★安倍総理退陣がなければ小池都政も終わりになるー(田中良紹氏)

総選挙の序盤情勢について報道各社の世論調査で自公が300議席を超す勢いである。

民進党から分かれた二つの勢力のうち希望の党は伸び悩み

立憲民主党は公示前を倍増させる勢いと言う。

 選挙前の経緯を振り返ればさもありなんと思うが、

今回の総選挙の最大のテーマは妻と友人を守るため前代未聞の解散を行った

安倍総理を続投させるかどうかにある。

従って自公の数がどうなるかより自民党が単独過半数233を維持するかどうかが

焦点となる。自民党が233議席を割り込めば安倍総理退陣の流れが生まれる。

 しかし自民党が233議席を上回り安倍総理退陣が実現しなければ、

安倍政権打倒を掲げて希望の党を立ち上げた小池東京都知事の政治力に疑問符が付く。

勝負師が勝負に敗れれば影響は都政に及ぶ。

敵対する者はここぞとばかりに攻め込み、都知事としての先行きは危うい。

それを分かったうえでの決断だと思うから勝負の先行きを見守るしかない。

 希望の党が登場する以前の政治構図なら安倍総理続投は間違いなく可能だった。

だから解散の大義などなくても安倍総理は解散に踏み切った。

ところが希望の党の登場はその思惑を吹き飛ばす。

なぜなら現実に政権交代が可能な政治構図が出来上がったからである。

 フーテンから見ると多くの国民は「55年体制」時代に培われた

「保守・革新一騎打ち」の思考から抜け出ていないように見える。

米国の言いなりに平和憲法を変えようとする保守と平和憲法を守り

自立しようとする革新のイメージで日本政治を捉えている。

 しかし55年体制末期の永田町を取材し、

また冷戦後に世界を一極支配しようとした米国政治を見てきたフーテンにとって、

それは「作られたイメージ」に過ぎない。

自民党は米国の言いなりに平和憲法を変えようとしてきたわけではないし、

社会党も自民党から政権を奪おうとしたことなど一度もない。

 世界最強の軍事経済大国である米国は今もこれからも日本を支配し続けようと

考えている。冷戦時代にあって平和憲法はそれに抵抗する手段であり、

自民党は社会党に護憲運動を促し平和憲法を盾に米国の軍事的要求をかわし続けた。

それが日本を経済大国に押し上げ米国を圧倒した。

 米国は冷戦が終わるとそうした構造を一変させる。

日本に憲法改正させて再軍備させるのではなく平和憲法を守らせて

永遠に米国の軍事支配下に置き、米国に依存せざるを得ないようにして

米国に経済的利益を吸い上げる。これが冷戦後の日米関係の基本である。

 安倍政権の集団的自衛権行使容認やTPPへの積極参加はその要求に応えたもので、

かつての自民党とは正反対である。

安倍政権は平和憲法を変えずに米軍に全面協力し、

TPPで米国の要求に最大限応える。

それが「安倍一強」であるため歯止めが効かない。

昔の自民党は社会党の議席を減らさずに歯止めをかける抵抗の政治術を持っていた。

 政権与党になればその日から世界最強の軍事経済大国と渡り合わなければ

ならないが、社・共に代表される野党は正論を主張するだけで

立ち向かう手段を持たない。だから野党であり続けた。

社会党は過半数を超える候補者を立てず、

共産党は全選挙区に候補者を立てるが、政権を取らないことを前提にしていた。

 冷戦が終わってイデオロギー対立の時代ではなくなった。

欧州の共産党は選挙協力によって政権に参画する道を選び、

中でも有名なのはイタリア共産党が参加した「オリーブの木」による政権交代だった。

それがようやく日本でも実現するかに思われたのが今回の選挙である。

2年前の安保法制強行採決を見てようやく共産党が選挙協力に転じたからだ。

 自民党は実は選挙に強くない。公明党が小選挙区に候補を立てず

自民党候補に投票するから勝てる。

共産党が公明党と同じ役割を担えば政権交代は確実に起こる。

しかし一方でイタリアと違い米国と日本の関係は特別の支配従属関係にある。

自公政権を破った新政権が直ちに安保法制廃止を打ち出せば米国が黙ってはいない。

政権は短命に終わる。
 

 安倍政権を打倒するには安全保障面では現状を継続させながら

しかし実質的に歯止めをかけるのが最も現実的である。

そのため民進党を現実派とリベラル派の二つに分け、

リベラル派と社・共が一つになりかつての社会党の役割を担わせ、

現実派は保守中道路線で自民党支持者の票を奪い政権交代を目指すシナリオが

考えられた。

 ただし一気に政権交代するには風を起こす必要があり、

希望の党の代表として小池百合子東京都知事が選挙に出馬し、

都知事の後継者を用意する必要がある。

また出馬しない場合には首班指名候補を明示する必要があった。

しかしいずれの道も小池氏は採らなかった。

また民進党を分けるのに「排除」と言ったことが排除された立憲民主党に

同情を集め希望の党には批判が集まった。

 それが希望の党を低迷させ立憲民主党に勢いをつけさせた理由である。

また共産党が希望の党を自民党補完勢力として敵意をむき出しにし、

「1対1」の選挙協力に持ち込めなかったことが自公を優勢にした。

そこで選挙情勢がこのままなら小池氏の都知事としての先行きも怪しくなる。

 豊洲の移転問題では自民党と共産党を敵に回し、

オリンピック問題では森元総理と敵対しているため、

選挙で結果を出せなければここぞとばかりに攻められる。

勿論、そうしたことも分かったうえで小池氏は最終的な決断を行ったと思うが、

フーテンにはその先のシナリオが見えない。

 総選挙の論戦を聞いてフーテンが最も違和感を持ったのは共産党が

「平和憲法の基本は9条2項にある」と言ったことである。

フーテンは平和憲法の基本は憲法前文と9条1項に書かれた「戦争放棄」にあると

考えている。あらゆる紛争を武力で解決しないということだ。

 しかし2項にある「戦力不保持」と「交戦権の否定」は

マッカーサーが書き加えたもので日本を米国に隷属させる条項と認識している。

安倍総理は「集団的自衛権を認めたら米国は全く憲法改正を要求してこなくなった」と

ジャーナリストの田原総一朗氏に語ったそうだが当然である。

米国にとって日本を自立させる憲法改正は必要ない。

むしろ憲法改正させずに自衛隊を米国の要求通りに動かせればそれで良い。

 だから2項を削除させない。だから安倍政権は2項を削除せず3項に

自衛隊を明記すると訳の分からないことを言う。

米国の奴隷になるための屁理屈である。

2項を削除させないと主張する共産党はそれと変わらない。

 憲法を巡る国会の論戦でかつて共産党の野坂参三氏は

専守防衛の軍隊を持つ必要を説き、吉田茂総理は非武装の理想を説いた。

日本の非武装を説いていたのは野党ではなく占領軍のマッカーサーであり

吉田元総理だった。

それがいつの間にか野党の専売特許になる。

しかし冷戦後の国際情勢や日米関係を見れば日本は専守防衛に徹する軍隊を持ち、

在日米軍基地と日米地位協定を見直す必要があるとフーテンは思う。

 従ってこの点でフーテンは共産党とも安倍政権とも見解が異なる。

共産党がこの選挙で野党共闘に踏み込めない理由がそれだとすれば誠に残念である。

冷戦後の米国の対日政策を検証し国際情勢と絡めて考え直してもらいたいと思う。

 そうしないとそれでなくとも冷戦後の政治体制に出遅れている日本は、

冷戦時に見事な政治術を駆使した過去の遺産を食いつぶすだけになってしまう。

政治家にはその点について十分論じてもらいたいと思うが、

国民にはもう一度この選挙が妻と友人のため

衆議院議員全員の首を切った選挙であることを思い出していただきたい。

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