★自民党56議席減なら安倍退陣の流れが出来るー(田中良紹氏)

第48回衆議院選挙が公示された。

希望の党の小池百合子代表は出馬せず「安倍一強を終わらせよう」と言いながら

日本国のリーダーを誰に代えるのかを言わないまま選挙が始まった。

フーテンが注目した「最大の勝負手」は行使されず、先の見えにくい選挙になった。

それが誤算でないことを祈るのみである。

 フーテンが注目した「最大の勝負手」とは、

小池氏が選挙に出馬し安倍総理に代わる顔になるには、

都民の圧倒的な支持を得て就任した都知事を辞めなければならない。

それをするには誰しもが納得できる後継者を明らかにし

国政と都政の連携をアピールしなければならない。それが可能かどうかだった。

 逆に出馬しない場合には国会の首班指名で安倍総理に代わる候補を

勝たせなければならない。

自分に代わる有力候補を選挙前に明示することは可能かということである。

いずれも可能でないと判断されたわけだ。

次の顔が見えない選挙で勝てるのかとフーテンは危惧するが、しかし賽は投げられた。

前を見ていくしかない。

 今回の選挙の特徴を言えば、

第一に安倍総理が妻と友人を守るため衆議院議員全員の首を切った

前代未聞の極私的解散・総選挙である。

第二に野党第一党の民進党を現実派とリベラル派に分裂させ、

共産党が初めて選挙協力を行う政界再編の選挙である。

第三に小選挙区と比例区の重複立候補をしないことが

政治家の評価につながる流れが出て来た。

 安倍総理は消費増税の使途と北朝鮮情勢を解散の理由としたが、

消費増税は2年も先の話でありこの時点で解散する理由にならない。

また北朝鮮問題でしきりに危機を強調するが、

米朝は激しく対立して見せながら落としどころを探って詰めの交渉を続けており、

それにロシアと中国の利害が絡み合っているだけで日本に出番などない。

解散の理由がこじつけであることは首を切られた議員たちが一番良く知っている。

 小池氏が「排除」という言葉を使ったため民進党の分裂を批判する国民が多いが、

この分裂でリベラル勢力の塊が出来たことをむしろ評価すべきだとフーテンは思う。

これまで水と油の安倍政権を公明党が選挙協力で支えてきたのに対し、

公明党に対抗できる全国組織を持つ共産党は全選挙区に

候補者を立て野党票を分散させてきた。

それが「安倍一強」を可能にした一つの要因である。

 しかし2年前の安保法制の強行採決で共産党もようやく選挙協力に前向きになった。

これで自公に対決できる構図が生まれ、

今回の選挙で立憲民主党はその恩恵にあずかれる。

これが恒常化すれば以前より強いリベラルの塊が生まれる。

 一方の希望の党は自民党から保守票を引きはがす。

安倍総理周辺の右派勢力は本来の自民党支持層と一致するわけではない。

そこに楔を打ち込んで「安倍一強」を倒そうとするのが希望の党である。

 従って希望の党は自民党内の反安倍勢力とは距離が近い。

野田聖子氏と小池氏が一緒に政党を立ち上げる構想もあった位で

将来合流する可能性はある。それを共産党は「自民補完勢力」と批判するが、

しかし「安倍一強」という権力私物化を終わらせるにはありうる選択肢である。

この選挙は保守を右派と中道に分け、リベラルの塊を作る政界再編のスタートになる。

 政権交代可能な政治を作るため導入された小選挙区制は諸外国に比べ

不備な点もある。最大の問題は小選挙区と比例代表の重複立候補による

「ゾンビ議員」の誕生だ。小選挙区で落選した議員が比例で復活し、

中には小選挙区の得票数が他の落選候補より少ないのに当選する議員もいる。

 今回は希望の党が三権の長や政党代表の入党を「排除」したため、

大物議員が無所属で出馬することになりそれが高評価された。

無所属でなくとも重複立候補を避ける議員が多くなれば好ましい結果になる。

 ところで当初フーテンは希望の党の登場を1993年の政権交代と

重ね合わせて考えた。

「55年体制」は自民党対社会党の構図の中に共産党、公明党、民社党がいて、

それを終わらせるため自民党が分裂して新生党とさきがけが生まれ、

また日本新党が誕生して総選挙を行った結果、

自民党が過半数割れして野党に転落した。

 希望の党の公約には「消費税凍結」と「原発ゼロ」があり、

安保法制を認める点を除けば野党共闘は可能である。

そして安保法制の強行採決は立憲主義の否定であり認められないが、

しかし現実に政権を奪取するとなれば米国との軋轢を避ける工夫は必要である。

 その現実を認めれば表では反対するが見て見ないふりをするのが

「55年体制」の野党だった。

従ってフーテンは自公政権を過半数割れに追い込むことも可能だと判断したのである。

また旧自民党と旧社会党が同居する形の民進党が存在する限り、

政権交代は二度と起きないと考えてきたフーテンにとって

二つの勢力を「選別」することも必要だった。

 ところが小池氏が「排除」と言ったことで国民の反発は大きくなり、

とても自公を過半数割れに追い込める状況ではなくなった。

残されたのは「最大の勝負手」がどうなるかだったが、

それも実行されることはなかった。

 ただ93年の政権交代のシナリオに代わって

07年の第一次安倍政権退場のシナリオが頭に浮上してきた。

それは8日に行われた党首討論会で自民党が単独過半数を割り込んでも

安倍総理は続投すると表明したからである。

 現在自民党は288議席だから56議席を減らしても

安倍総理は解散に打って出た責任を取らないと言った。

しかしそうなれば公明党の存在感がにわかに大きくなる。

公明党が離れれば自民党は過半数を失うので安倍政権は公明党にすがるしかなくなる。

 そこを狙ったのか希望の党は公明党の候補者がいる選挙区に

対立候補を立てなかった。

本来公明党とは水と油の安倍政権は一方で公明党がだめでも

維新があるという構えを取って公明党をけん制してきた。

ところがこの選挙で維新は希望との距離を縮め安倍政権との距離を離している。

 07年の参議院選挙で惨敗した安倍総理は

衆議院で自民党は過半数を保持している事を理由に続投を表明した。

理屈はその通りなのだが歴代自民党政権で参議院選挙に負けた総理は

みな退陣している。責任を取るとはそういうことだ。

ところが続投を表明した安倍総理はどうなったか。

 ぶざまな政権投げ出しを演ずることになった。

表向きは病気のためとされているがそうではない。

巧妙な自民党内の政治術によって退陣させられた。

その時の渦中の人物が当時の小池防衛大臣と二階国対委員長である。

この選挙では希望の党代表と自民党幹事長として敵対している。

 自公を過半数割れに追い込まなくとも自民党が56議席減らせば

安倍総理は07年の参議院選挙後と同じ状況になる。

政権を継続しても公明党の言い分を受け入れるしかなくなる。

維新カードも制約される。自民党内から極私的解散への不満もくすぶる。

そういう中で内閣と党の人事を行うことになるが、

それが不満を顕在化させる恐れもある。

 安倍総理退陣を与党の手でやらせる展開が生まれる。

「最大の勝負手」を見せなかった理由はそのあたりにあるのかもしれない。

どうやら自民党56議席減になるかどうかが

この選挙の最大の見どころになりそうだ。

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