★「辺野古に基地を造らせない」公約の深層ー(植草一秀氏)

2月4沖縄県名護市長選挙が実施される。

「辺野古に基地を造らせない」という翁長雄志沖縄県知事の公約を守るために、

名護市長選挙での稲嶺進現市長の三選は必要不可欠な条件である。

「辺野古に基地を造らせない」が沖縄県民の総意であるなら、

この選挙で改めてその意思を明確に示すことが必要になる。

これに対して、辺野古米軍基地建設を強引に推進する安倍政権は

名護市長選勝利に向けて総力戦のスタンスを示している。

名護市長選で現職の稲嶺進氏が敗北すれば、

辺野古基地建設阻止の運動にとっては極めて大きな影響が生じる。

本年11月には沖縄県知事選も控えている。

安倍政権は目的のためには手段を問わぬ手法で、名護市長選挙に対応している。

辺野古米軍基地建設を阻止するために、名護市民は明確な判断を示すべきだ。

政治権力の力に押されて、

日本政府による沖縄での米軍基地建設容認の意思表示をするべきではないと思われる。

安倍政権は名護市長選挙で現職の稲嶺進氏を打倒するために、

総力を結集していると見られている。

安倍政権が推進していると見られる対応は以下の三つである。

第一は、公明党・創価学会の全面協力を得ること。

第二は、官房機密費の投入。

第三は、民間広告代理店の協力を得ることである。

さらに、辺野古米軍基地工事で砂利を投入する業者の協力を得ることも

推進されていると見られる。

自民党幹事長の二階俊博氏と安倍政権の官房長官である菅義偉氏が

観光関連予算とIR(カジノ)関連政策を牛耳っていると見られ、

この2名が沖縄対策に深く関わっている。

安倍政権与党は自民系元市議の渡具知武豊(とぐちたけとよ)氏の擁立を

決めており、公明党も渡具知氏の推薦を決めた。

自民党サイドの選挙情勢調査では渡具知氏がリードしているとの結果が得られている

模様で、残り1ヵ月となった選挙戦に、安倍政権陣営は総力を結集する模様である。

渡具知氏は実際には米軍基地の辺野古移設に賛成であると見られるが、

選挙戦では、海兵隊の県外・国外移転を求めるとの方針を示す模様である。

しかしながら、現職の稲嶺進氏が名護市辺野古での米軍基地建設に反対を

明確にしており、この現職市長に対して安倍政権与党サイドが

対立候補を擁立するのは、辺野古米軍基地建設を推進するためであることは

明白である。名護市長選結果は辺野古米軍基地建設問題に直結し、

さらに11月の沖縄県知事選にも重大な影響を与える、

本年の最重要選挙のひとつである。

「辺野古に基地を造らせない」陣営の総力を挙げての対応が強く求められている。

沖縄県知事の翁長雄志氏は、2014年11月の沖縄県知事選に際して

「辺野古に基地を造らせない」ことを「公約」とした。

安倍政権が辺野古に基地を造らせる方針を示しているため、

「辺野古に基地を造らせない」公約を実現することは容易でない。

基地建設を阻止するための、ありとあらゆる対応策を、

間断なく打ち続けなければならない。

その基地建設阻止に、もっとも有効な方策が、埋立承認の取消と撤回である。

2014年の知事選においては、

そもそも沖縄県政野党5会派が知事選候補者選定に際して、

「埋立承認を撤回し、政府に事業中止を求める」ことを条件に掲げてきた。

ところが、この「公約条件」が「新しい知事は承認撤回を求める県民の声を尊重し、

辺野古基地を造らせない」に変化して

翁長雄志氏を基地建設反対勢力の統一候補とした経緯がある。

何が変化したのかと言えば、

「埋立承認撤回」を公約に明記することが回避されたのである。

埋立承認の撤回については、2014年9月13日の共産党、社民党などとの

「沖縄県知事選挙にのぞむ基本姿勢および組織協定」において、

「新しい知事は埋め立て承認撤回を求める県民の声を尊重し、

辺野古新基地は造らせません」と明記している。

「公約」化はしなかったが、「撤回」の重要性は当初から強く認識されていた。

この点は2014年秋以降、本ブログ、メルマガに繰り返し記述してきた核心である。

翁長雄志氏は、2014年9月13日の知事選出馬記者会見において、

「撤回・取消」を公約に明記しない理由について、記者から繰り返し質問を受けた。

これに対して、翁長氏は「逆ギレ」と表現される対応を示した。

「今大議論となっている翁長市長、県知事選出馬記者会見2」
https://www.youtube.com/watch?v=aZEIXJRXFiY#t=421
4分45秒~6分45秒の部分

翁長雄志氏は、「埋立承認撤回」を公約に明記しない理由について、

記者から繰り返し問われて、次のように答えている。

7分5秒~8分31秒の部分

翁長:「まあ、同じ話をしますけれども、保守と革新がですね、

一緒にこの知事選を戦うということになってね、腹八分腹六分で

いまやろうとしてですね、いまこうしてね、気持ちよく、固い契りを結びながら、

やろうとしているんですね。」

つまり、「腹八分腹六分」の結束だから「埋立承認撤回」を

公約に明記することはできないと言うものだった。

しかし、2014年11月の知事選で当選を果たした翁長氏は、

当選後初の同年12月17日の県議会定例会で、

「法的に瑕疵があれば取り消し、そうでなければ新たな事情の変化で

撤回につながっていく」、

「知事選で示された民意は埋め立て承認を撤回する事由になると思う」と述べている。

しかし、承認取消が実行されたのは2015年10月、

承認撤回はいまだに実行されていない。

辺野古米軍基地建設進展の最大の核心は、

本体工事着工に必要な事前協議書を沖縄県が沖縄防衛局から受理したことにある。

これによって、辺野古米軍基地建設が猛烈なスピードで実行されている。

事前協議書を受理する前に、沖縄県が埋立承認の取消を行い、

それが裁判所によって破棄されたら、直ちに埋立承認の撤回に進む。

これが、「辺野古に基地を造らせない」ための唯一の方策であった。

しかし、現実には、沖縄県は辺野古米軍基地建設の本体工事着工を許し、

もはや基地建設が既成事実化されるところにまで事態を変化させてきたのである。

11月の知事選では、翁長県政を総検証が必要になるが、

その前に、名護市長選で稲嶺氏が敗北すれば、

基地建設阻止の流れが一気に弱体化してしまう。

辺野古基地問題の最大の正念場が2月4日の名護市長選になる。

オールジャパンで辺野古基地建設阻止に向けての運動を盛り上げる必要がある。

2015年7月5日付日本経済新聞朝刊に驚くべき記事が掲載された。

『日曜に考える』「政府・沖縄 対立深まる基地問題」と題する特集記事のなかで、

宮城篤実前沖縄県嘉手納町長へのインタビュー内容として紹介された

宮城氏の発言内容である。

同紙によると、宮城氏は沖縄県嘉手納町長を20年務めた人物で、

翁長雄志知事の後援会長を務めている(当時)人物である。

驚くべき内容とは、「移設反対が知事の公約」というものだ。

翁長氏が知事選で約束したのは、「辺野古に基地を造らせない」だったが、

宮城氏は、これを否定して「移設に反対することが知事の公約」だと

発言したのである。宮城氏はインタビューのなかで次のように発言している。

「日本国民全体として判断して沖縄に

『この程度は何とかしてほしい。その負担に応えて支援をしましょう』

ということで、何らかの妥協点が示されるならば、

基地をゼロにしろと言うつもりはない」

宮城氏はインタビューで、さらに「辺野古への移設を阻止できると思いますか」の

質問に対して、こう答えている。

「相手は国家権力だ。辺野古での工事が完了し、

日米で使用を開始するとなったときにそれを止める方法は県にはない。

しかし、それで翁長知事が負けたことにはなるとは思わない。

知事は権限の範囲内で精いっぱいやればよい」

翁長雄志氏が2014年9月13日の記者会見で述べた「腹八分、腹六分の結束」

という言葉の意味をよく考える必要がある。

翁長氏は元々自民党所属の人物である。

2014年11月の知事選では、革新勢力と保守勢力が共同して翁長氏を支えて

知事選に臨んだ。「オール沖縄」の戦いが展開されて、翁長氏が知事選に勝利した。

革新勢力は、当然のことながら、「辺野古米軍基地建設阻止」を最大の争点に掲げた。

そして、辺野古基地建設阻止に実効性をもたらすには「埋立承認撤回」が

必要不可欠であることを明確に指摘していた。

しかしながら、翁長氏を統一候補として擁立する最終段階で、

「埋立承認撤回」を公約に明記することを断念し、

「辺野古に基地を造らせない」という表現が公約とされたのである。

「埋立承認撤回」については、

2014年9月13日の「沖縄県知事選挙にのぞむ基本姿勢および組織協定」

において、「新しい知事は埋め立て承認撤回を求める県民の声を尊重し、

辺野古新基地は造らせません」と明記されたにとどまった。

つまり、翁長氏支持の「オール沖縄体制」とは、

実質的に基地建設容認の保守勢力と基地建設阻止の革新勢力の「呉越同舟体制」

だったのである。このために、「埋立承認撤回」を明記できず、

「辺野古新基地を造らせない」の公約が示されたのである。

そして、保守陣営は、当初から、

「辺野古に基地が造られても、翁長知事が負けたことにはならない」

としてきたのである。

知事ポストを確保することによって、さまざまな行政利権が発生する。

この利権を最重視する勢力が確実に存在するのである。


翁長雄志氏は、高江のヘリパッド建設に対しても、

明確な反対の意思を表明してきていない。

高江のヘリパッド建設強行に対して、住民が抵抗運動を示したときに、

安倍政権は機動隊を大量動員して住民の反対運動を排除した。

しかし、沖縄県警を指揮する立場にある沖縄県公安委員会に対して

最大権限を有するのは沖縄県知事である。

知事権限で対応できることがらは無数に存在したが、

翁長知事は安倍政権の強硬姿勢に対して有効な抵抗を示さなかった。

翁長氏は「あらゆる手法を駆使して辺野古に基地を造らせない」と発言してきたが、

本当に「辺野古に基地を造らせない」意思を有するなら、

知事就任後、直ちに埋立承認を取り消し、法廷闘争で敗れたら、

間髪を入れずに埋立承認の撤回に進むことが、

唯一にして最大の方策であったことは明白である。

沖縄県が辺野古米軍基地建設本体工事着工に必要な事前協議書を受理していなければ、

沖縄防衛局は辺野古米軍基地建設の本体工事に着工できていないはずだ。


安倍政権が辺野古米軍基地建設を推進している以上、

辺野古米軍基地建設を完全に阻止することは困難である。

安倍政権は人事権を濫用することにより、裁判所を実効支配してしまっている。

最高裁が安倍政権の意向に反する判断を示す可能性は、

現時点では皆無であると言ってよい。

沖縄県にできることは、時間を稼ぐことである。

一秒でも辺野古米軍基地建設を先送りして、時間を稼ぐ間に、日本の政権を刷新する。

これが、辺野古米軍基地建設を阻止する唯一の道であると考えられる。

本当に「辺野古に基地を造らせない」意思があるなら、

「埋立承認取消」と「埋立承認撤回」を基軸に対応し、

これに加えて、あらゆる手法を駆使して、

米軍基地建設を一秒でも先送りさせるしかないのである。

しかし、残念ながら、そのような対応は取られてこなかった。

翁長雄志氏にその意思があるなら、知事選の段階で、

公約に「埋立承認撤回・取消」を盛り込むことを快諾していたはずである。

しかし、「腹八分・腹六分の結束」であればこそ、

撤回・取消を公約に明記することはできなかったのだ。

たしかに県政を獲得することはできた。

しかし、辺野古に基地が造られることを容認するなら、

結局は、県政利権、知事利権が自公サイドからオール沖縄サイドに

移転しただけに過ぎないということにはならないだろうか。

辺野古に基地を造らせないために、体を張ってきた人々だけが、おいてけぼり、

肩透かしを食らうことになりかねない。

2014年11月1日に沖縄県那覇市で開催された

「オナガ雄志うまんちゅ1万人大集会」に出席した菅原文太さん(故人)が

スピーチで次のように語った。

「(仲井真知事は)いま、もっとも危険な政権と手を結んだ。

沖縄の人々を裏切り、公約を反故にして、辺野古を売り渡した。」

そして、映画『仁義なき戦い』の最後に登場する、

『山守さん、弾はまだ残っとるがよ。一発残っとるがよ』というセリフを

仲井真氏にぶつけて、「仲井真さん、弾はまだ一発残っとるがよ」と述べた。

しかし、この言葉は仲井真氏だけに振り向けられた言葉ではなかったはずである。

翁長雄志氏が、「最も危険な政権と手を結び、沖縄の人々を裏切り、

公約を反故にして、辺野古を売り渡す」なら、

そのときには、「翁長さん、弾はまだ一発残っとるがよ」になるよと、

翁長雄志氏に警告を発したのではなかっただろうか。

翁長氏の後援会長は、知事選の直後から、

「辺野古に基地を造られても翁長知事が負けたことにはなるとは思わない。

知事は権限の範囲内で精いっぱいやればよい」と述べている。

この言葉からは、「あらゆる手法を駆使して辺野古に基地を造らせない」という

強い意志がまったく感じられない。

原点に立ち帰って、「辺野古に基地を造らせない」闘いを

再構築する必要があると思う。

その意味で、名護市長選を何としても勝ち取らなければならない。

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