★日馬富士暴行傷害事件と籠池夫妻不当長期勾留-(植草一秀氏)

この国の惨状が一段と悪化してきている。

大相撲の現役横綱による暴行傷害事件が明るみに出ている。

加害者は現役横綱の日馬富士、被害者は幕内力士の貴ノ岩である。

貴ノ岩は日馬富士から一方的に暴行を受けて重傷を負った。

10針も縫合処置を受ける裂傷を負ったというのが事実であれば、

間違いなく重傷である。

現役の横綱であるから、素手で殴打したとしても、

事実上の「凶器」とみなすべきであるだろうが、

ガラス瓶や金属製のカラオケ通信機器で殴打したとなれば

「殺人未遂」として取り扱うのが妥当ということになるだろう。

「傷害」が「けんか」で生じたものであるのか、

「一方的な暴行」であるのかも重要な事実関係になる。

11月9日付の医師の診断書には、

「脳振とう、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」

「全治2週間」

と記載されているが、この診断書を書いた医師が、

「重傷と報道されていることに驚いている」

とコメントしたと報道されているが、普通の感覚では、

「このような診断書を書いた医師が「重傷と報道されていることに驚いている」と

発言していることに驚く」

のではないだろうか。

この診断書が「貴ノ岩が重傷を負った」との判断の、

当初の根拠になってきたわけであるから、

この診断書を書いた医師が公の場で説明するべきである。


メディア報道が、貴ノ岩と貴乃花親方を激しく攻撃する方向で

展開されてきたことに対して、私は異議を唱え、事実関係の重要な点を

精査するべきことを主張してきた。

重要な点は

貴ノ岩が日馬富士から暴行・傷害を受けたことが事実であるのかどうか。

日馬富士が素手以外の何らかの「凶器」を用いたのかどうか。

貴ノ岩が受けた傷が「重傷」であるのかどうか。

暴行傷害事件であるなら、これらの点が重要な確認事項になる。

そして、この事案について、

被害者である貴ノ岩とその保護者にあたる貴乃花親方が

10月29日の段階で警察に被害届を提出していることも重要だ。

警察に被害届を提出した時点で、事案は刑事事件事案となるのであり、

事実関係の解明は、基本的に警察当局に委ねられるべきものである。

貴乃花親方は相撲協会の理事であり、巡業部長の職にあるから、

相撲協会に説明するべき立場であるが、

相撲協会がこの種の暴力事件の処理に関して、

問題を隠蔽してしまおうとする体質を強く持っていると判断すれば、

問題処理を協会ではなく警察に委ねるとの選択は、当然のことながら浮上するだろう。

貴乃花親方が協会には説明せず、

警察の捜査による事実解明を求めているのだとすれば、その真意は十分に理解できる。

現に相撲協会は警察からの連絡で、11月2日の段階で事実の概要を知りながら、

十分な事実解明をしないまま、

11月12日開幕の九州場所に日馬富士を出場させている。

11月14日にスクープ報道がなされて問題が表面化した際、

相撲レポーターとされる女性は、

九州場所の開幕時点から、現場ではこの話題で持ち切りだったことを認めている。

九州場所が開幕する時点で、

関係者の間に問題の存在は周知されていたにもかかわらず、

相撲協会は日馬富士の出場を容認しているのである。

この現実を踏まえれば、現体制の相撲協会が事実関係を「調査」したところで、

公平、公正な調査結果がまとめられる可能性はほとんど存在しない。

相撲協会が受けるダメージを少なくする方向に、

事実を歪めて報告書を作成する疑いが濃厚なのである。

貴乃花親方が相撲協会の調査に非協力的で、

事実関係の解明を警察当局に委ねようとしているのは、当然のことであると言える。

事件発生に至る経緯についての事実解明も明らかにされる必要がある。

貴ノ岩はスマホを操作しているときに、

いきなり日馬富士から暴行を受けたと証言しているようだが、

宴席で騒音が大きいなか、日馬富士が貴ノ岩に声をかけたことに気付かず、

貴ノ岩がスマホを操作しているときに、

これに日馬富士が激高して暴行に及んだということもあり得ることである。

しかし、仮にこのような経緯があったにせよ、

日馬富士が一方的に暴行に及んだとするなら、責任の所在は明確である。

報道は、日馬富士は暴行の事実を認め、

また、素手以外にカラオケ通信機器でも殴打したことを認めていると伝えている。

これが事実であり、一方で、貴ノ岩が10針を縫うような重傷を負ったことが

事実であるなら、暴行傷害事件としての輪郭は、かなり明瞭である。

事件の大きな背景には、本年の初場所で貴ノ岩が白鵬に勝利し、

白鵬の優勝が阻まれ、稀勢の里が初優勝したことがある。

モンゴル会が「互助組織」的な機能を有しているとすれば、

貴ノ岩の勝利は、「しまの掟を破壊する許されざる行為」と理解されるだろう。

今回の暴行傷害事件の背後には、この種の巨大な闇が関係している可能性もある。

貴乃花親方が相撲協会の調査ではなく、

警察の捜査に事実解明を委ねていることは正しい判断であると考えられるが、

日本の場合、警察・検察自体が歪んでいるという現実があるため、まだ予断を許さない。

日馬富士は逮捕されず、籠池泰典氏夫妻は逮捕、起訴され、4ヵ月にも及ぶ

不当勾留が維持されている。

このような暗黒社会においては、

警察による事実解明にも全面的な信頼を置くことができない。

この点はしっかり踏まえておかねばならぬ部分である。

私がこの問題を取り上げているのは、

マスメディアによる情報操作の分かりやすい事例であると判断したからである。

相撲の専門家でもなく、相撲自体を本ブログ、メルマガのテーマともしていない。

しかし、メディア情報が著しく偏り、それによって世論が誘導される危険がある、

あるいは現実があるという、この国の根本問題のひとつを考察する際、

この事案に対するメディア報道のあり方は、

「情報操作」、「メディアコントロール」の問題を考える上で、

非常に重要で分かりやすい事例になると判断したのである。

貴ノ岩は10月25日深夜に暴行傷害を受けた。

26日朝に応急処置を受けて、予定されていた日程をこなした。

しかし、傷害の程度が重く、再度医師の診断を受けて診断書を受け取った。

その後に、さらに状況が悪化して、より精密な診断を受けた。

その際に、再度診断書を書いてもらった。

このような経緯は、十分に想定可能である。

メディアは、軽傷であるのに重傷を装い、

診断書を偽造に近いかたちで入手してこれを公表したかのような印象を

植え込む報道を展開し続けた。

また、暴行が発生した経緯として、貴ノ岩の言動が非礼であり、

貴ノ岩の側に責任があるかのような情報を流布した。

「あなたたちの時代は終わった」と貴ノ岩が発言した。

横綱が説諭している最中にスマホを操作した。

「誰からの連絡か」と問われ、「彼女からです」と答えた。

これらの情報を、あたかも真実であるかのように流布したレポーターが存在する。

こうした情報が洪水のごとくに流されれば、

一般市民は、これを事実であると受け止めてしまう。

その結果として、

「悪いのは貴ノ岩であって、日馬富士は悪くない」

という「イメージ」が形成される。

これが、いまはやりの「印象操作」なのである。

事件が発生する経緯について、

客観的に確認されていないことがらが無責任に流布され、

その情報を鵜呑みにしてしまうと、このような事態が発生する。

このことを楯に取り、そのようなことを防ぐためにも

貴ノ岩が公の場で説明することが重要だとの意見も登場する。

しかし、貴ノ岩が相撲協会に事実を説明したところで、

相撲協会がその説明をどのように取り扱うかは分からない。

相撲協会が問題を矮小化したいとの意向を有しているなら、

貴ノ岩の説明が正当に流布される保証はない。

この点で貴乃花親方の行動は明確である。

警察当局に被害届を提出した。

警察当局による事実解明にすべてを委ねるというものなのだ。

刑事事件事案であることを踏まえれば、

事実解明を警察に委ねるというのが基本である。

相撲協会は警察による事実解明を待って適正な措置を講じれば良いだけのことだ。

事案は、これまで明らかになっている情報を踏まえるならば、

日馬富士が一方的な加害者であり、貴ノ岩は一方的な被害者である。

このことが警察捜査によって明らかになるなら、

それを踏まえて適正な措置を講じれば良いのである。

相撲協会が事件捜査をすること自体が本末転倒なのだ。

しかしながら、その警察・検察捜査に全幅の信頼を置くことができるかというと、

ここにも疑問符を付けざるを得ないところに、日本の悲しい現実がある。

森友学園事案の本質は、国有地の不正廉売疑惑事案である。

時価が10億円は下らないと考えられる国有地が1億3400万円で払い下げられた。

しかも、土地改良費として1億3200万円が支払われた。

財政法は国有財産を適正な対価なくして処分してはならないことを定めている。

この法律に反して、不正に低い価格で国有地が払い下げられた疑いがある。

背景は、安倍首相夫人である安倍昭恵氏の関与である。

安倍昭恵氏が新設小学校の名誉校長に就任した。

森友学園の籠池泰典理事長は、

名誉校長の安倍昭恵氏に学校用地の問題について相談した。

安倍昭恵氏は公務員秘書の谷査恵子氏に指示して、財務省との折衝をさせた。

その結果として国有地が不正廉売された。

このような事実経過が存在したのではないかとの、強い疑いが存在する。

国会は安倍昭恵氏を証人喚問して、事実関係を明らかにする責務を負っている。

しかし、安倍政権与党が反対して、

このような安倍昭恵氏による公開の場での説明機会がまったく設営されてきていない。

これらの問題について積極的に発言してきたのが籠池泰典氏夫妻である。

しかし、籠池氏夫妻が事実関係を公言することが、

安倍首相にとって、極めて目障りな状況になった。

こうしたことを背景に、籠池氏夫妻が逮捕され、起訴され、

さらに、長期勾留され続けているという現実が生じたと考えられる。

籠池氏夫妻は、「詐欺」の罪に問われている。

しかし、事案の補助金不正を問うのであれば、刑法の詐欺罪ではなく、

補助金適正化法違反に問うべきであると、法律の専門化が主張している。

そして、適正な量刑は罰金刑であるとも述べている。

ところが、籠池氏夫妻は詐欺罪で起訴され、4ヶ月に及ぶ長期勾留を受けている。

そして、保釈請求を裁判所が却下している。

逃亡の恐れも、証拠隠滅の恐れもない。

にもかかわらず、不当な勾留を続け、しかも接見交通禁止という措置まで

付けられている。

基本的人権が完全に蹂躙されているのだ。

国会では予算委員会が開かれ、森友問題が取り上げられるであろう。

その際、籠池氏が在野で、さまざまな発言をすれば、

安倍首相には都合が悪いのだろう。

日本の警察・検察・裁判所が前近代に取り残されている。

取り残されているというよりも、

安倍政権が日本の警察・検察・裁判所を大日本帝国憲法の時代に

引き戻しているのである。

国民が政治に強い関心を持つことを阻止する上で、

国民の目をスポーツ観戦に振り向けることは極めて有効な手段になる。

安倍政権は、この視点から、スポーツ振興に大きな力を注いでいる。

オリンピックも大相撲振興もこの視点から説明できる。

NHKは日本相撲協会の最大のスポンサーであり、

NHKの放送事業を支える大黒柱として相撲興行を利用している。

相撲協会の不祥事、スキャンダル、相撲興行の縮小は、

この観点から「国策上」望ましからぬ事態なのである。

貴ノ岩や貴乃花親方に対する不正で不当な弾圧は、

この文脈からも説明し得るのである。

日馬富士による貴ノ岩に対する暴行傷害事件が警察・検察当局によって、

適正に処理されるのかどうかを、私たちは厳しく監視する必要がある。

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