★選挙演説まがいの国連演説につくづく米国は情けないー(田中良紹氏)

トランプ大統領の初の国連総会演説はまるで支持者を前にした選挙演説のようだった。

国連加盟国である北朝鮮、イラン、シリア、ベネズエラ、キューバを

「ならず者国家」と名指し、中でも北朝鮮を「完全に壊滅させる」と

威勢良いところを見せた。

 しかし支持者を前に本当のことを言う政治家などフーテンは見たことがない。

支持者を前にすれば喜ばすために嘘を言うのが政治家の本性である。

従って選挙演説を信じて一票を入れる国民は大体がバカを見ることになる。

 問題は無知な大衆を前にした選挙演説と

世界193か国が加盟する国連総会演説とでは意味が異なる。

トランプが支持者の前でどんな嘘をつこうが米国民が選んだ大統領だから

お好きにやればと思うが、

国連総会の演説でお好きに嘘を言われたのでは世界各国は迷惑だ。

トランプの演説を聞いてフーテンは臆病で情けなくなった米国の姿を感じた。

 1991年に旧ソ連が崩壊し冷戦が終わった時、

米国議会情報を日本に紹介する仕事をしていたフーテンにとって

米国の一挙手一投足はすべてが新鮮で驚きだった。

ワシントンは新たな時代を迎える緊張感に満ち議会で

まず議論されたのはCIAの見直しだった。

 CIAは冷戦で生み出され対ソ諜報を担う組織だから

廃止を前提に見直すというのである。

冷戦によって作られた組織や仕事をすべて見直すという米国の徹底ぶりに驚き、

それならソ連を仮想敵とした日米安保体制も見直す必要があるとフーテンは思った。

 そうした議論の中で米国が最も懸念したのはソ連の核技術流出である。

にわかに中東と北朝鮮の核疑惑に目が向けられた。

北朝鮮は旧ソ連の技術で原子力発電を行っていたが、

旧ソ連は平和利用以外認めず、

北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)を締結しIAEA(国際原子力機関)の監視下に

置かれていた。

 ところが93年に北朝鮮はNPTを脱退する。

クリントン政権は94年に北朝鮮の核施設空爆を決断するが、

韓国に甚大な被害が及ぶことから爆撃は直前に停止された。

米朝交渉によって一時的に危機は回避され北朝鮮もNPTに復帰した。

 北朝鮮が再びNPTを脱退するのは

02年にイラク、イランと並びブッシュ(子)大統領によって

「悪の枢軸」と名指しされた後である。

しかも米国は03年に国連に対し「イラクに大量破壊兵器がある」と嘘の報告を行い、

先制攻撃によってサダム・フセイン大統領を捕らえて死刑にした。

 それを見せつけられ金正日は05年に核保有を公式に宣言、

06年にはミサイル発射と一回目の核実験を行う。

核を持たなければサダム・フセインの二の舞になるというのが理由である。

つまり北朝鮮を核武装させたのは他ならぬ米国なのだ。

一方でその頃から米国と北朝鮮の間には水面下の交渉パイプが出来た。

 ブッシュ(子)大統領のイラク戦争は中東にISを誕生させ、

アフガン戦争も米国をベトナム戦争以上の泥沼に陥れた。

そのためオバマ大統領は中東からの軍撤退に全力を注ぐことになる。

軍事的にも財政的にも「世界の警察官」を務めることは無理となり、

北朝鮮との二正面作戦などできない話だった。

 米国が「世界の警察官を辞める」というのは

人的財政的負担を他国の協力に委ねるという話である。

その米国の思惑にすっぽり嵌ったのが日本の安倍政権である。

15年に成立した安保法制は日本の自衛隊が地球上のどこでも

米軍に協力する道を開いた。

 それなら二正面作戦もできる。

トランプの頭の中にはそうした計算が働いている可能性がある。

オバマ大統領が撤退を決めたアフガニスタンへの増派と同時に

北朝鮮と事を構えようとする姿勢の中に何でも言うことを聞く安倍総理の顔が

ちらついているかもしれない。

 北朝鮮問題に軍事オプションなど考えられない。

まず米国にとって核兵器は全く使えない兵器である。

広島、長崎に落として以来、朝鮮戦争にもベトナム戦争にも

最近のアフガンやイラク戦争にも使用していない。

 朝鮮戦争ではマッカーサーが核使用を進言して解任され、

インドシナ戦争ではフランスが米国に核使用を要求して断られ、

その腹いせに米国に対抗する形で自ら核武装した。

アフガンやイラクでの核使用など話題にもならない。

米国が広島と長崎に落としたのは戦争を終わらせるためではなく

人体実験のデータを得たかったからだとフーテンは考えている。 

 米国は旧ソ連と危険な核のゲームを行ったが本当に使う気があったのかは疑わしい。

「ペンタゴンのヨーダ」と呼ばれた冷戦の戦略家アンドリュー・マーシャルによれば、

「スター・ウォーズ計画」という誇大妄想的な兵器によって

旧ソ連にさらに軍事負担を負わせ、

経済的に破たんさせたことが冷戦を終わらせる結果になったと言う。

 米国はほとんど当たらないミサイル防衛を日本や韓国に買わせて利益を得る一方、

中国に北朝鮮経済を締め上げさせ経済的破綻を狙っているように見えるが、

しかし中国にとっては北朝鮮問題を終わらせないことが利益になる。

 そのためロシアを巻き込んでできる限り北朝鮮を存続させる。

それが出来なくなれば米中ロの3国で朝鮮半島をどうするかを話し合い、

それぞれが利益を得る方法を考えることになる。

 安倍政権は「日米韓三国の結束」としきりに言うが、

それは北朝鮮問題で米国が利益を吸い上げるための構図であり、

日米間でこの問題を解決することなどどこから考えてもできない。

北朝鮮と国境を接しているのは中国とロシアだから

中露が参加しない枠組みなどありえない。

 北朝鮮問題とは東アジアの将来をどうするかという問題である。

それを米国の言いなりになるのでは話がおかしくなる。

一時期は世界の一極支配を夢見た米国が四半世紀を経て中東と北朝鮮で躓き、

どうにもならないから強がりを言って問題解決を他国に押し付けようとしている。

 その挙句に国連加盟国の中で気に食わない国を「ならず者国家」と

トランプは批判したが、多くの国はその演説に眉をひそめ、

「ならず者」とトランプとがダブって見えたのではないか。

そのトランプの「使い走り」をしている安倍総理を各国はどのように見ているのか、

フーテンは恥ずかしく思うしかない。

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