★利子配当株式譲渡益優遇税率廃止が最重要課題-(植草一秀氏)

12月になると次年度予算案が策定され、税制改正の基本方針が定められる。

いずれも、通常国会に提出されて審議に付されるが、

国会は単なるセレモニーと化している。

衆参両院で3分の2議席を占有する与党は、

国会審議の日程だけをこなし、採決によって政府案を通す。

国会審議を通じて、修正が加えられて原案が、

より良いものに修正されることは基本的にない。

国会審議は、野党が与党の不祥事を追及する場にしかなっていない。

これまでは国会における審議において、

野党の質問時間が長く設定されてきたが、

安倍政権は、これに異を唱え、野党の質問時間を短縮化している。

与党議員が質問に立っても、事前に整えられた質問と、

それに対する政府答弁を朗読するだけで、一種の学芸会に成り下がるだけだ。

森友、加計学園問題では、安倍首相の政治私物化の実態が浮き彫りになった。

国有財産が不正に低い価格で払い下げられた事実が明らかになったにもかかわらず、

安倍首相は責任を明らかにせず、責任ある当事者の証人喚問さえ実施されない。

警察・検察当局は、肝心要の問題に対する捜査を行わず、

政治腐敗を告発した者を不当に逮捕、勾留して、言論封殺まで行っている。

日本は安倍政権の下で、最低最悪の国家に転落してしまっていると言わざるを得ない。

まさに、暗澹たる状況が広がっているが、

それでも私たちは希望を捨てるわけにはいかない。

絶望の山に分け入り、希望の石を切り出さなければならないのである。

税制改定では、年収が800万円を超える給与所得者に対する増税が検討されている。

格差拡大への対応策を示すというのだろう。

年収800万円以下の給与所得者に対しては減税になるとしているが、

トータルでは1000億円の増税提案なのだ。

格差拡大に対する施策としては、あまりにも姑息なものである。

消費税が導入された1989年度から2016年度までに、

日本の税収はどのような推移をたどってきたのか。

1989年度の税収は54.9兆円だった。

2016年度の税収55.5兆円と、ほぼ同額である。

1989年度と2016年度で変化したのは税目による税収構成比だけなのだ。

1989年度
所得税 21.4兆円
法人税 19.0兆円
消費税  3.3兆円

2016年度
所得税 17.6兆円
法人税 10.3兆円
消費税 17.2兆円

つまり、この27年間に生じたことは、

所得税が  4兆円減り、
法人税が  9兆円減り、
消費税が 14兆円増えた

という事実だけである。


消費税が年額で14兆円も増税になったという事実はあまりにも重い。

消費税は所得がゼロの者にもかかる税金である。

小学生がわずかなお小遣いから買い物をする際にも消費税が課せられる。

他方、年収が10億円、100億円ある富裕層に対しても、

所得ゼロの者と同額の税率が適用される。

富裕層は、その一方で所得税減税の恩恵に預かってきた。

法人税はこの27年間に、年額で9兆円もの減税となっている。

財政再建や社会保障拡充のために消費税増税が実施されてきたのではない。

法人税減税と所得税減税のためだけに、消費税が大増税されてきた。

所得税の最大の問題は、富裕層にとてつもない軽減税率が適用されていることにある。

所得税は、本来、所得の多い者は高い税率で、

所得の低い者には低い税率で負担を求めるものである。

夫婦子二人で片働きの給与所得者の場合、年収285万円までは無税である。

しかし、所得が増えるに連れて税率が上がり、

所得が極めて多い者に対する税率は国税で45%、地方税を合わせて55%になる。

しかし、現行制度には抜け穴があり、

所得が極めて多い個人の税率は、所得が増えるほど低下しているのである。

利子配当、株式譲渡益に対する課税が優遇されていて、

富裕層に対する、とてつもない軽減税率が適用されているのである。

「これを是正せずに、何が格差是正なのか」

ということを、すべての国民が認識する必要があるのだ。

政府の施策で格差を是正しようとする場合、

所得の少ない者、財産の少ない者に対しては、

政府が、最低限度の生活水準を保証する必要がある。

各種の公的扶助などにより、

すべての国民に、一定水準以上の生活を保障しなければならない。

その財源を調達する際に、

「能力に応じた負担」

を求めることにより、格差が是正される。

つまり、所得が多い、資産が多い国民に、より大きな負担を求める。

このことによって、結果として格差が是正される。

財政政策に求められる、この機能が「所得再分配機能」である。


その中核をなす税制が所得税制度だ。

所得が多くなるに連れて税率が上昇する。

所得の多い者は、高い税率で多い金額の税を負担する。

これが所得再分配機能を持つ所得税制度の根幹である。

ところが、日本では、この制度が人為的に破壊されている。

高額所得者の所得の太宗を占めているのが、資産所得である。

金融資産所得が大きい。

この金融資産所得に対する課税が、総合課税で行われていない。


総合課税を実施すれば、超富裕層の金融資産所得に対して、高率の税率が適用される。

これによって、「能力に応じた課税」が実現する。

ところが、日本では、金融資産所得に対する課税において、

分離課税が認められている。

所得が多く、追加的な所得を得たときに、

地方税を合わせて55%の税率が適用されなければならない個人が、

この分離課税を選択すると、税率が20%で済んでしまう。

その結果、所得が多くなればなるほど、所得にかかる税率が下がってしまう。

超富裕層に対する超優遇税制が存在しているのだ。


金融資産所得に対する課税を強化すると、資産が海外逃避すると言われる。

これを盾にとって、金融資産所得に対する軽減税率が維持されているのである。

それでも、その軽減税率を嫌って、海外に資金を逃避させる者も生じる。

パナマ文書やパラダイス文書によって、

資本を逃避させてきた者の名も明らかになっている。


このような課税回避行動に対して、

国内法制度として、厳格な罰則規定を設ければよいだけのことだ。

麻薬に手を染めても、「これを罰することがない」となれば、

麻薬は急激に蔓延するだろう。

麻薬に手を染める者は後を絶たないが、

麻薬に手を染めたことが発覚すれば、刑事責任を問われる法制度があるから、

抑止がかかっている。

国内での課税を免れるために資金を海外に逃避させることを違法とし、

厳格なペナルティーを課すようにすれば、

そのような課税回避行動を抑止することができる。

そのような課税回避行動を違法行為とし、

犯罪として摘発して罪刑を科すことにすれば、大いなる効果を上げるはずだ。


格差拡大の時代に求められることは、超富裕層に対する課税強化である。

給与所得者にターゲットを絞り、増税を画策するよりも、

金融資産所得に対する分離課税を撤廃する、

あるいは、分離課税の税率を大幅に引き上げることを検討するべきだ。

20%の軽減税率を40%に引き上げれば、大幅な歳入増になる。

4兆円程度の増収を確保することができるはずだ。

また、この27年間に、年額で9兆円も減税されてきた法人税の増税を

検討するべきだ。

安倍政権が、まったく必要のない法人税減税に突き進んできたのは、

安倍政権がハゲタカ巨大資本の支配下にある政権であるからだ。

日本企業は急激にハゲタカ巨大資本の所有物になりつつある。

日本企業に対する法人税減税措置は、

そのまま、ハゲタカ巨大資本に対する上納金になっているのだ。


このような流れのなかで、

2019年10月に消費税率を10%に引き上げることが許されてよいわけがない。

10月総選挙で、主権者は、この問題に対する判断を示すべきだったが、

選挙争点が不明確になってしまい、この問題に対する主権者判断は示されなかった。

これからの国会では、消費税増税阻止の国論を喚起するための論議が強く求められる。

国会審議は形骸化しているが、唯一残された国会の役割は、

広く国民に重要な問題を提起することだ。

森友、加計疑惑も、安倍政権は知らぬ存ぜずで済ませようとしているが、

国民の間に、爆発的な怒りが広がったのは事実である。

この怒りが、次の国政選挙で大逆転を実現する原動力になる。

次の通常国会では、消費税再増税阻止と、

超富裕層に対する優遇税制廃止=金融資産に対する総合所得課税

あるいは分離課税税率の大幅引き上げなどの提案を徹底的に論じるべきである。

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