★最重要課題はハゲタカファースト安倍暴政の打倒ー(植草一秀氏)

本日、6月7日、東京地方裁判所民事第17部(裁判長裁判官中村さとみ、
裁判長吉村弘樹、裁判官水谷遥香)は、

「TPP交渉差止・違憲確認および国家損害賠償請求訴訟」に対し、

訴えを却下、棄却する判断を示した。

原告は、

TPP交渉の差し止め、

TPPの違憲確認

TPP交渉による損害に対する国家賠償請求

を求めたが、中村さとみ裁判長は、

TPP交渉差止請求に対して、条約締結は行政権の行使で、

民事上の請求として交渉差し止めを求める訴えは不適法として請求を却下、

TPPの違憲確認およびTPP交渉に伴う損害に対する国家賠償請求に対して、

TPPは発効しておらず、被告(国)と原告との間に具体的な権利義務ないし

法律関係が創設、変更等されていないとして、

違憲を確認することによる原告の利益はないとして請求を却下、

TPP交渉および署名により憲法が保障する生存権(第25条)、

人格権(第13条)、知る権利(第21条)が侵害されたとして

国家損害賠償を請求したことに対して、

TPPは発効しておらず、被告(国)と原告との間に

具体的な権利義務ないし法律関係が創設、変更等されておらず、

TPP交渉および署名によって侵害される原告の権利ないし法的利益は認められない

として、国家損害賠償請求を棄却した。


日本の裁判所は

「法の番人」

ではなく、

「行政権力=政治権力の番人」

である。

裁判所は法と正義に基づいて司法判断を示す存在ではなく、

行政権力=政治権力

の意向に沿う判断を示す

行政権力=政治権力の

「忖度機関」

に成り下がってしまっている。

中村さとみ裁判長は、本事案の審理を担当した当初から、

ひたすら本件事案の早期処理、審理打ち切り、忖度判断の明示だけを追求する行動を

示してきたと観察される。

残念ながら、これが日本の裁判所の実態であり、独立した司法機関として

「法と良心にのみ拘束される」

健全な司法判断を示す可能性は、もとより極めて小さかった。

この意味では、想定通りの「忖度判決」が示されたものと言えるが、

私たち主権者は、こうした司法部の職務怠慢、職務放棄とも表現できる行動を

糾弾するともに、その是正を強く求めてゆかねばならない。


中村さとみ裁判長は、TPPは発効していないから、

「具体的な権利義務ないし法律関係が創設、変更等されていない」

ことを強調するが、

現実には、TPP交渉の進展、署名の実行などにより、

憲法第13条が保障する

「生命・自由および幸福を追求する権利」が

根底から覆される明白な危険が切迫していることは明確であり、

「平穏な生活を営む権利」等の国民の法的利益が損なわれていることは明白である。

主権者である国民が、行政行為によって法的権利および利益等が損なわれたとする

訴えに対して、

「法の番人」であるべき裁判所が、その訴えに耳を貸さず、

いわば「門前払い」のかたちで請求の内容を吟味することなく請求を棄却することは、

司法権の放棄=司法の自殺としか言いようのない行動である。

また、TPP交渉においては国民の「知る権利」も侵害されている。

裁判所は「知る権利」の侵害については、

情報公開を定めた法律に対する違反事案として訴訟を提起するべきであることを

示唆する判断を示したが、この点についても、

裁判所は具体的な訴えがあるにもかかわらず、その内実を吟味しようともせずに

司法判断を放棄しているわけで、裁判所の職務放棄、職務怠慢行為であると

言わざるを得ない。


東京地裁の判断について、判決直後に内閣官房は、

「国の主張について裁判所の理解が得られたものと受け止めている」

とのコメントを発表したが、その実態は、行政権力=政治権力の「忖度機関」に

成り下がってしまっている裁判所が、行政権力=政治権力の意向を忖度した判断を

示したというものに過ぎない。

判決後に司法記者クラブで開かれた会見で、原告の弁護士は

「協定の内容を一切検討せず、国民の権利に対する差し迫った危機について

考慮していない。形式的な判断で到底許されない」

と述べて、直ちに控訴する考えを示した。

判決公判後、

「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」

は第3回総会を開催し、本件事案の控訴方針に加えて、新たに国に対して

行政訴訟を起こす方針が示され、会員の賛成多数によってその方針が決定された

のである。

この闘いを私たちは何としても勝ち取ってゆかねばならない。


東京地裁は

「TPPが発効されていないため、権利義務ないし法律関係が創設、

変更等されていない」

ことから、

「訴えに利益なし」

との判断を示したが、現実の様相はかなり異なる。

現実には、TPPと並行して主要農作物種子法廃止、水道法改定、

産業競争力強化支援法などの立法措置が推進されている。

これらは、TPPそのものではないものの、

TPPと、いわば裏表の関係で整備が目論まれている立法行為であり、

これらが国民の権利を深刻に侵害するものになる。

「違憲訴訟の会」はこうした権利侵害事案について、新たに

「行政訴訟」

で対応する方針を決めたが、現状を踏まえれば、極めて妥当な判断であると言える。

TPPはISD条項によって裁判所自身の司法主権を失うという決定的な内容を

包含するものであり、司法当局こそ、率先してTPPの内実に迫り、

適切な判断を示す必要に迫られるはずだが、

日本の裁判所にはその事実認識さえまったくない状況と言える。

かなり「絶望的」な状況ではあるが、

希望を捨ててしまえば未来への道は塞がれてしまう。

私たちはいま、絶望の山に分け入り、

希望の石を切り出さなければならないのである。


私たちはTPPが

強欲な巨大資本=ハゲタカの利益極大化を目的とするもので、

主権者国民にとっては

「百害あって一利ない」

ものとして、その阻止を訴えてきた。

この判断は正しく、引き続き、TPP発効阻止に向けて活動を継続して

ゆかねばならない。


しかし、ここで立ち止まって、この問題のもう一つの側面を見つめなければならない。

それは、TPPが、日本の外から仕掛けられた、

言わば一つの「外圧」による「脅威」であるとみなされやすいという点に関わる

問題である。

たしかに、TPPには「外圧」という側面がある。

この「外圧」を跳ね返して、日本の国益、日本の主権者の利益を守らねばならない

というのは、その通りである。

しかしながら、よく見ると、この「外圧」による「TPP」を熱烈推進している

勢力が、日本の国外ではなく、日本の内部に存在することが分かるのである。

つまり、TPPは「外圧」によって推進されているだけでなく、

日本の国内勢力によって推進されている面があるのだ。


その「国内勢力」が「安倍政権」そのものなのだ。

TPPは

「ハゲタカのハゲタカによるハゲタカのための枠組み」

であるが、

その

「ハゲタカファースト」

のTPPを熱烈推進しているのが、あろうことか安倍政権自身なのである。

安倍自民党は2012年12月の総選挙で

「ウソつかない!TPP断固反対!ブレない!」

の文字を全面に打ち出したポスターを貼り巡らせて選挙を戦った。

「TPP断固反対!」

をスローガンに選挙を戦っているのである。


その安倍自民党が、手のひらを返して、TPP熱烈推進者に転じている。

これ以上の政治欺瞞、主権者国民に対する背信行為はない。

そして、安倍政権はTPPと並行して、各種制度改悪、規制改悪を強行推進している。

それらの施策は、主権者国民の利益を拡大させるものではなく、

巨大資本の利益拡大だけを目指すものである。

日本農業を「農家の農業」から「大資本の農業」に改変する。

食の安全・安心の諸制度を破壊する。

公的保険医療制度を破壊する。

労働者の権利と処遇を守るための諸制度・諸規制を破壊する。

各種組合活動を破壊する。

これらの施策が、TPPと並行して国内政策として推進されているのである。


この意味で、私たちのいのちとくらし、そして権利を守るためには、

TPPを阻止するだけでは十分ではないのである。

すべての諸悪の根源は、安倍暴政の存在そのものである。

TPPを阻止する活動を今後も継続して、

力の結集を図らなければならないことはその通りであるが、それだけでは十分でない。

安倍暴政そのものを排除することこそ本当の本丸であることを忘れてはならない。

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