★消費税減税・撤廃政策が最重要争点である理由ー(植草一秀氏)

第2次安倍政権は2012年12月に発足した。

まもなく5年の時間が経過しようとしている。

メディアが「アベノミクス」の表現をはやし立ててきたから、

多数の国民が「アベノミクスは成功しているのではないか」との錯覚を

植えつけられているかも知れない。

しかし、第2次安倍政権発足後の日本経済を客観的に検証する限り、

アベノミクスは日本国民にまったく恩恵を与えていないことが分かる。

次に行われる衆院総選挙では、日本の主権者にとって、

最も重要で、最も切実な問題を争点に掲げる必要がある。

そして、この争点について一致できる勢力が「連合」を形成する必要がある。

「政策連合」を構築して、主権者が基本政策を選択する。

「政策選択選挙」にしなければならない。

その主要争点とするべきテーマは、原発と消費税である。

原発については、すでにこれまでの首長選挙でも最重要の争点に

掲げられてきた経緯がある。

原発稼動を容認する勢力と、原発稼動を容認しない勢力が対峙し、

主権者が政策を選択してきた。

次の総選挙では、これを国政レベルで主権者が判断するべきである。

原発YESか、それとも原発NOか。

主権者にとって、最も重要で最も切実な問題である。

もうひとつの重要テーマが消費税問題である。

消費税YESか、消費税NOかを主権者が判断する。


安倍政権は、日本経済が2012年11月を底に回復を続けており、

その景気浮上期間が2017年9月で57ヶ月となり、

「いざなぎ景気」を超えると主張している。

しかし、これは「虚偽」である。

日本経済は2014年1月から2016年5月までの約2年半にわたって

景気後退局面を経ているのだ。

鉱工業生産指数の推移を見れば、これは一目瞭然である。

2014年1-3月期から7-9月期まで、

3四半期連続でマイナス成長も記録している。

2014年に消費税増税で日本経済は景気後退局面を迎えているのだ。

しかし、財務省、日本政府は、消費税増税で日本経済が不況に転落した事実を

公表することを拒んでいる。

消費税増税の実施が困難になるからだ。

そのために、消費税増税によって日本経済が景気後退に転落したという「事実」を

隠蔽しているのだ。

そのうえで、日本経済が2012年11月以降、景気回復を続けていることとして、

この9月に、その時間的な長さが「いざなぎ景気」を超えたとしているのである。

「いかさま景気」、「とんでも景気」そのものである。

また、いざなぎ景気が5年で73%のGDP増大を実現した景気であるのに対して、

今回の「いかさま景気」では、5年間のGDP増加が7%にしか過ぎない。

高尾山に登っただけの人がマッキンリー登頂者に「俺も登った」と

言っているようなものだ。

国民にとって何よりも重要な経済指標は実質賃金の推移である。


実質賃金の推移を見ると、2009年から2012年の民主党政権の期間は

概ね横ばい推移を示したが、2012年12月の第2次安倍政権発足以降は、

実質賃金が約5%減少している。

5%減少は深刻な数値である。

「アベノミクス」は日本国民に恩恵をもたらしていない。

苦しみを与えているだけである。

恩恵を受けたのは一握りの大企業だけだ。

上場企業の収益は史上最高を更新し、その結果として株価は上昇した。

しかし、東証第1部上場企業数は約2000社。

日本の法人数の0.05%にも満たない。

この大企業の利益だけが膨張して、労働者の取り分が大幅に減少したのである。

たしかに、就業者は増加し、失業率は低下したが、

労働者全体の取り分が大幅に減少するなかで、

その減少した取り分を分け合わなければならない人数が増えただけのことだ。

一人当たりの所得は大幅に減少したのである。

そして、税の構造変化を見てみよう。

消費税が導入されたのが1989年度で、この年の税収は54.9兆円だった。

2016年度の税収は55.5兆円で、1989年度とほぼ同額である。

税収の構造を見ると、

1989年度は

所得税21.4兆円
法人税19.0兆円
消費税 3.3兆円

だった。

これが2016年度には、

所得税17.6兆円
法人税10.3兆円
消費税17.2兆円

になった。

つまり、所得税が4兆円、法人税が9兆円減って、消費税が14兆円も増えたのだ。

税収全体はまったく同じだ。

これが日本の税制改革なのである。


社会保障支出増大に対応するには、消費税の負担を受け入れなければならない。

多くの国民がこのように考えているかもしれない。

ところが、現実はまったく違うのだ。

法人税と所得税を減税するために消費税増税が実行されてきた。

法人税率は42%だったものが23.4%にまで引き下げられてきた。

所得税・住民税の最高税率はかつて88%だったが、

これが消費税導入とともに65%に引き下げられ、

さらに50%に引き下げられてきた。

しかし、この50%の税率さえ、高額所得者には適用されていない。

金融資産から生まれる所得に対しては、

税率20%での分離課税が導入されたから、

高額所得者の税率は実態上は20%にまで軽減されているのである。


他方、人口の高齢化が進行しているから、

社会保障の給付内容を同水準に保つためには、

社会保障支出が大幅に増えることになるが、

政府はこの社会保障支出の増大を厳しく抑制してきたのだ。

つまり、社会保障支出の水準を大幅に切り下げてきたのである。

これが日本財政の実態である。

2012年に野田政権が消費税増税を強行決定した。

この野田氏が何を訴えてきたのかを知らない者はいない。

2009年8月30日の衆院総選挙に向けて野田佳彦氏は声を張り上げた。

「鳩山さんが四年間消費税を引き上げないと言ったのは、そこなんです。

シロアリを退治して、天下り法人をなくして、 天下りをなくす。

そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです。」

これが民主党政権の政権公約だった。

この公約を反故にして、消費税増税に突き進んだ。

そのために、政権交代の偉業をすべて台無しにしたのである。


財務省は財務省の天下り利権の排除に一歩も動こうとしない。

シロアリ利権を温存したまま、

一般庶民に重税を押し付ける消費税増税に突き進んできたのである。

その財務省が声高に提示する数字がある。

国の借金1000兆円という数値だ。

日本のGDPは500兆円に満たないから、

1000兆円超の借金はGDPの2倍を超える。

「あのギリシャでさえ、政府債務のGDP比は180%だった。

日本はいつギリシャのような政府債務危機に陥ってもおかしくない」

こんな風説が流布されている。

菅直人氏や野田佳彦氏も、

財務省が吹き込むこのような風説で動かされたのかも知れない。

しかし、財務状況を判断するのに、債務金額だけを見るのは根本的に間違っている。


2015年末の日本の一般政府債務残高は1262兆円である。

たしかに、1000兆円を超えている。

しかし、同じ時点の政府資産残高を見ると1325兆円ある。

日本政府は差し引き63兆円の資産超過の状態にあるのだ。

「借金1000円で政府が破産する」

ような風説が流布されているが、日本政府は63兆円もの資産超過なのであり、

破産するわけがないのだ。


民進党の前原誠司氏は、

「社会保障を充実するための消費税増税は許される」と主張するが、

消費税が社会保障の拡充にまったく充当されてこなかった現実があるなかで、

このような主張はまったく説得力を持たない。

財務省は財政支出のなかの利権支出=裁量支出だけを拡充してきた。

「裁量支出」の反対側に位置するのが「プログラム支出」だ。

社会保障支出は制度が決定されると、

その制度に従って政府支出が自動的に実施される。

プログラムに基づいて政府支出が執行されることから、

これを「プログラム支出」と呼んでいる。

財務省と利権政治集団は、「票と金と利権」につながる「裁量支出」だけを優遇し、

「票と金と利権」につながらない「プログラム支出=社会保障支出」を

徹底的に冷遇してきた。

社会保障支出は一般庶民向けの支出だが、

この階層は反自公勢力の支援者であると考えて、

この人々が歓迎する政府支出は抑制しているのである。


政府の財政行動を根本から刷新する必要がある。

その基本は、

政府支出を「裁量・利権支出」中心から、

「社会保障=プログラム支出」中心に転換する。

これが抜本的な財政構造改革である。

他方、政府収入については、「能力に応じた負担」を基軸にすることだ。

消費税中心主義は、富裕層の税負担を軽減して、

担税能力の低い一般庶民に酷税を押し付けようとするものだ。

消費税を軽減、撤廃して、法人税負担、富裕層負担を拡大する。

富裕層の軽減税率分離課税を撤廃して、「総合所得課税」を実施する。

富裕層の金融資産残高に一定の税率を適用するだけで、

消費税減税の財源は確実に捻出できる。


「国民の生活が第一」の経済政策の象徴施策として、消費税減税を提示する。

次の総選挙に向けて、

原発廃止と消費税減税・撤廃の政策を大きく掲げる。

そして、これを実現する「政策連合」を構築して、

「一選挙区一候補者」の体制を築き上げる。

「政策連合」で「政策選択選挙」を実現し、主権者が政権を取り戻す。

これを何としても実現しなければならない。

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