★大企業と富裕層負担適正化で消費税は減税できるー(植草一秀氏)

消費税増税問題について、

「2年も先の話だ」

というコメントがあるが、まったく事実誤認である。

2019年10月実施ということは、

2019年度税制改正にかかる制度変更ということになる。

2019年度税制改正を決定するのは2018年12月。

つまり、1年後の正式決定なのである。

そのための準備には少なくとも半年はかかる。

消費税率を10%にする際には複数税率にすることも決められているから、

その具体化は、2018年の年明けから始まる。

2019年10月消費税増税問題は、目と鼻の先の問題なのだ。

今回の衆院総選挙において、主権者の生活に直結する

最も切実で最も重大な問題は

消費税問題である。

希望の党が登場するまで、

消費税増税を止めることを主張していた勢力は極めて小さかった。

共産・自由・社民だけがこのことを問題にしていた。

民進党などは、逆に消費税増税を積極推進していたのだ。

安倍自公は民進党が消費税増税推進であることを見て、

消費税増税の使途変更を衆院解散の最大の理由に挙げたのだ。

ここに最大の死角があった。


希望の党が2019年10月の消費税増税凍結を掲げたところから、情勢が急変した。

希望の党の消費税増税凍結は、小池百合子氏の表現では、

「一度立ち止まって考える」

だから、まったく当てにならない。

築地の豊洲移転について小池氏は何と言ったか。

「一度立ち止まって考える」

だったが、その後の事実経過はどうか。

いったん豊洲に移転して、築地を再整備して、

市場機能は築地に戻すような構想を示しただけで、

その具体化がまったく見えていない。

これでは、単なる豊洲移転を引き延ばしただけということになる。

だから、希望の「消費税増税凍結」には最大の監視をしなければならない。

しかし、民進党が分離・分割して立憲民主が創設され、

立共社と主権者の共闘が生まれて情勢が一変した。

この野党共闘勢力が明確に2019年10月消費税増税阻止を打ち出している。

立憲民主党は、消費税増税問題での過ちが民主党政権を破壊した主因であることを

謙虚に見つめて、消費税増税をいったん完全撤回するべきだ。

いずれにせよ、この総選挙で2019年10月の消費税増税問題について、

主権者が判断しなければならないのだ。


日本経済はアベノミクスで最悪の状況に陥れられた。

選挙でもあるから、中立公正に、客観的な評価をしておく必要がある。

安倍首相は自画自賛するが、自画自賛している内容は三つしかない。

第一は企業収益が増えたこと。

第二は株価が上がったこと。

第三は雇用が増えたこと。

これらは事実であり、成果と言えなくもない。

しかし、上場企業数は4000社に満たない。

全法人数の1%にも満たない。

その上澄みの大企業の利益だけが増えた。

そして、雇用者は人数だけは増えた。

しかし、一人当たりの実質賃金は第2次安倍政権発足後に約5%減少している。

これこそ、一般市民、生活者、消費者、労働者、主権者にとっての日本経済

そのものである。

また、経済全体のパフォーマンスを示すのが実質経済成長率。

民主党政権時代の平均値が+1.8%で

第2次安部政権発足後の平均値が+1.4%だ。


そして、税収構造の変化を見ると、

消費税が導入された1989年度の税収が54.9兆円。

2016年度の税収が55,5兆円でほぼ同額である。

1989年度と2016年度で変化したのは税目による税収構造だけなのだ。

1989年度
所得税 21.4兆円
法人税 19.0兆円
消費税  3.3兆円

2016年度
所得税 17.6兆円
法人税 10.3兆円
消費税 17.2兆円

つまり、この27年間に生じたことは、

所得税が  4兆円減り、
法人税が  9兆円減り、
消費税が 14兆円増えた

という事実だけである。

また、政府債務が1000兆円を超えて財政危機だと叫ぶが、

日本政府の資産は2015年末で約63兆円、負債を上回っており、

財政危機というのは完全なフィクションである。

枝野幸男氏もこの事実を認識し、財政問題についての考え方を

抜本的に修正するべきだ。

いずれにせよ、この選挙では安倍自公を必ず過半数割れに追い込み、

2019年10月の消費税増税を中止しなければならない。


党首討論などでのアベノミクス批判が、ファクトに基づかず、

完全な突っ込み不足である。

安倍首相が都合の良い数字だけを使って長々と説明し、

その後に、反安倍陣営が核心を衝いて反論しないと、主権者が誤導されてしまう。

安倍首相が述べるのは、

企業収益が増えたこと、

株価が上昇したこと、

雇用者の数が増えたこと

これだけだ。

安倍首相は名目GDPや名目賃金を上げるが、

人々の暮らしを左右するのは名目ではなく、実質である。

名目賃金が1%増えても物価が2%上がれば、実質的な所得は1%マイナスだ。

経済を図る尺度は実質があくまで基準なのだ。

これは経済分析のいろはのいである。


安倍政権の経済政策は、大企業の利益拡大だけを追求するものだ。

大企業の利益の極大化を目指す運動が、グローバリズムである。

グローバリズムの究極の目標は、

労働コストの削減

である。

このために、すべての政策が遂行されている。

労働コストを削減するために、

正規労働から非正規労働への転換

外国人労働力の活用

出来高払いの賃金制度=残業代ゼロ制度

長時間労働の合法化

解雇の自由化=金銭解雇の全面解禁

などの施策が全面的に推進されているのだ。


そのなかで、最も卑劣な政策が税制改悪である。

法人税率を限りなく引き下げて、消費税率だけを際限なく引き上げる。

過去27年間の日本の税制改革は、

法人税負担を激減させて、

消費税負担を過酷に拡大させてきただけのものだ。

社会保障拡充のための消費税増税などという事実は存在しない。


所得税も大幅に減税されてきた。

本来、所得税には累進税率が適用される。

所得が大きい階層は高い税率を負担することとされている、

ところが現実は違う。

富裕層の所得では圧倒的に金融所得の比重が高い。

その金融所得の税率は著しく軽減されているのである。

利子配当所得の分離課税が認められているため、高額所得者の実質的な税率は低い。

その一方で、所得の少ない、あるいは所得がない個人にも

8%の税率で消費税をむしり取っている。


大企業は史上最高益を更新している。

そして、その利益が内部留保として企業に溜め込まれている。

この内部留保に課税するという構想があるが、

二重課税

だとする反論が示される。

すでに法人税で税負担をしたあとの利益に課税することになるから

おかしいというものだ。

しかし、それを言うなら消費税も二重課税なのである。

個人は働いて得た所得から所得税を支払っている。

その課税後の所得を支出したときに、もう一度税金を課せられているのである。

課税後の所得に、再度税金をかけられるくらいなら、

消費をしないと個人が考えるのが順当だろう。

消費税が景気を抑圧するのは当然のことなのだ。


企業の内部留保に課税すれば、企業は内部に資金を溜め込むことよりも、

投資活動などの支出に振り向けることを検討するだろう。

内部留保課税は企業の投資を促す意味でも有効であると考えられる。

いずれにせよ、今回の総選挙で、日本の主権者がまず考えなければならないことは、

自公に過半数議席を付与すれば、2019年10月に

消費税率が10%に引き上げられるということだ。

このひとつだけをとってみても、

自公に過半数議席を与えることは絶対に避けなければならない。

いま消費税率を10%に引き上げれば、日本経済は間違いなく大不況に転落する。

過去の消費税増税で警鐘を鳴らし続け、

そのすべてで現実を的確に予言してきた私が言うのだから、この点だけは間違いない。

だから、絶対に自公に投票してはならない。

安倍自公は消費税増税を掲げてこの選挙に挑んだから、

必ず想定外の大敗をすることになると考えられる。

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