★政治家の「私」をほじくって喜ぶ日本人の愚劣さー(田中良紹氏)

7日発売の週刊文春が民進党山尾志桜里衆議院議員の不倫疑惑を掲載した。

山尾議員とブレーンである年下の弁護士が党代表選挙の前後に週4回密会し、

それが記事になることを知った民進党執行部は山尾氏の幹事長起用を撤回した

という記事である。

 本人の説明が行われていないため事実関係を判断することは出来ないが、

今日のテレビはワイドショーがその話題で持ち切りだった。

そこでは公人たる政治家が不倫するのは許されないとする論調が多く、

一方で本人が議員辞職の意向であるとの報道も流れた。

 果たして公人たる政治家の不倫は許されないのか、

議員辞職をしなければならない話なのか、

またそれが報道されるからと言って内定していた人事案を

撤回しなければならなかったのか、事実関係が分からない段階では

判断することができないのだが、フーテンにはなんとも日本的に過ぎる考えが

横行している気がする。

 よく言われが、フランスのメディアは政治家の身の下話を報道する意義を認めない。

政治家に愛人がいようが隠し子があろうが、

それと政治家としての能力は何の関係もない。

政治家に求められるのは国家の安全と国民の生活を守る使命を果たす能力である。

 ゲスな大衆が喜ぶ政治家の身の下話をほじくり出せば、

政治家の能力を正当に判断できない大衆が政治家を血祭りにあげる喜びに狂い出し、

国の政治を滅茶苦茶にするとフランスのメディアは考えるのである。

 一方、これと対照的なのがアメリカだった。

セックス・スキャンダルはアメリカの政治家にとっては命取りだ。

その背景にあるのは宗教の違いである。

フランスはカソリックでカソリックは離婚を認めない。

離婚が出来ない社会では秘かに愛人を持つことが暗黙の了解となる。

フランスには愛人文化があると言われる由縁である。

 ところがピューリタンが建国したアメリカは厳格に一夫一婦制を守る。

愛人を持つことは許されない。

そのためアメリカでは男女が離婚結婚を繰り返すようになる。

若い時のパートナーと壮年期のパートナーと老後のパートナーが

同じ人間である方がおかしい、人間は離婚結婚を繰り返すのが自然だと

アメリカ人は主張する。

 だから国民を代表する政治家のセックス・スキャンダルは命取りであった。

ところがクリントン大統領の登場がアメリカを変える。

クリントンはヒッピー世代だが、ヒッピーはベトナム反戦運動から生まれ、

フリーセックスを唱えてキリスト教のモラルに叛逆する運動だった。

 そのクリントンは大統領選挙の最中から数々の女性スキャンダルを指摘され、

極めつけはホワイトハウス内での女子学生とのセックスが暴露されたことである。

議会で初の弾劾裁判にかけられた。

しかしそれでも国民の支持は下がらず弾劾も見送られた。

 理由はクリントン政権がIT革命によってレーガン時代の双子の赤字を解消し

経済が好調だったことによる。

それを見てフランスのメディアから「未熟なアメリカ政治がようやく成熟してきた」

と評価された。

 クリントンは不道徳のそしりを免れないが、

どう説明しどう謝罪して国民の支持を取り付けるかという点に政治家の力量がある。

妻のヒラリーに助けられた側面も大きいが、

とにかくクリントンは不適切な行動を説明し謝罪して窮地を脱した。

いまでも大衆の人気は衰えない。

 さて日本の話に戻るが、フーテンは一報を聞いた時、

社会党の党首に土井たか子氏が就任した時を思い出した。

あの時自民党は総力を挙げて土井氏の男女関係を調べ上げた。

そのスキャンダルを握って社会党を言いなりにさせようとしたのである。

ところが男の影が浮上しない。

ハマコーがフーテンに「ないんだ」と言ってうなだれたのを思い出す。

男女スキャンダルが最も大衆受けすることを自民党は分かっているのである。

 それと同じかと思ってみたが、しかし自民党が調べ上げて掴んだスキャンダルなら、

決してすぐに週刊誌には提供しない。情報をもっと有効に使う。

幹事長に就任するのを見届け、幹事長の仕事をやり始めてから週刊誌に書かせた方が

効果的である。あるいは表には出さずに裏で脅して言いなりにさせる方が

利口だと考えるだろう。

 週刊文春が取材を始めたのは代表選挙が終盤に入ってからと思われる。

その時点で前原候補の優位は動かぬ情勢となっていた。

そこで執行部の一角を占めると予想される山尾氏の取材が始められた。

どこからかリークがあったからである。

 フーテンの勘だがこの情報を文春にリークしたのは

自民党ではなく民進党の内部からではないか。

代表選で無効票が8票あり、前原新代表は「厳しい船出だ」と表情を曇らせた。

8票は離党予備軍と見られ、民進党内部に結束を喜ばぬ者がいるのである。

 そう考えさせる日本の政治状況には悲しいものがある。

そうした疑念を振り払うためにも山尾氏や前原代表は国民に対する説明を

きちんと行う必要がある。それも堂々と行うべきだ。

税金を受け取っている政治家に不倫は許されないとか、

選挙に不利になるから離党すべきだとか、そんなつまらない俗論に振り回されずに、

何が政治家であり、何が政治かの信念を披歴すべきだと思う。

 税金を受け取る政治家にだって「公」と「私」の二つの領域があり、

政治家は「公」の部分でのみ評価されるべきで、

「私」をほじくり出すのはむしろ政治を堕落させると考える欧米の考え方が

政治の王道であるとフーテンは考える。

 税金を「私」や「私」の関係者に流用することや、

政策を「私」や「私」の関係者に有利に捻じ曲げる事は許されない。

ところが政治家を血祭りにあげて喜ぶ大衆は「私」のゲスなスキャンダルに注目する。

そして許してはならないものに目が向かわなくなる。

そうした日本政治の悪しき傾向を断ち切るためにも

民進党は国民への説明をきちんと果たすべきである。

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