★公約実現度で評価されるべき翁長沖縄県政ー(植草一秀氏)

2009年9月の総選挙を経て樹立された鳩山由紀夫政権が、

わずか8ヵ月半の短期間で崩壊させられた主因がどこにあったのか。

日本政治を考える際の原点である。

答えは明白である。

鳩山政権が米国の命令に隷従する政権ではなかったことだ。

この理由によって鳩山政権は潰された。

このことを端的に示す重要事実がある。

それは、2010年2月2日に米国のキャンベル国務次官補が

国会議事堂内の民主党幹事長室で小沢一郎氏と会談したのち、

韓国に渡り、韓国からワシントンに送信したメッセージである。

2月3日、キャンベルは韓国ソウルを訪問し、

大統領府の金星煥(キムソンファン)外交安保首席秘書官と面会した。

その会談内容の要約が在韓米国大使館から本国へ送られた。

その公電に次の記載がある。

「両者(キャンベル、キム)は、民主党と自民党はまったく異なるという認識で一致。

キャンベル氏は、岡田克也外相と菅直人財務相と、直接話し合うことの重要性を

指摘した。」

この極秘情報がウィリークス」によって暴露された。

米国は対日交渉の窓口を、これまでの鳩山-小沢ラインから、

菅-岡田ラインに切り替えた。

その後に日本政治でどのような変化が起きたのかについては説明を要さない。

6月に鳩山政権は崩壊し、菅直人氏が首相に就任、外相には岡田克也氏がとどまった。

鳩山-小沢ラインから菅-岡田ラインに切り替えるとの米国の方針が、

そのまま日本の政権として現出したのである。

米国が支配する日本。

米国が日本政府を尊重する大前提に、

日本政府=日本の政権が対米従属、対米隷属であるのかどうかの見極めがある。

安倍政権が持ちこたえている最大の前提条件は、

安倍政権が完全な対米隷属、対米従属である点にある。

日本政治の刷新が求められるが、新しい政権は、

米国による日本支配の強力な意思を撥ね退ける力を求められる。

この点を踏まえることが、日本政治を考える際の原点である。

このなかでいま、沖縄における基地建設が進んでいる。

翁長雄志知事は、

「辺野古に基地を造らせない」ことを公約に掲げて知事に選出された。

2014年11月のことだ。

来年2018年11月には次の沖縄知事選が実施される。

しかし、翁長雄志知事の下で、辺野古米軍基地建設は着実に進行している。

翁長雄志氏は公約を守ることができていない。

相手が米国であるから、

「辺野古に基地を造らせない」公約を実現することは難しい。

このことは誰もが理解する。

しかし、このことだけをもって翁長知事は免責にはならない。

翁長知事は、

「あらゆる手法で建設を阻止する」

と主張し続けてきた。

翁長知事の行動が、この言葉に違わぬものであるのかどうか。

この点が問われることになる。

私は2014年11月の沖縄知事選に際して、強い関心をもって対応した。

本当に辺野古基地建設を阻止するには、新たに選出される知事が、

「埋め立て承認の取り消し」および「埋め立て承認の撤回」を迅速に実行することが

必要である。

この判断に立って、知事選に際して、このことを公約に明記する候補者を

基地建設反対勢力の統一候補にする必要があると訴えた。

そのために、沖縄の那覇で開催されたシンポジウムにも参加し

基調報告をさせていただいた。

https://www.youtube.com/watch?v=NP67c8WyGPg

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/177154

しかし、統一候補に押し立てられた翁長雄志氏は、

最後まで、埋め立て承認の撤回と取り消しを公約に明記しなかった。

翁長雄志氏を統一候補に押し立てた「オール沖縄」の人々は、この点で妥協した。

当初は、これを候補一本化の条件に設定していたが、

それが難航して、翁長氏支援の条件を緩和したのである。

私の懸念は、翁長氏が知事に選出された場合、埋め立て承認撤回や取り消しが

迅速に行われず、結果として、辺野古における米軍基地建設が進行してしまう

ことだった。

そして、その現実がいま広がっている。

辺野古基地建設阻止運動の先頭に立ってこられた沖縄平和運動センターの

山城博治議長が11月10日の定期総会あいさつでこう述べた。

「これまで知事を正面から批判したことはないが、

今回の件(奥港の使用許可ー引用者)を受け、

覚悟を決めて翁長県政と向き合う必要が出てくる」

「あらゆる手法で建設を阻止すると知事はこれまで主張してきた。

それは一体何だったのか。これでは工事を止めることはできない」

(11月11日付琉球新報)

ようやく、オール沖縄のメンバーからも、

翁長雄志氏に対する「強い疑問」が発せられるようになったのである。

米国は日本支配を維持し続けようとしている。

米国による日本支配は構造的なものである。

この点は、矢部宏治氏の新著『知ってはいけない』(講談社現在新書)に、

分かりやすく解明されているから、改めて本ブログ、メルマガで

紹介させていただく予定だが、

現在の安倍政権が、完全な対米隷属・対米従属政権であることを踏まえれば、

安倍政権の下で辺野古米軍基地建設を完全排除することは不可能に近い。

沖縄県の上に国家権力が位置しており、沖縄県民が総意で基地建設を拒絶しても、

国家は権力を行使して、基地建設を強行するだろう。

現に強行している。

できることは何か。

それは時間を稼ぐことである。

一秒でも多く時間を稼ぐこと。

これしか突破口はないのである。

ありとあらゆる手法、方法を用いて、基地建設を阻止する。

言い換えれば、一秒でも多く、時間を稼ぐことが、唯一の活路なのだ。

時間を稼いでいる間に政権を変える。

政権を変えて、初めて目的を達成する道が開ける。

しかし、米国は、米国の命令に従わない政権を潰しに来る。

2009年9月発足の鳩山由紀夫政権は、

米国の命令に隷従しない政権であったからこそ、米国によって破壊された。

したがって、政権を変え、さらに、その新政権が米国によって

破壊されないように守ることが必要なのである。

この条件が整わない限り、米軍基地を造らせないという目標は実現しない。

これが「レジスタンス」というものであろう。

2014年11月の知事選後、新知事は、直ちに埋め立て承認の取り消しを

行うべきであった。

しかし、取り消しを行っても、国は訴訟に訴えてくるだろう。

そして、政治権力の番人である裁判所は、国の主張を認めるだろう。

だから、このような戦術も「時間を稼ぐ」以上の意味は持たない。

しかし、逆に言えば、「時間を稼ぐ意味を持つ」のである。

辺野古米軍基地建設の本体工事に着工するためには、

国は沖縄県と事前協議をしなければならないことになっていた。

したがって、沖縄県は、事前協議書が国から沖縄県に提出される前に、

あらゆる法廷闘争を展開するべきであった。

これらの措置により事前協議書が沖縄県に提出されることがなければ、

国は本体工事の着工に踏み切れていない。

この意味で、新知事は、まず埋め立て承認の取り消しを行い、

これを不服とする国が訴訟に持ち込むことに対応して、徹底的に法廷で闘争する。

敗訴になっても、沖縄県から積極的に基地建設工事を推進する必要はまったくない。

一秒でも多く時間を稼ぐ行動をとるべきであった。

そして、埋め立て承認取り消しが裁判によって否定されたら、

間髪を空けずに埋め立て承認の撤回に進む。

埋め立て承認取り消しよりも、撤回の方が、沖縄県の主張ははるかに通りやすい。

それでも、政治権力の支配下にある裁判所は、

政治権力に隷属する判断を示すかもしれない。

しかし、これらの法廷闘争を続けてきていれば、

沖縄県が基地建設の本体工事の事前協議書を受理することは、

現在まで回避できたはずだ。

そうであるなら、基地建設はまだ一向に進んでいない状況を生み出せたはずなのだ。

沖縄平和運動センターの山城博治議長が11月11日に、

ついに翁長知事を批判する発言に及んだのは、

陸路だけでなく海上からも始まった埋め立ての護岸工事のための石材搬入について、

その許可を与えたのが翁長雄志知事であることが判明したからである。

「名護市辺野古の新基地建設で、護岸建設用石材の海上運搬を請け負った業者に対し、

県が国頭村の奥港の岸壁と港湾施設用地の使用許可を出していたことが、

2日分かった。…運搬業者が6月下旬に申請書を提出、県が9月上旬に許可した」(11月3日付沖縄タイムス)

のである。

県が許可したというのは、翁長知事が許可したということである。

結局、翁長知事は、「辺野古に基地を造らせない」と言いながら、

国による辺野古米軍基地建設を側面支援し続けてきたのである。

翁長知事が埋め立て承認撤回に動いたのは、2015年10月のことだが、

このタイミングは、沖縄県が本体工事の事前協議書を受理したあとだった。

このために、国はその後の本体工事を全面的に実施して現在に至っている。

基地建設が進捗してしまうと、法廷闘争においても、

「訴えに利益なし」

との理由で、基地建設中止の訴えが排除されやすくなる。

結局のところ、翁長知事に、辺野古基地建設を絶対に阻止するとの、

強い意志があったのかどうかが問われることになるのだ。

それでも翁長雄志氏は、知事選に際して、

「辺野古に基地を造らせない」

ことを公約に掲げた。

そのための方法として、埋め立て承認の撤回や取り消しの即時実行が必要だとの

意見を退けて、ただ

「辺野古に基地を造らせない」

を公約に掲げたのである。

したがって、翁長県政の評価に際しては、この公約を実現できたのかどうかだけを

基準にするべきだ。

より効果的な手法の提案を蹴って、事実としての

「辺野古に基地を造らせない」

を明確な公約にしたのだから、その成否で実績を評価することが必要だろう。

この意味で、来年秋の知事選に向けて、辺野古基地建設反対勢力は、

新たな知事候補の擁立を検討し始める必要に迫られつつあることを

認識するべきである。

Reply · Report Post