大学の教員人事から加計学園問題を考える


郷原先生
 
 どうも野党の追及は敵失ばかりに着目しすぎて、本質的な論点が国民に見えにくいですね。
 加計ありきの経緯は明らかですが、決定的なのは郷原先生も言っておられるように、2018年4月開校とした事です。京産大はこれで辞退しました。
 ではなぜ辞退したのかを、国民に分かるように野党は質問すべきなのですが、そこが弱いです。そこで、求められて書いた私のメモを送ります。ご参考にしていただければ幸いです。
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大学の教員人事から加計学園問題を考える
    
1 学部開設までの一般的流れ〜人事を中心に
(2015年6月、4条件閣議決定)
(2015年12月、広島県・今治市の特区指定
2016年3月まで:学内の意思一致。
2016年3月、京都府を経由して京都産業大学が獣医学部設置の特区提案。
(2016年8月、文科省OB・加計学園役員、前川文科省次官に督促。
2016年:秋までに、全学教授会・理事会等で学部構想を確定。基幹人事の調整。
(2016年9月、9日、安倍が獣医学部の新設を特区でと。16日、特区WG獣医学部の議論開始、21日、今治市分科会が獣医学部提案。10月17日、WGで京都府が説明。
(2016年11月、広域的に、2018年4月開設、が出る)
(以下は、開校時期前倒しがなくて特区で選ばれた場合の流れ)
2017年3月まで:事前相談用の第一次案、確定。    
2017年4月:基幹教員採用調整(2018年4月着任)。
    5月頃、文科省へ事前相談開始(10ヶ月間に4回程度、文科省へ)
    6月頃、専任教員採用内諾開始(2019年4月着任)。10月頃まで。
    秋までに、コンセプト・人事他、ほぼ確定。  
2018年4月:基幹教員着任。設置認可申請(文科省から設置の内諾)。
      専任教員・非常勤教員の正式採用(2019年4月着任)開始。
      施設の確保や建築開始。
    6月:学生募集開始。
2019年4月開校
2 2018年4月開校—奇策
 2016年11月でその期日を決められると、2017年3月までに事前相談を経て設置認可申請しなくてはならない。構想やコンセプトは書類にできているとしても、基幹教員を2016年12月から翌1月までに正式採用し、専任教員の採用内諾も2月までに済ませる必要がある。年度の途中で教員は移動できない。二十人から三十人ほどの専任教員を冬の数カ月で内定まで確保するのは困難。カリキュラムを組み、教員がシラバスを書く時間もない。
  加計学園は千葉科学大学副学長が獣医学で学部長候補、基幹教員は既に揃えている。専任教員も2016年8月頃までに内諾確保したはず。
3 2016年8月が分水嶺
 上記の通常の学部開設準備の手順を加計学園は2016年8月までに終えていると思われる。8月までに教員採用もめどがついたと思われる。(私の友人の東大獣医卒の人が(***氏)、吉田泰弘先生が必死で掻き集めた、と証言している。)
 担当相の8月の交代の時点で一連の特区シナリオは仕込まれていたはず。
4 なぜ2018年4月と「お尻を切った」か
 2016年3月、京都が名乗りを上げ加計学園はパニックになったはず。なぜなら、通常通り2019年開設で競合すると、両者とも教員の奪い合いで勝負になり勝者は不透明になる。 
 開校時期の前倒しでこれに打ち勝つ方針を、加計学園側は2016年5月頃には決意して人事採用で勝負に出たはず。8月にはめどがついたのであろう。9月から脱兎のごとく特区で囲い込み。
 勝負は開校期日であって、広域的にとか一校に限るとかは何も言う必要はなかった。期日を前倒しにすることで勝てると踏んだのは加計学園で、その要請に応じて特区ルールで「広域的、2018年4月開学」を決めた。その為に担当大臣まで交代させたのは安倍政権の常套手段。
 つまり「お尻を切った」のは、京産大との教員確保競争を避けるためである。隠密裏に先手を打って教員確保し、特区ルールとして「スピード感」で前倒しにした。事実、京産大はそれは「想定外」で、教員確保ができず辞退した。広域的とか一校だけとかの条件より、まさに教員確保が期日に間に合わないから辞退した、と京産大副学長は記者会見で述べている。これは、学部設置申請の経験がある教職員にとってはその通りと頷ける。
 ボーリングや校舎建築だけが見切り発車ではない。競合大学を蹴落とすために教員採用も見切り発車で隠密裏に行われた。この問題は、「特区と云う名の、官邸—私学—自治体間の大学設置インサイダー取引」と呼ぶのが正解であろう。
5 文科省の事前相談は無し
 10ヶ月はかかる通常の事前相談(実質審査)がスキップされ、たった2ヶ月で設置認可申請になり、内閣府の4条件だけでなく、完全に「文科省行政が歪められている」。だから文科省は抵抗した。またその時期に天下り問題で攻撃された。
6 考察
 通常の単体大学設置申請のルールと特区のルールが、特定の申請大学に有利なように恣意的に運用されている。
 自治体と協力して土地を確保したり補助金を獲得する力量は、大学の教育研究能力とは別次元の政治的事柄である。
 通常の大学設置であれば公示して行政側が募集するようなことはない。しかも、獣医学部教員は六百五十人程度で少ない。競合大学が教員確保で競争することは混乱を生むし公平ではない。
 従って、特区公募段階での申請内容は、コンセプトや実績、経営能力などに限定し、それを従来通り文科省が審査して一校に決め、それから教員確保に当たらせるのが適切。教育人材の確保を市場原理で競争的に行い、先に確保した方が勝ちと云うような企業的論理は大学には馴染まない。
 しかも、今回は、一方の当事者にのみ隠密裏に教員確保を先行させ、もう一方の当事者には、後出しジャンケンのごとく「期日前倒し」で教員確保が不可能な状況を押し付けている。競争にすらなっておらず、規制緩和どころか後者にとっては不公平な新規の規制である。
 そもそも、教育・医療・福祉など人間の生命や福祉の再生産にとって重要なセクターにおいて、特区のような市場原理で政策が歪められるのは適切ではない。今後は、特区はこうしたセクターではやらないのが望ましい。(以上)

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