★「自公圧勝」も「立民躍進」も「野党混迷」も政治の現状を伝えていない
ー(田中良紹氏)

総選挙からほぼ1週間経った。

選挙結果を巡るメディアの見出しはもっぱら「自公圧勝」と「立民躍進」で、

選挙後はもっぱら「野党混迷」に目が向けられている。

しかし「自公圧勝」も「立民躍進」も「野党混迷」も

政治の現状を伝えているとは思えない。

 「自公圧勝」も「立民躍進」も議席数はその通りだ。

しかしそれが自公や立民にとって喜ぶ話かと言えば内実は単純でない。

自民現状維持は想定外の勝利だと思うが公明党の敗北が安倍政権の今後に影を落とす。

また安倍続投は自民党にとって必ずしも喜ぶ話にならない。

 希望の党や民進党の現状を「野党混迷」と呼ぶのなら、

「安倍一強」を許し増強させた時代の野党を何と呼ぶべきか。

それこそが「野党混迷」の時代で、

今の希望の党や民進党の混乱は「混迷」から抜け出るための「生みの何とか」である。

 一昨年、安倍総理が日本の国会審議より先に米国議会で

「集団的自衛権行使容認」を約束した時、

フーテンは「ネギ背負った鴨が米国に這いつくばった」とブログに書いた。

そして「地雷原に入った安倍政権が地雷に触れずに通り抜けられるかどうかが

見どころになる」とも書いた。

 すると安倍政権は通常国会を延長し9月に安保法制の強行採決を行った後、

野党が要求する臨時国会を開かずに押し通した。

年明け通常国会まで3か月以上も時間的余裕があるのに臨時国会を開かなかったのは

政治史に汚点を残す。

汚点であっても安倍総理は国会を開いて地雷に触れることを恐れた。

 この異常な国会運営は一方で

安倍総理を地雷原に引きずり込めない野党第一党民主党の非力さも浮き彫りにした。

旧自民党と旧社会党が混在する民主党は野党第一党と言っても

国民の不信感を拭いきれておらず選挙は連戦連敗である。

それが昨年3月に維新の党と合流して民進党と看板を変えた。

 しかし7月の参議院選挙に敗北し、

直後の東京都知事選挙でも4野党統一候補の鳥越俊太郎氏が

自民党に反旗を翻した小池百合子氏にダブルスコアで敗れた。

看板を変えただけでは駄目だったのである。

 その一方、安保法制強行採決は共産党に画期的な変化をもたらした。

野党共闘に前向きになったのである。

「安倍一強」を支えるのは公明党の選挙協力だが、

これに対抗する野党が候補者の一本化をできないところに問題があった。

その構図に変化の兆しが現れた。

 とはいえ自公の選挙協力には18年にわたる積み上げがある。

一方の野党共闘は始まったばかりだ。

昨年10月の新潟県知事選挙では成果を上げたが国政選挙での実績はない。

しかも国政選挙となれば安保政策が重視され、

水と油の共産党との共闘に異議を唱える保守系議員も多い。

 安倍政権と公明党の安保政策も水と油なのだが、

こちらにはそれを乗り越える政治的な調整機能が働く。

つまり大人の対応がある。それが共産党と民進党の間で可能かが不透明だった。

そうした状況で安倍総理にもう一つの地雷原「森友・加計問題」が現れた。

 地雷に触れることを恐れる安倍総理は、

審議予定になかった共謀罪を持ち出して国民の目をそらすと同時に

都議会議員選挙を口実に通常国会を閉じ、

再び野党が要求する臨時国会を開かせないため、

大義名分のない臨時国会冒頭解散に打って出た。

 選挙後、年内2か月もあるのに安倍政権は臨時国会を開かないつもりである。

閉会中審査でお茶を濁し、野党の質問時間を減らそうと画策している。

どれほど国会を恐れているかが分かる。

「自公圧勝」と言っても安倍総理は地雷に触れないよう逃げ回るしかないのである。

 そして自民党内には安倍総理の主張する憲法改正案にも、

経済政策であるアベノミクスにも、さらに選挙争点にした消費増税の使い道にも

公然と異を唱える勢力が出てきた。

選挙勝利が安倍政権の追い風となる保証はまるでない。

 臨時国会冒頭解散を待ち受けるように小池百合子東京都知事が

希望の党を立ち上げた。それは安倍総理を恐怖させるに十分だった。

なぜなら安保法制容認を掲げることで直ちに政権交代を実現する構えを

見せたからである。

 立憲民主党、共産党、社民党支持者には申し訳ないが、

これらの勢力が国民多数の支持を得て政権交代を実現しても

安保法制廃止をできると思うのは誤りである。

やれば大混乱が生じ、かつての社会党の村山総理のように、

安保政策を180度変えなければ政権運営は1日たりともできない。

その結果、国民の期待を裏切ることになる。

 安保法制を認めても運用を厳しくすれば、米国の要求を制約することは可能である。

そのためには厳しい運用を要求する強い野党が必要になる。

それが今回の政局の一つの狙いである。

従って立憲民主党が共産党や市民の協力の下で躍進したことは、

狙い通りの結果である。

 「立民躍進」は立憲民主党が政権交代の軸になることではない。

あくまでも「米国に這いつくばって恥じない」安倍政権に代わる政権が

安保法制の運用を厳しくするため陰ながら支える役割である。

小池氏はその勢力を生み出した。

 当初は安倍総理退陣に政局の目的があるのかと思ったがそうはならなかった。

安倍総理を退陣させるには自公を過半数割れに追い込むか、

自民党を単独過半数割れにする2つのケースが考えられる。

前者の場合は政権交代が実現し、

後者は自公政権は続くが自民党内から安倍退陣の声が噴出する。

 いずれの場合も小池氏が出馬して風を巻き起こす必要があった。

ただ政権交代を実現しても参議院は自公が3分の2を超える勢力を持っており、

「ねじれ」が生まれて新政権は思うような政権運営をできない。

 そのため小池氏は今回の出馬を見送り、

2年後の参議院選挙で勝負するつもりだとの説があるが、

しかし政治に「次の次」などありない。

常に命がけの勝負をしなければ道は切り拓けない。

フーテンは今はまだ言えないが小池不出馬には別の事情があると考えている。

 出馬しないと初めから決めていたのならこの選挙を「政権選択選挙」と

位置付ける必要はなかったし、

選挙前に民進党を安保法制容認派と反対派に分ける必要もなかった。

そうすれば安倍総理が争点として掲げた「消費増税の使い道」に焦点が当たり、

それは急速に少子高齢化する日本社会を考えるうえで極めて重要な政策論争に

なりえたと思う。

 ところが小池出馬を前提にした「排除の論理」が表に出たことで

「排除」の対象とされたいわゆるリベラル派が希望の党を「第二自民党」、

「自民党補完勢力」と批判し、選挙が「保守対リベラル」、

「護憲派対改憲派」の構図となって、

安倍総理の続投を認めるかどうかの本来の選挙争点がどこかに消えてしまった。

 それが「自公圧勝」と「立民躍進」を生み出す。

しかし国会を開かせないよう逃げ回る安倍総理の続投が自公にとって

喜ばしいのかフーテンは疑問である。

またメディアの言う「野党混迷」も「混迷」してきた野党を

二つに分けたことで「混迷」から抜け出るきっかけになるとフーテンは思う。

 各種調査を見ると国民の選択は

「安倍続投を良いとは思わないが他に選択肢がなかった」である。

安倍総理が繰り返し力説するように「民主党政権の失敗」はまだ国民の胸から

消えていない。

それに鈍感だった野党第一党がようやくこの選挙でリセットされたのである。

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