★消費税増税で本当に悪くなった日本の経済社会ー(植草一秀氏)

年内に衆院総選挙があるかも知れない。

もりかけ疑惑で安倍自民党は窮地に追い込まれたが、

追及する主役であるべき民進党が自爆している。

2006年も小泉政権が窮地に追い込まれ始めたタイミングで民主党がこけた。

米国牛肉の輸入を拡大したが危険部位が混入されていた。

耐震偽装疑惑が拡大した。

防衛施設庁の汚職問題が拡大した。

小泉純一郎氏が支援したライブドアの堀江貴文氏の刑事事件が発覚した。

民主党が小泉政権打倒に進むべき局面で民主党が堀江氏と

自民党幹事長武部勤氏との間で交わされたとするメールの取り扱いで失態を演じ、

小泉自民党を追い詰めるはずが、前原民主党が崩壊するという結果を招いた。

しかし、「災い転じて福となす」、あるいは「禍福はあざなえる縄のごとし」である。

前原誠司代表が辞任して、火中の栗を小沢一郎氏が拾った。

ここから民主党の大躍進が始まったのだ。

民主党は4月の千葉7区衆院補選に奇跡の逆転勝利を演じた。

小沢代表は「国民の生活が第一」のスローガンを掲げて、

2007年の参院選に大勝利。

参院第一党に浮上し、2008年に代表三選を果たした。

日本政治刷新を恐れる既得権勢力は、

民主党の小沢一郎氏と鳩山由紀夫氏に対する卑劣で苛烈な人物破壊工作を展開したが、

この攻撃をかわして2009年に政権交代の偉業を成就した。

しかし、日本政治刷新を阻止しようとする既得権勢力の執念はすさまじかった。

小沢一郎氏、鳩山由紀夫氏に対する人物破壊工作を激化、

民主党の内部に手を回して政権転覆を図った。


革新政権は破壊され、既得権勢力の傀儡政権である菅直人政権、野田佳彦政権が

樹立され、安倍自民に大政が奉還されたのである。

今回、安倍政治を打倒するべき局面で前原民進党がこけて、

安倍政治の延命可能性が浮上している。

再び小沢一郎氏が民進党の救世主として登場し、局面の大転換を実現するのか。

極めて重大な局面が到来している。

政治を刷新するには、何よりも選挙に勝たねばならない。

安倍政治を打破する勢力が結集しなければならない。

何よりも重要なことは、主権者国民が結集することだ。

主権者国民が全面的に支援する体制を構築しなければならないのだ。

そのためには、主権者にとって最も重要で、

最も切実な問題に焦点を当てる必要がある。

その最重要テーマに掲げるべきと考えられるのが原発と消費税だ。

原発稼働停止=原発廃止については、

すでに多数の主権者がこれを求めていることが明確になっている。

原発についての政策を選択する選挙では、

「原発NO」の旗を明確に掲げた勢力が、

これまでの知事選等でも勝利を収めている。

もう一つの最重要テーマに消費税を掲げるべきだ。

消費税減税、消費税廃止を掲げると、

「これには賛成しかねる」と反応する国民は少なくない。

この人々は、すべて、財務省の詐術に絡め取られているのである。


前回の2014年4月の消費税増税で、日本経済は大不況に転落した。

この点は拙著『日本の奈落』(ビジネス社)をご高覧賜りたい。

私は、2013年末に『日本経済撃墜』(ビジネス社)で、

消費税増税で日本経済が撃墜されることを予測した。

そして、その通りの現実が日本経済を襲ったのである。

日本政府は2014年1月以降の景気後退を隠蔽したまま、

景気回復が続いていることにして「いざなぎ超え」などという虚偽情報を

流布している。

2016年度の税収55.5兆円が

消費税が導入された1989年度の税収54.9兆円と

ほぼ同額であるから現実の変化を理解しやすい。

主要税目の税収は、

1989年度が所得税21.4兆円、法人税19.0兆円、消費税 3.3兆円

だった。

これが、2016年度に、

所得税17.6兆円、法人税10.3兆円、消費税17.2兆円になった。

この27年間に生じた変化は、所得税が4兆円、法人税が9兆円減って、

消費税が14兆円増えたというものである。

消費税が社会保障拡充のために拡大してきたというのは真っ赤なウソなのだ。

法人税と所得税を減税するために消費税増税が強行されてきた。

法人税と所得税減税で恩恵を受けてきたのは、一握りの富裕層である。

法人税率は42%だったものが23.4%にまで引き下げられてきた。

所得税・住民税の最高税率はかつて88%だったが、

これが消費税導入とともに65%に引き下げられ、

さらに50%に引き下げられてきた。

さらにもう一つ、決定的に重要な財務省の「ウソ」がある。

それは、日本政府が1000兆円の借金を抱えて、

「いつ財政破綻の危機に直面してもおかしくない」という「ウソ」が

バラ撒かれてきたことだ。

政府が発表している国民経済計算年報という資料に基づくと、

2015年末の日本の一般政府債務残高は1262兆円で、

たしかに1000兆円を超す債務は抱えているが、

その一方で、1325兆円の資産を保有していることが分かる。

差し引き63兆円の資産超過なのだ。

このような財務状態で財政破綻に陥る可能性はゼロである。

弱肉強食の経済政策と法人税・所得税減税=消費税増税の政策によって

もたらされてきたのが、「世界有数の格差大国」という日本の現実なのである。

「消費税減税・廃止」を次の総選挙の最重要争点に掲げるべきである。


2009年に樹立された民主党政権は、

結局のところ、大成功につなげることに失敗した。

大成功どころか、安倍政治暴走という最悪の結果をもたらした。

表面的には、普天間基地の県外・国外移設の断念が政権崩壊の原因になったが、

これはあくまでも表面的な現象である。

民主党政権失敗の本当の原因は、民主党内部から政権崩壊の強い力が働いた点にある。

民主党内の既得権勢力が革新的な民主党政権を内部から破壊し、

権力を強奪してしまったのだ。

小沢-鳩山民主党政権は、

対米隷属からの脱却

官僚支配構造の破壊

大資本による政治支配の打破

という三つの大政策を掲げた。

文字通り、日本政治を根底から刷新する大改革の方針が明示されたのである。


既得権勢力がこの政策路線に驚愕し、死に物狂いの反抗を示したのは

当然のことでもあった。

沖縄問題では、岡田克也外相、北沢俊美防衛相、前原誠司沖縄担当相、

平野博文官房長官が主要閣僚であったが、

この4名が鳩山首相の指示ではなく、横田政府の指示に従って動いたのだ。

その結果、普天間の県外・国外移設方針が破壊された。

2010年6月の鳩山首相辞任のタイミングで菅直人氏が政権強奪に進んだ。

菅直人政権は既得権支配の日本政治を打破しようとした鳩山-小沢政権から

権力を強奪し、既得権勢力の側に寝返った政権なのである。

つまり、

米国が支配する日本

官僚が支配する日本

大資本が支配する日本

への完全回帰を基本に据えた政権だったのだ。


「官僚が支配する日本」を象徴する政策が、

「シロアリ退治なき消費税増税」

である。

菅直人氏と野田佳彦氏は財務省に絡め取られて、

「シロアリ退治なき消費税増税」に突き進んだ。

「シロアリ退治なき消費税増税を許さない」

は私の政策主張だった。

この提言を全面採用したのが菅直人氏と野田佳彦氏だった。

しかし、その両名が、逆に「シロアリ退治なき消費税増税」に突き進む

先導者になった。

恐らく、その「転向」が、首相就任の条件だったのだと考えられる。


野田佳彦氏は2009年8月30日衆院総選挙の街頭演説で、

「鳩山さんが四年間消費税を引き上げないと言ったのは、そこなんです。

シロアリを退治して、天下り法人をなくして、 天下りをなくす。

そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです。」

と声を張り上げた。

その野田佳彦氏が2012年に消費税増税強行決定で暴走し続けたのだ。

「社会保障費増大の現実を踏まえれば、消費税増税はやむを得ない」

「消費税増税を実施しても消費減退や不況への転落のリスクはない」

「消費税増税を実現しなければ日本は財政危機に陥る」

というのは、すべてが「真っ赤なウソ」である。


既述のように、税収総額がほぼ同じである1989年度と2016年度を

比較したとき、変化したのは、

消費税が14兆円増えて

法人税が9兆円減り、

所得税が4兆円減った

ことだ。

「社会保障拡充のための消費税増税」というのは「真っ赤っ赤な大ウソ」なのである。

安倍政治は経済の弱肉強食化を全面推進している。

その結果として、労働者の実質賃金が第2次安倍政権発足後に約5%も落ちた。

就業者が増えた、失業率が下がった、有効求人倍率が上がったというが、

そのほぼすべてが、低賃金の不安定な雇用なのだ。

自慢できる代物でない。


社会保障制度はずたずたに引き裂かれ、所得がゼロ、所得が乏しい国民からも

容赦なく税をむしり取る消費税増税が強行推進されてきた

零細事業者で、消費税増税を価格に転嫁できない者は、

消費税を消費者に代わって自己負担している。

そのために発生する零細事業者の破たんが後を絶たない。

また、消費税が日本の個人消費を強く強く抑制していることは明白だ。

消費税を導入したのが1989年度。

日本経済の長期低迷は1990年から始動している。

とりわけ深刻な状況が始動したのが1997年だ。

消費税を3%から5%に引き上げた。

2014年度にはこれがさらに8%になった。

爾来、日本経済の低迷が持続している。

「消費税減税・廃止」は次の総選挙最大の争点にふさわしい、

最重要政策テーマである。

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