★10月22日に安倍総理を辞めさせるシナリオその2ー(田中良紹氏)

「希望の党」が仕掛けた現在の政局は、

権力を私物化する「安倍一強政治」を終わらせることに目的はある。

それを直ちに実現するには民進党を現実主義とリベラルの二つの勢力に分ける

必要があった。

 安保法制の強行採決に反対する4野党共闘は間違いではない。

しかし安倍総理が延命のために仕掛けた総選挙を倒閣のチャンスにするには、

安倍政権に代わる新政権が直ちに安保法制廃止を決定する訳にいかない。

それをすれば北朝鮮情勢が緊迫する中で日米関係は混乱し政権交代は失敗する。

 そのため安保法制廃止ではなく「集団的自衛権の限定的容認」の「限定」を

強く主張できる体制を作る必要があった。

対米従属一辺倒の安倍政権では米国の言いなりになるだけだが、

「安倍一強」を解体すれば、安保法制に反対のリベラル勢力と新政権とが

かつての自民党と社会党のように水面下で手を組み「限定」を主張することが

可能となる。

 そのため民進党を安保法制に柔軟な勢力と共産党や社民党と連携する勢力に分け、

政権に参画する議員と政権に反対を唱え続ける議員に「選別」するのが

「安倍一強」を終わらせるシナリオの第一段階だった。

 安倍総理が勝てるはずと思って仕掛けた解散・総選挙は

そのシナリオによって打ち砕かれたと思う。

安倍総理は総選挙の勝敗ラインを過半数としたが、

民進党の多くが「希望の党」に入党したことで、

過半数は難しくなったというのが大方の見方である。

ただし「安倍一強」を終わらせるにはそれだけで十分ではない。

第二、第三のシナリオも必要になる。

 小池百合子氏が選挙に出馬し全国を駆け回れば自公は過半数割れが確実視される。

しかしそれでも自民党は比較第一党の座を確保する可能性がある。

「希望の党」が単独で過半数を制しなければ自動的に小池総理誕生にならない。

 自民党が初めて野党に転落した1993年の総選挙で自民党は過半数を失ったが

それでも比較第一党であった。

宮沢政権はどこかの政党と連立して過半数を得れば政権を維持することが出来た。

ところが新生党の小沢一郎氏が自民党より先に8党派をまとめ上げ、

日本新党の細川護熙氏を総理に担いだことで自民党は野党に転落した。

 あの政権交代は選挙の結果ではなく

小沢氏の政治力が自民党を上回った結果なのである。

今回も「希望の党」は野党第一党にはなるだろうが

単独で過半数を超えたり比較第一党になるのは難しいと思う。

従って小池氏がすぐに総理になれるわけではない。

 「希望の党」が安倍総理と盟友関係だった「日本のこころ」の中山恭子氏や

「日本維新の会」の松井一郎知事と連携し、

あるいは公明党の候補者がいる選挙区すべてに候補を立てず、

国会の首班指名でも「山口那津男氏の名前を書く」と小池氏が発言したのも、

従来の保守支持層を取り込む狙いがあるのと同時に

単独過半数は難しいと思っているからではないか。

 勿論、自民党が過半数割れすれば安倍総理は責任を取らなければならない。

しかし安倍総理は07年の参議院選挙で惨敗したにもかかわらず

総理の座に居座ろうとした人物である。何をやりだすか分からないところがある。

 メディアは小池氏の国政出馬の可能性を連日話題にしているが、

5日の昼には前原民進党代表の要請を受けてもなお小池氏は出馬の意思がないと

明言した。その際のぶら下がり会見で小池氏は意味深長なことを言った。

 「羽田政権の後、自民党は『禁じ手』を使い、

社会党の村山党首を担いで政権に復帰したことを思い出した」と発言したのである。

93年に小沢氏の政治力に敗れて政権を失った自民党の反撃は、

まず細川護熙氏のスキャンダルを攻撃し、細川氏が政権を投げ出すと、

次に政権内部で小沢氏と対立していた社会党とさきがけを引きはがし、

社会党の村山党首を担いで自社さ連立政権を誕生させ権力を奪い返した。

 その時、前原氏はさきがけで菅直人氏や枝野幸男氏と行動を共にし、

一方の小池氏は小沢氏の側近として新進党にいた。

自民党は亀井静香氏や野中広務氏、加藤紘一氏らが社会党を口説いて

村山氏を総理に担ぎ、権力を握るためには何でもやるという政治の一面を

国民に見せつけた。

 その話を前原氏と語り合ったということは、「禁じ手」を使ってでも

「安倍一強」を終わらせる考えのように聞こえる。

自民党の中に手を入れ自民党の分裂を誘う政界再編を視野に入れたかのような発言

である。一部では石破茂氏の自民党離党が噂され、

国会の首班指名で「希望の党」は石破氏を担ぐという説も出てきた。

 また小池氏は5日の会見で「日本維新の会」が

松井一郎大阪府知事と片山虎之助参議院議員の二人が共同代表を務めている例に

ふれた後、誰を首班指名するかはこれから考えると言った。

自分は出馬せずに都知事を続け、国会議員の誰かを共同代表にするという意味である。

 これまでメディアは小池氏出馬を前提に、

後継の都知事に誰がなるかに注目してきた。

元神奈川県知事の松沢成文氏、都知事選挙に立候補したことのある細川護熙氏、

果ては小泉純一郎氏、野田聖子氏、蓮舫氏の名前まで挙がっていた。

いずれにしても小池氏が都知事を辞めるにはアッと驚く有力後継者でなければ

都民も国民も納得しない。

 もし小池氏が選挙に出馬しないとなれば「希望の党」に対する期待は

急速にしぼみ選挙結果に大きなマイナスとなるが、

そのマイナスを埋めるにはこちらでもアッと驚く有力者が共同代表にならないと

シナリオの効果はなくなる。

そこのところが前々回のブログで書いた小池氏の「最大の勝負手」になる。

 民進党を二つに分けるために採られた「選別」の手法が

「排除」の論理に傾いたため、「希望の党」の入党のハードルが高くなり、

それが広く反発を招く結果になったのは93年の教訓とは異なる展開である。

小池氏本人はその後「寛容」を口にして反省の姿勢を見せているが、

反発を抑える効果的な手を打たないと「安倍一強」を終わらせるシナリオの意味が

なくなる。

 これから注目されるのは8日の日曜日に日本記者クラブで行われる各党党首による

討論会である。

「希望の党」の代表として小池百合子氏が参加することになっているが、

それまでに「最大の勝負手」を国民に明らかにしないと、

自民党が言うように「希望」が「失望」に代わることになる。

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