★友好的で健全な日韓日中互恵関係を構築すべきー(植草一秀氏)

日韓関係が揺れている。日本側が少女像を撤去しないことを批判するが、

2015年12月28日の日韓外相による行動発表で、

韓国が少女像の撤去に合意したわけではない点についての認識が必要である。

日本政府は韓国の日本大使館前に設置されている従軍慰安婦少女像の撤去を

韓国政府に求めているが、この点が日韓外相発表では明確になっていない。

私は本ブログ、メルマガに以下の記事を掲載してきた。

2015年12月29日付ブログ記事「日韓合意、日本政府謝罪明記でも玉虫決着」
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-99db.html

メルマガ記事「日韓合意あいまい決着が問題を再燃させる懸念」
http://foomii.com/00050

2017年1月9日付ブログ記事「問題根源は2015/12の日韓玉虫合意文言にある」
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/201512-1af0.html

メルマガ記事「惨憺たる安倍外交現実の根本原因」
2017年1月10日付ブログ記事「大事なことを曖昧にするから災いが生じる」

メルマガ記事「あいまい公約と裏切る人物が政治をダメにする」

重要なことを決定する際に何よりも重要なことは、

「あいまいさを残さないこと」である。

大事な点をあいまいにするから、あとでもめる。

大きな問題を残さないためには、決めるときに、

重要な部分を客観的な明瞭さを確保することが重要である。

2015年12月の日韓外相発表では、

日本側がこだわるもっとも重要な部分についての記述があいまいであった。

つまり、日本側の要求が明確に満たされぬまま外相発表を行っているのである。

そのことが、その後に明らかになった。

日本政府は韓国政府が合意を守っていないと批判するが、これは筋違いである。

日韓外相発表の文言を読む限り、

少女像の撤去について、韓国側は明確な決定を示していない。


日韓外相発表では、日本の岸田文雄外相が次のように発表した。

日韓間の慰安婦問題については、

これまで両国局長協議等において集中的に協議を行ってきた。

その結果に基づき、日本政府として以下を申し述べる。

一、慰安婦問題は当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を

深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。

安倍首相は日本国首相として、改めて慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、

心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、

心からおわびと反省の気持ちを表明する。

二、日本政府はこれまでも本問題に真摯(しんし)に取り組んできたところ、

その経験に立って、今般日本政府の予算により、

全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。

具体的には、韓国政府が元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、

これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、

日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、

心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

三、日本政府は以上を表明するとともに、

以上申し上げた措置を着実に実施するとの前提で、

今回の発表によりこの問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。

併せて、日本政府は韓国政府と共に、

今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難、批判することを控える。

なお、先ほど申し上げた予算措置については、

規模としておおむね10億円程度となった。

以上のことについては、日韓両首脳の指示に基づいて行ってきた協議の結果であり、

これをもって日韓関係が新時代に入ることを確信している。」

これに対して、韓国の尹炳世外相は次のように表明した。

韓国政府として以下を表明する。

一、韓国政府は日本政府の表明とこのたびの発表に至るまでの取り組みを評価し、

日本政府が先に表明した措置を着実に実施されるとの前提で、

このたびの発表を通じて、

日本政府と共にこの問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。

韓国政府は日本政府が実施する措置に協力する。

二、韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、

空間の安寧、威厳の維持といった観点から懸念しているという点を認知し、

韓国政府としても可能な対応方法に対し、関連団体との協議等を通じて

適切に解決されるよう努力する。

三、韓国政府はこのたびの日本政府が表明した措置が着実に実施されるとの前提で、

日本政府と共に今後、国連など国際社会において本問題に対する相互非難、

批判を自制する。


日本政府は外相発表にある「最終的かつ不可逆的に解決される」ことを強調し、

韓国政府が少女像の撤去に責任を持つべきであるとの主張を示すが、

発表文書では、少女像の撤去を韓国政府の責任とはしていない。

少女像の撤去について尹炳世外相が表明した言葉は、

「韓国政府としても可能な対応方法に対し、関連団体との協議等を通じて

適切に解決されるよう努力する」

というものであって、韓国政府は少女像の撤去を義務付けられていない。

したがって、「10億円を拠出したのだから、韓国政府は責任を持って

少女像を撤去するべきである」との主張は正当性を持たないのである。

日韓外相発表で、韓国政府発表の文書の第二について、

「二、韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、

空間の安寧、威厳の維持といった観点から懸念しているという点を認知し、

韓国政府としても可能な対応方法に対し、関連団体との協議等を通じて

適切に解決されるよう努力する。」の後半部分が、

「韓国政府としてその撤去に責任を持つ」と表記されていたのなら、

日本政府は韓国政府に少女像の撤去を求め、

それを履行しないことについて批判を展開するべきである。

しかし、合意内容が「関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努力する」

となっているのでは、「結果」について日本政府が強く批判することは不可能である。

日本政府の説明は、あたかも韓国が日韓合意を

一方的に踏みにじっているかのようなものになっているが、これは適切でない。

そもそもの問題は、合意の段階で、

もっとも重要な部分をあいまいに決着したことにある。

この点を直視せずに、一方的に相手を非難するのでは良好な外交関係を

築くことはできない。日本政府はこの点を謙虚に認識するべきである。


あいまいな決着のもう一つの事例は沖縄基地問題での選挙公約だった。

2014年12月の沖縄知事選に際して、

沖縄県政野党5会派は知事選候補者選定に際して、

「埋め立て承認を撤回し、政府に事業中止を求める」ことを条件に掲げていた。

ところが、元自民党所属の翁長雄志氏を「オール沖縄候補」として擁立することに

際して、公約は「新しい知事は埋め立て承認撤回を求める県民の声を尊重し、

辺野古新基地は造らせません」に変化した。

最大の変化点は、「埋め立て承認撤回」を公約として明記しないことに

変更した点である。

辺野古基地建設を阻止するには、新知事が「埋め立て承認取消」、

「埋め立て承認撤回」という措置を、迅速に打ち出すことが必要であった。

このことは、いまでも変わらない。

しかし、翁長雄志氏は公約に「撤回」を明記しなかったことを守り、

現時点でも埋め立て承認の撤回に踏み切っていない。

このために、沖縄県名護市辺野古では、米軍基地建設が進行している。

最大のポイントは、沖縄県が本体工事着工に必要な「事前協議書」を

受理したことである。沖縄県が「事前協議書」を受理していなければ、

沖縄防衛局は辺野古米軍基地建設の本体工事に着工できていない。

つまり、辺野古米軍基地建設は現時点でもほとんど進行させられない状況に

留め置くことが可能であったと考えられるのだ。

しかし、2015年7月、事前協議書が沖縄防衛局から沖縄県に提出されてしまった。

沖縄県が埋め立て承認取消に動いたのは、

事前協議書が提出されたあとの2015年10月である。

客観的に見ると、沖縄県は事前協議書が提出されるまで、

埋め立て承認取消に進むのを待ったと見える。

国は辺野古米軍基地建設の本体工事に着手し、その後、着々と工事を進行させている。


「辺野古に基地を造らせない」ことを実現するために、

もっとも有効と考えられる手法が「埋め立て承認取消」と「埋め立て承認撤回」を

迅速に実行することであった。

だからこそ、辺野古基地建設を阻止しようとする勢力は、

2014年の知事選に際して、「埋め立て承認を撤回し、政府に事業中止を求める」

ことを公約に盛り込むことを求めていた。

ところが、基地建設容認と見られる勢力を知事選共闘勢力に引き込むために、

公約を「あいまい化」した。

その結果、翁長氏の公約から「埋め立て承認撤回」、「埋め立て承認取消」を

明記が消えたのである。

実際に翁長知事は知事に就任してからも、

埋め立て承認取消に進むまでに多大の時間をかけた。

その「時間」によって、国は辺野古米軍基地建設本体工事着手を

実現することができた。

国は猛烈なスピードで辺野古米軍基地建設を進捗させている。

「辺野古に基地を造らせない」ことを可能な限り実現するには、

2014年知事選の段階で、「埋め立て承認撤回」、「埋め立て承認取消」を

公約に明記しておくことが必要だった。

その公約に基づき、新知事就任と同時に「承認取消」、「承認撤回」に

進んでいれば、辺野古の現況はまったく違うものになっていたはずだ。

それでも、翁長氏は「辺野古に基地を造らせない」ことを公約にして

知事選に出馬した。

したがって、本年秋の知事選においては、

この公約が実現したのかどうかで評価が下されることになる。

「承認取消」や「承認撤回」を迅速に実行していれば

状況がまったく異なったと考えられることを踏まえて、

翁長氏の実績を評価することが重要になる。


韓国は北朝鮮との対話を始動させる。

北朝鮮の問題を解決するには、当然のことながら外交解決の道も模索する必要がある。

米国も北朝鮮との対話について、その可能性を示唆しており、

単純な圧力一本やりの手法は危険である。

韓国が北朝鮮との対話姿勢を示し、米国も北朝鮮との対話可能性を示唆するなかで、

日本の安倍首相だけが圧力一本やりの姿勢に終始するのは適切でない。

拉致被害者の家族も同じ思いである。大事なのは結果である。

より良い結果を引き出すためには、ありとあらゆる可能性を模索する必要がある。

北朝鮮はイラクの事例を念頭に置いている。

米国はイラクに対して、「大量破壊兵器を保持している」として

軍事侵攻に踏み切り、イラクを破壊し、サダム・フセインを処刑した。

しかし、実際にイラクから大量破壊兵器は発見されなかった。

北朝鮮は放置すればイラクの二の舞になると予測している。

そのために、核開発強行に突き進んでいる。

このような情勢下で、「圧力一本やり」の外交姿勢は、

偶発事態を招来するリスクを伴う。

対話を含めたあらゆる手法を駆使しての外交努力が求められている。


日本と中国と韓国は東アジアの最重要国である。

この三国が、相互信頼関係を築き、健全な友好関係を構築することが

東アジアの平和と安定に資することは言うまでもない。

ところが、安倍首相の姿勢は、対米隷属の一方で、嫌中、嫌韓の姿勢を

露骨に示すものである。

これでは、友好的で健全な東アジア関係を構築することができない。

韓国、中国と、未来志向の互恵的な健全外交関係を構築するための努力が

求められている。

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