★枝野さん、視野を広げないと未来は拓けないー(植草一秀氏)

政界再編の裏側にいるCIAの意思を明確に把握しておくことが必要だ。

昨年10月の衆院総選挙を契機に民進党の分離・分割がようやく一歩進んだ。

本来は9月の民進党代表選で、民進党内に二つの政党が同居していることが

明確になったのだから、この時点で民進党の分離・分割に進むべきだった。

私はかねてよりこのことを主張してきた。

情勢が変化したのは、民進党代表に就任した前原誠司氏が

民進党の希望の党への合流を強行したことだった。

この合流が、「安倍政治を終焉させること」の一点に目的を絞り、

安倍政治と対峙するすべての勢力との大同団結を目指すものであったなら

意味があっただろう。安倍政治を終焉させることに成功した可能性が高い。

しかし、前原誠司氏と小池百合子氏が目指した者は、

これとはまったく異なるものだった。

戦争法制を容認し、憲法改定を推進する第二自公勢力を創設するものだったのである。

民進党議員及び総選挙立候補予定者に対して、「全員合流」と言いながら、

戦争法制反対、憲法改悪阻止のメンバーを排除することを念頭に入れていた

と言えるのであり、前原氏の行動は背徳以外の何者でもなかった。

小池百合子氏の側は、当初から、戦争法制、憲法改定のハードルを設定しており、

民進党の丸ごとの合流を前提としていなかったと考えられる。

この意味では、小池百合子氏の側は当初の方針通りに動いたものであった。

しかし、新党での公認申請書には、政策についての誓約が記載されており、

その内容は、この新勢力が安倍政治を終焉させるための大同団結実現を

目的とするものではないことを明確に示していた。

この経緯があり、遅ればせながら民進党の分離・分割が始動したのである。

分離・分割の基軸は「政策」である。

そもそも政党は、政見と政策を一致する者の集合であるから、

政見と政策が真逆の者が同居していることに最大の矛盾がある。

不幸の原因は矛盾にあると言われる。

民進党が旧民主党の時代より、一貫して凋落の道を歩んできたのは、

この政党に二つの相反する勢力が同居を続けてきたからなのである。


2009年に政権交代の偉業を成就した当時の民主党は、

日本政治の根幹を革新する明確な方針を明示していた。

米国が支配する日本、官僚が支配する日本、大資本が支配する日本を

根底から刷新する方針を明示した。

辺野古米軍基地建設を中止させる、官僚の天下りを根絶する、

企業団体献金を全面禁止する、という明確な方針を明示した新政権であった。

この基本方針が日本の既得権勢力を震撼させたことは言うまでもない。

日本を支配してきた米国・官僚機構・大資本の三者は、

この米官業による日本支配の構造を根底から覆される危険に直面したのである。

その結果として、この米官業トライアングルは、死に物狂いの猛反撃を展開した。

目的のためには手段を問わない卑劣で悪質な手法をも含めて、

猛反撃を展開したのである。

政権交代を主導した小沢一郎氏と鳩山由紀夫氏に対する人物破壊工作は

この文脈上に位置付けられる事象であった。

そして、鳩山政権の破壊に最大の貢献をしたのが、

民主党内に潜んでいた既得権勢力のメンバーであった。

私は、この勢力の中核を悪徳10人衆と表現してきた。

彼らは革新勢力ではなく、「隠れ既得権勢力」に属する者たちだったのである。

2010年6月に鳩山政権が崩壊した。

このとき、権力を強奪したのが菅直人氏である。

米国は2010年1月の段階で、

日本の外交窓口を鳩山-小沢ラインから菅-岡田ラインに切り替えることを

決定している。

この米国の決定に沿って、政権の主軸が鳩山-小沢ラインから菅-岡田ラインに

切り替えられた。裏の本尊は米国であり、米国の対日工作活動の主軸を

担っているのがCIAである。

その後の民主党は既得権勢力が支配権を有してきた。

そして、菅政権を継承した野田佳彦首相は、既得権勢力に対峙する勢力が

純化して離脱した小沢新党=国民の生活が第一=未来の党の資金源を断つために

2012年12月の衆院総選挙に突き進んだのである。

そして、この選挙によって、野田佳彦氏は安倍晋三自民党に大政を奉還した。


日本の既得権勢力である米官業のトライアングル。

その頂点に立つのが米国の支配者である。

彼らの座右の銘は「2009年政変を二度と招かぬこと」である。

本当の革新勢力による政権が樹立されれば、既得権勢力による日本支配の構造が

破壊されてしまう。このリスクを二度と冒してはならない。

そのために、何よりも重要なことは、

野党第一党を「隠れ自公勢力」=「自公補完勢力」にしておくことなのである。

「隠れ自公勢力」とは「野党の顔をした与党」=「ゆ党」である。

別名を「鵺(ぬえ)」という。

日本支配者の米国が目指すのは、自公と第二自公による二大政党体制である。

小池百合子氏と前原誠司氏が目指した新党がまさにこれである。

日本政治を自公と第二自公による二大政党体制に移行させてしまえば、

既得権勢力による日本支配は安泰になる。

これが成功しかけたところで大崩壊してしまった。

民進党の分離・分割というパンドラの箱が開いてしまったのである。

民進党が分離・分割し、自公対峙勢力が純化して登場し、

この勢力が反自公勢力の結集を実現すると、2009年の悪夢が再来する。

「安倍政治を許さない!」主権者の層は厚く、

反自公勢力が結集して総選挙を戦えば、次の選挙で政権交代が実現しておかしくない。

そのもっとも危険な第一歩が踏み出されてしまった。

これを阻止するために、元の「鵺(ぬえ)」の状態に引き戻そうとする悪あがきが

展開されている。しかし、立憲民主党の基本スタンスは明確で、

「鵺」の再生は難しいだろう。

希望と民進党が合流しても、この勢力が自公の補完勢力であることは

誰の目にもはっきりしてしまったから、主権者の支持を集める可能性は皆無と

いってよいだろう。

せめて、政党交付金残高を公正に立憲民主党に配分するまともさだけは

示してもらいたいものだ。

次の選挙に向けては、立憲民主、共産、自由、社民が完全な共闘体制を

構築して進むべきだ。

立憲民主党の態度が不明確だが、

枝野氏が「草の根からの変革」を提唱するなら、

主権者がこの方向を主導することになる。

自公補完勢力は院内で「鵺」という名の統一会派を創設するのがよいと思う。


政見・政策が同一なら別の政党である必要がない。

自公と第二自公による二大政党体制が構築されても、

主権者である国民にとってメリットはほとんどない。

政権交代があれば政治腐敗を防止できるという程度のメリットしかない。

主権者国民にはもっと大きな問題がある。

それは、国論を左右する重大問題が山積しており、

それぞれの問題について、主権者国民の意思が完全に二分されているからだ。

このことを踏まえれば、対立する主張を示す二つの政治勢力が

登場してもらわねば困るのだ。

対立する二つの政治勢力が存在して、初めて主権者は選択権を行使できる。

二つの政治勢力がどちらも同じ主張を示したのでは、

反対意見を持つ主権者は同意しようがないのだ。

戦争や憲法に対してどう対応するのか。

日本国憲法は戦力の保持を否定し、交戦権を否定した。

日本を「戦争をしない国」にした。この憲法を70年以上にわたり守ってきた。

しかし、安倍政権は憲法を変えて、日本を「戦争をする国」に変えようとしている。

このとき、問題になるのは、日本の主権者がどちらの道を選ぶのかである。

日本は戦力を持たず、戦争をしない国であるから、

当然、日本が攻撃をされてもいないときに、

海外に出て行って戦争をすることが許されるわけがない。

ところが、安倍政権は憲法を変えることもせずに、

日本が海外で戦争をすることを認める法律を制定してしまった。

憲法違反の立法が行われたのだ。

そして、今度は憲法自体も変えようとしている。

戦争法制容認、憲法改定の方針について、

日本の主権者がその是非を判断しなければならない。


2011年3月11日に東京電力福島第一原子力発電所が

人類史上最悪レベルの放射能事故を引き起こした。

日本は世界最大の地震国・津波国であるから、

このような事故を引き起こすことは想定されていた。

ところが、その危険が明確に認識されていながら、

必要な対応すら取られていなかった。

この放射能事故について、責任ある当事者の責任さえ処理されていない。

また、事故発生の原因すら解明されていない。

しかし、はっきりしていることは、今後も巨大地震が発生する可能性は極めて高く、

その巨大地震に対する対応策が日本のすべての原子力発電所で取られていないことだ。

つまり、今後も福島事故同様の事故が何度でも発生する状況にある。

この状況下で安倍政権は全国の原発再稼働を推進している。

完全なる狂気の行政運営である。

この原発再稼働について、是非を判断する権限を有するのは日本の主権者である。

主権者の前に明確な選択肢が示されなければならない。

2001年の小泉政権発足後、日本の経済政策運営は、

完全に弱肉強食推進の方向に転換した。

市場原理にすべてを委ね、規制を撤廃し、あらゆる事業を民営化し、

社会保障制度を切り刻んできた。

新自由主義の経済政策を呼ばれるが、

この路線をさらに強化しているのが安倍晋三政権である。

安倍晋三政権はTPPや欧州とのFTAを推進しているが、

その目的は、グローバルに活動する巨大資本=多国籍企業の利益極大化である。

主権者国民の利益ではなくグローバル巨大資本=ハゲタカの利益極大化を

目指している。その一端を示すのが税制改悪の方向である。

法人税と富裕層の税負担を激減させて、

一般大衆に負担を押し付ける消費税増税が激しい勢いで推進されている。

消費税は所得がゼロの国民と所得が

100億円の国民に同じ税率を適用する格差熱烈推進の税制である。

この消費税をさらに増税する方針が示されている。

これに対して、消費税を減税し、法人課税と富裕層課税を強化するべきだとの

主張がある。国民の前にその選択肢が明示されなければ、

主権者国民は選択のしようがない。


戦争法制・憲法、原発、消費税のほかにも、基地やTPPの問題がある。

重要なことは、選挙の際に、主権者である国民が「政策を選択」できることだ。

「政策選択選挙」を実現しなければならない。

このとき、考慮しなければならないのが選挙制度である。

現行の小選挙区選挙制度では当選者が一人しか出ない。

だから、自公が候補者を一人出すなら、

自公と対峙する勢力も候補者を一人にしなければならないということだ。

自公と対峙しない勢力が何人候補者を出しても構わない。

自公と類似した勢力が候補者を立てれば立てるほど、

そちらの側で票を食い合うことになるから、自公と対峙する側にとっては好都合だ。

1.戦争法制・憲法改悪を許さない、

2.原発を廃炉にする、

3.消費税を減税し、法人税と富裕層課税を増税する、

ことを明示する勢力が候補者を一人にすることが重要であり、

有効であると考えられる。

旧民進党でこのことを明示しているのが立憲民主党であるから、

立憲民主党が安倍対峙勢力の中核の一翼を担うべきだろう。

しかし、これだけでは選挙に勝てない。

同じ政策主張を明示しているのが、共産党、自由党、社民党であるから、

この野党4党がまずは強固な共闘体制を構築するべきだ。

枝野幸男氏が共産党との共闘構築に背を向けているが、

直ちにスタンスを転換するべきである。

立憲民主党が多数議席を確保できた最大の貢献者が共産党であることを

忘れるべきでない。連合が共産党との共闘に反対しているとも伝えられるが、

労働者全体の利益を考えない労組など、存在意義がないと言うべきである。

共産党を支持する労組も立憲民主党を支持する労組も、

小さな違いを乗り越えて手をつなぐことが大事なのである。

小異を残して大同につく大同団結、連帯がなければ、安倍政治を打破することも、

主権者国民が望む政治を実現することもできない。

基本方向ははっきりしている。速やかに主権者の声に応える行動を示すべきである。

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