在の彼はこの試合と、プログラムを滑りこなすことに専念しています。」
「時に、我々は一つのジャンプにこだわりすぎてしまう。数年前は4Loだった。去年は4Lz。時にこういったジャンプは人生を乗っ取ってしまうので、今はコンディショニングとプログラムを滑り込むことに集中しています。」

4Lzは五輪シーズン、羽生に惨劇をもたらした。五輪にわずか週単位しかないという時期の挑戦中に足首に怪我を負ったのだ。

羽生はおそらく想像を絶するほどの障害を乗り越えて金メダルを獲得した。五輪までの数週間、彼はオーサーに感情を露わにすることは無かったという。
「あれは、彼の状況を僕がただ理解していて、そして僕が理解していることを彼も知っている、通じ合うという類のものでした。彼をサポートするためにそこにいた。彼がどう感じているか、そして思うようにトレーニングできない苛立ちも感じ取っていました。夏の間にたくさんトレーニングを積んでいたので、その貯蓄がありました。」
だがオーサーは二人とも共に戦うことができたと言う。
「彼は前をつねに向いていました。そして五輪に行き必ず勝つ、と強く決意していた。」

オーサーも、手に余る仕事だと感じたことはあったであろう。
「僕自身にとっては手の届かないことに思えました。でも、ユヅだから、と思い出し、手が届かないことはないと気づいたのです。彼は本当に卓越した人で、意志が強い。あれほどの落ち込みから、必要な時に力を発揮する能力はアスリートとしても例を見ないほどです。」

羽生は、今は大きな怪我や故障を抱えてはいないと言う。怪我がないように見えるとオーサーも同意した。
羽生はインタビューで
「今は恐れや躊躇もなく、肩の力を抜いて練習できています。」と通訳を通じて話した。
今週の彼の目標は、ひとつひとつのエレメンツを研ぎ澄まし、自分のやっていることを確認していくことだと話す。彼は本当に、ここに新しいプログラムを試しに来たのだ。

実際のところ、羽生はこれまでになく逞しく見える。オーサーも、彼がこんなに早い時期にここまで良いコンディションでいるのは初めてのことだと話す。
日本での夏のショーを終えてトロントに戻ってから、練習に専念してきた。確実に、3ヶ月半のトレーニングを積んできたのだ。
「五輪の前にはそれほど時間はなかった。」とオーサー。
オーサーは、彼があの実績を達成した後でもただスケートや練習へのモチベーションを保っていることを誇りに思っているという。
「彼は最近とても機嫌が良くて、幸せそうです。とても冷静で、それはトレーニングにおいてもです。ランスルーでも穏やか。とてもいい心持ちでいるように見える。五輪金メダルを二度獲得しました。彼のスケートの今の目的は、彼のスケートへの愛で、彼は競技会で戦うことも好きですし、五輪の重圧もない。肩の重さがすっかり取り除かれたようです。」

彼らの関係性は興味深い。
ひとつには、SPでジャンプをすべて前半に飛ぶのだが、これはトップ選手では異例のことだ。後半にはひとつも飛ばない。何故?
「これはユヅの戦略です。だからユヅに聞いた方が良い。」とオーサーは答えた。
「僕らの関係においては、時に彼にリードを任せることもあります。」
羽生とバトルで戦略を相談したという話もある。

羽生がSPでのミスをFSに引きずるとは考えにくい、と共にトレーニングするジェイソンブラウンは話した。彼の集中力は凄まじいのだと。
ブラウンは言う。
「これは決意の強さ。彼の、ジャンプをミスして転んでも、すぐに立ち上がって、ドン!と次のジャンプは成功させる、そういうところを本当に尊敬しています。うじうじしない。集中力。彼は起きてしまったことをその場に置いて、何事も無かったかのように前に進むことができるんです。」
「本当にすごいことですよね。」

(終)

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