★三権分立の幻想を捨て議院内閣制を深化させるべしー(田中良紹氏)

安倍総理の明恵夫人が名誉校長を務めていた「森友学園」への国有地売却について、

会計検査院は22日に「値引きの根拠不十分」とする検査結果を参議院に報告した。

同じ日に大阪地裁は7月に逮捕され詐欺罪で起訴された籠池夫妻の保釈申請を

却下した。

 このタイミングで籠池夫妻が保釈されメディアの前に姿を現せば、

「適正でない話」がさらに大々的に報道されることになり、

しかも国会が開かれている最中だから野党を勢いづかせることになって

安倍政権には都合が悪い。

 会計検査院の報告を受け麻生財務大臣と石井国土交通大臣は「重く受け止める」と

同じ言葉を発し、財務省はすぐに国有財産の処分手続きを見直す方針を公表した。

これでこの問題を「幕引き」にしたい態度がありありである。

 予算が適切に使われているかどうかをチェックする会計検査院は、

建前では内閣、国会、裁判所のいずれからも独立している。

しかしこうした一連のタイミングを見ると、

会計検査院も裁判所も財務省も国土交通省も権力を持つ側は

見事に連携していることを伺わせる。

 我々は学校で民主主義の基本は三権分立にあり、

立法、司法、行政が互いにチェックし合って暴走させない仕組みだと教えられた。

日本国憲法にそう書かれているからである。

しかし現実の政治を取材するとそうではないことを嫌というほど思い知らされる。

 かつてフーテンはロッキード事件を捜査する東京地検特捜部を取材したが、

政治家の悪を摘発する特捜部をその頃の日本人は政治から独立した存在と錯覚し

「正義の味方」として大いに声援を送った。

 しかし検察はそもそも司法ではなく内閣の一機関であり、

政治から独立しているどころか法務大臣や総理大臣の指揮下にある。

田中角栄氏が逮捕されたのは総理を辞めた後だからであり、

あの事件を指揮した稲葉修法務大臣も三木武夫総理大臣も田中の政敵であった。

 検察が政治権力の都合によって動かされることは

それ以前の「造船疑獄」でも明らかだが、

「造船疑獄」以来検察とかかわりを持った佐藤栄作は

政敵を次々に摘発してくれた検察のおかげで長期政権をものにした。

ところが国民は検察を政治から独立した存在と考え、

「巨悪を眠らせない」組織と見る癖がいまだに抜けない。

 そもそも日本の政治制度はイギリスと同じ議院内閣制で、

国会で多数の議席を持つ者が内閣を組織するから国会を制した者が行政も支配する。

司法だけは独立していると思われがちだが最高裁判事の人事権を握るのは内閣である。

つまり三権分立は建前に過ぎない。

 学校では三権分立よりイギリス型の議院内閣制を教える方が現実的だと思うが、

我々はほとんどイギリス型の議院内閣制について教えられていない。

一方で戦後日本を占領したアメリカの大統領制による政治の影響を強く受けている。

 アメリカの大統領制政治には三権分立が厳然としてある。

トランプ大統領が登場して「移民の入国制限」や「オバマ・ケアの見直し」などを

次々に打ち出したが、司法界は大統領の「入国制限」を受け付けず、

また立法府も与党の共和党までが反対すべき時は反対する。

三権分立によって大統領の暴走を防ぐ仕組みが明らかである。

 しかし日本の総理が暴走した場合、

それを止めるのに三権分立に頼ることは出来ない。

それとは異なる仕組みを考える必要がある。

それを考えているときに読んだ川口暁弘著『ふたつの憲法と日本人』(吉川弘文館)に

面白い指摘があった。

 戦前の大日本帝国憲法はやはり三権分立を規定していた。

ところが戦前の政党政治もイギリスを真似た議院内閣制だった。

戦前に護憲運動を行ったのは天皇を現人神として信仰する右翼勢力である。

彼らは三権分立を規定した憲法を守るため、

議会の多数派が行政を支配する議院内閣制を三権分立の破壊だと批判した。

 議院内閣制の批判は政党政治の否定につながる。

大正デモクラシーで日本にも二大政党による政権交代が実現したが、

右翼勢力は政友会と民政党による政党政治を徹底的に攻撃した。

それが軍部の台頭とともに日本の政党政治を終わらせ軍国主義に道を開いた

背景にあるという。

 戦前の政党政治を終わらせた背景に三権分立を主張した勢力の存在があった。

そして現在は三権分立という建前を捨てなければ総理の暴走を止められない事情が

ある。我々は議院内閣制と政党政治について

さらに深化させる必要があるのではないかとフーテンは考えた。

 同じく議院内閣制を採用するイギリスやドイツの事情を学び、

咀嚼して栄養にすることである。

折から安倍政権は国会での質問時間の配分を見直すよう求めてきた。

これまで2対8で野党に多く配分されてきたのを議席配分と同じにしろ

というのである。これも「森友・加計疑惑」の追及から逃れたいためであるのは

明白で、何をかいわんやだが、野党は与党に押し切られてしまっているのが

現状である。

 しかし国会図書館の調査ではドイツでは野党の質問時間が9割を占め、

イギリスでは野党第一党の党首が多く首相に質問することが出来る。

それがどういう事情で決められたか、

議会での質問にはどのような意味があるのかを野党は調査研究して

与党と対峙すべきである。

 昔の「55年体制」の自民党と社会党の時のように裏取引であっては意味がない。

議院内閣制とはどのようなものかを巡って本格的な論争を行ってほしいと思う。

そして国民は選挙の結果が権力の暴走を許すことになることを肝に銘じるべきである。

 我が国の三権分立が権力の暴走を止められない以上、

止める手立ては政権交代しかないからである。

公明党が憲法改正に慎重になったことが示すように

選挙結果の数字が権力の暴走を抑える有効な手段となるのである。

選挙の意味をかみしめる時だ。

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