★政党でなく主権者が主導して闘う次期総選挙ー(植草一秀氏)

民進党の前途が危ぶまれている。

民進党の代表選では国会議員票に8票の無効票が出た。

離党予備軍と見られている。

前原誠司氏と枝野幸男氏による代表選が実施されたが、

3回生以下の議員で両候補者の推薦人になった者はいない。

つまり、民進党の若手議員は今回の代表選から距離を置いていたことが分かる。

この若手議員が離党予備軍の中核を占めている。

新代表に選出された前原誠司氏は挙党一致体制を構築するとともに、

若手の登用を断行するとして、

枝野幸男氏を代表代行に、

当選回数2回の山尾志桜里衆議院議員を幹事長に起用する方針を示した。

ところが、代表選で前原氏を支持した陣営から異論が浮上して、

前原氏はこの人事案を撤回する方針を示した。

新しい幹事長には代表選で前原誠司氏陣営の選対本部長を務めた大島敦氏を起用し、

山尾志桜里氏を代表代行に横滑りさせる方針を示している。

このことが示す重要事実は以下の二点である。

第一は、結局、前原氏は挙党一致体制を構築しない方針を示したこということ。

第二は、幹事長と代表代行に決定的な差異があるということだ。

つまり、代表代行に重要な決定権はない。

「お飾りポスト」ということだ。


枝野氏を幹事長に起用し、山尾氏を国対委員長あるいは選対委員長に起用するなら

挙党体制と呼べる体制になる。

しかし、幹事長ポストを前原氏側近が確保し、

枝野氏と山尾氏を代表代行に祭り上げるのなら、

これは「見せかけの挙党体制」ということになる。

目先の最重要事案は10月22日の三つの衆院補選と一つの知事選への対応である。

安倍政権を退陣に追い込むには、野党陣営が共産党を含む確固たる野党共闘体制を

構築することが必要不可欠である。

枝野氏を幹事長に起用するならその可能性が高まる。

しかし、大島氏を幹事長に起用する場合には、その可能性が低下する。

民進党が共産党との共闘を否定して、小池国政新党との共闘に路線転換するなら、

民進党の分裂、分離が現実化する可能性が高まる。

同時ににわかに現実味を帯びるのが、民進党若手議員の集団離党の可能性である。

山尾氏を幹事長に起用するなら若手議員の離党を回避することが可能になるだろう。

しかし、山尾氏を「お飾りポスト」に祭り上げることにより、

若手の集団離党が現実味を帯びる。

民進党が全面的な解体に進む可能性が高まりつつあるのだ。

しかし、これは日本政治の再編にとっては望ましいことである。

民進党が「水と油の混合体」、奇怪な妖怪「鵺(ぬえ)」の存在であり続けることが

日本の政界再編、野党再編を妨げる主因になる。

この民進党が解体することは、この意味で歓迎するべきことである。


今後の野党再編について複数の主張があること自体はおかしなことではない。

重要なことは、それぞれの主張に大きな背景があるということだ。

本ブログ、メルマガで記述してきたように、日本の野党再編論議は、

日本の長期的な政治体制の問題に直結するからである。

日本政治の分岐点ということになる。

小選挙区制度の下で政権交代が生じる政治体制を

「保保二大勢力体制」

とするのか、それとも、

「保革二大勢力体制」

とするのか。

これが最重要の問題なのである。

そして、この問題と直結するのが、本年10月22日の衆院補選と知事選である。

大事なことは、日本の主権者の意思がどこにあるのかである。

日本の主権者の思潮が自公と同じ、

あるいは自公と類似したもので占められているのであれば、

自公と第二自公による二大政党体制は合理性を有することになる。

しかし、日本の主権者の思潮の多数が、自公と対峙するものであるなら、

自公と第二自公による二大政党体制は合理性を持たない。

現実は明らかに後者であろう。

したがって、民進党がどうなろうとも、主権者が主導して、

安倍政治に対峙する勢力の結集、大同団結を図り、

この主権者勢力が次期衆院選の各選挙区で候補者を一本化することである。

民進党の混乱を乗り越えて、この方向に確実に歩を進めなければならない。


民進党が混迷している最大の原因は

「矛盾」

にある。

「すべての不幸の原因は矛盾にある」

と言われる。

民進党が立ち行かないのは、民進党内に二つの異なる政党が同居しているからである。

このことは民進党の代表選で明らかになっている。

枝野氏の主張がどこまでも本当のものであるのかは分かりにくい。

代表選で支持を集めるために、本心とは異なる発言を示した可能性もある。

民進党の前身である民主党が凋落した主因である「消費税問題」では、

枝野氏も消費税増税を推進する側に回った。

その枝野氏が消費税増税にどこまで慎重であるのかは定かでない。


また、原発についても、フクシマ事故ののちに原発稼働維持の方針を決定したのは

当時の民主党政権である。

2011年3月11日に原発事故が発生した日の夕刻、原発メルトダウン、

原発爆発は確実に予測されていた。

しかし、菅直人政権は原発周辺の住民に対する避難命令を発しなかった。

周辺住民を切り棄てたのである。

だから、枝野氏が今回の代表選で示した政策方針をそのまま信用することはできない。

他方、前原氏が保守勢力の支持を獲得するために共産党との共闘に否定的な発言を

示したとの見方もある。

代表に就任したのちは、共産党との選挙協力を維持するのではないかとの見方もある。


しかし、重要なことは、民進党内に存在する二つの主張、

思潮がまったく異質のものであり、両者に相容れる余地がないことなのである。

原発、憲法、格差の問題に関して、

前原氏が原発許容、憲法改定推進、消費税増税推進の方向を示したのに対し、

枝野氏は原発ゼロ前倒し、憲法改定慎重、消費税増税反対の方向を示した。

主権者が判断するべき最重要テーマに対する基本政策方針が真逆なのである。

この真逆の二つの考え方が、ひとつの政党内に同居していることが

最大の矛盾なのである。


新代表に就任した者が党の主要人事について結論を示しながら、

これを撤回するというのは大失態である。

しかもその変更が、挙党体制を強化するものであるならともかく、

挙党体制を弱めるものであるなら、党の前途は厳しいものにならざるを得ない。

問題はこの民進党のぐらつきが、政治刷新運動に悪影響を与えることだ。

民進党がこのような矛盾に満ちた、しかもぐらついた状況であることを踏まえて、

主権者が政党頼みから離れて主権者が主導する政治刷新運動を進めて

ゆかねばならない。

その際に、第一に重要なことは、基本政策方針を明確にすることだ。

第二に重要なことは、党派の壁を乗り越えることである。

共産党が好きとか嫌いとか、といった情緒的な要因に囚われるべきでない。

第三に重要なことは、こうした政治刷新運動を主権者が主導することである。


次の総選挙に向けて、主権者の本当の思いに沿うもっとも重要な政策方針を

明示することが何よりも重要だ。

そこで、次の総選挙に向けては、二つの施策を鮮明に示すべきだ。

その二つの施策とは、

第一に原発の不安を取り除くこと。

福島の事故はいまだに収束していない。

原発事故に伴う甲状腺がんの発症も拡大している。

主権者の多数が原発稼働に賛成していない。

原発廃止を明確に示す。

これが次期衆院総選挙の最重要争点の一つになる。


第二は生活の不安を取り除くこと。

生活の不安を取り除くための方策は多岐にわたる。

企業の所得分配を変える。

労働関連規制を変える。

社会保障制度を変える。

経済全体を成長させる。

さまざまな方策がある。

このなかで、ひとつの分かりやすい政策を明示するべきだ。

象徴的な意味で分かりやすい施策は、

「消費税を廃すること」だ。


格差拡大をもたらしている要因は多く存在する。

そのなかで、ひとつの重大な影響を与えているものが消費税である。

そして、消費税が個人消費を抑制する大きな要因になっている。

さらに、2009年に鳩山民主党は

「シロアリ退治なき消費税増税を認めない」

との基本方針を示した。

2012年にその民主党が「シロアリ退治なき消費税増税」を強行決定した。

これが民主党凋落の主因である。

この消費税を、まずは5%に戻す。

そして、最終的には廃止を目指す。

「消費税で社会保障拡充」と言われてきたが、そのような事実は存在しない。

現実は、

「社会保障を切りつつ消費税増税」

なのである。

同時に

「消費税増税で所得税・法人税減税」

というのが現実の事実推移なのだ。


原発廃止・消費税減税の「政策連合」を構築して、ここに主権者が結集する。

民主党の迷走が続くなかで、政党頼みでない、

主権者が主導する選挙共闘体制構築が本格的に重要な局面を迎えている。

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