【かんたん解説】パレルモ条約,FATF勧告と共謀罪の関係って,何?私たちが迫られている選択とは?


【かんたん解説】パレルモ条約,FATF勧告と共謀罪の関係って,何?私たちが迫られている選択とは?

●パレルモ条約とは?

パレルモ条約(国際組織犯罪防止条約)は,組織的な犯罪を国際的に行うグループに参加したり(結社),同意したり(共謀),資金の調達や洗浄(マネロン)に協力したり,司法を妨害したりすることを禁じ,処罰するための国際条約です。

「パレルモ条約」は,あらゆる組織的な犯罪を罰するための国際的な仕組みなので,それ自体は「テロ行為」を対象にしませんが,「テロ等の組織犯罪を支援することにつながる行為」を抑止するという広い意味で,『テロ対策のための条約』ともいえます。

たとえば,テロリスト・グループが合法的な,あるいは非合法的な組織の活動からテロの資金を得ているとします。このテロの資金源に対し,その収入に貢献する事業等はテロの支援(幇助)活動として禁止され,罰せられます。

このようにテロ資金である可能性のあるお金を追跡して,銀行などの金融機関には,テロ支援に関与することのないよう,厳重な身元確認などの実施が求められます。もし関与した場合は罰せられます。だから,各金融機関は,内部の規定を設けるのです。

●FATF勧告って?

この内部規定にもとづき,各金融機関は資産の凍結や,口座の利用停止,通報などの措置をとって,テロ資金の蓄積の歯止めとなる役割をします。こうした金融に関わる対応の国際基準を作る政策決定期間がG7が設置したFATF(金融活動タスクフォース)です。

FATFは,パレルモ条約(2000)のはるか以前(1989)から存在していましたが,2001年9月11日の米同時多発テロ事件を契機に,国際テロ等の新しい脅威に対応するためその役割が強化されます。より強い権威を持つようになります。https://kotobank.jp/word/FATF-615191

このFATFが「40の勧告」というのを設けて,メンバー国にたいしてその遵守を求めます。日本はかつて2008年にこの「40の勧告」と「9の特別勧告」のうち,なんと半分に近い25の項目について低い評価を受けました。(LCとNCの数を数えればわかります)
http://www.mof.go.jp/international_policy/convention/fatf/fatf_hyouka_201030.pdf

それから2014年にもう1回警告を受けるまでに,日本はこの勧告を減らすべくだいぶ努力したのですが,それでもまだ完全ではありませんでした。そして2014年に,もう一度,あらためて駄目だしされて,4つの項目が残りました。
https://twitter.com/tkatsumi06j/status/872035357348446208

このFATF勧告の4つの項目のうちの一つが「パレルモ条約に批准し,完全に履行すること」なのです。政府がきちんと説明しないので状況は詳しく解らないのですが,おそらく2017年現在では「パレルモ条約」が最後の喚問となっています。

つまり「パレルモ条約」に批准すれば,日本は晴れてFATFからゼロ勧告でいられるくらいの「優等生」になり,先進国では唯一批准していなかった条約にも加盟でき,長年の汚名を返上できるわけです。

実は,安倍政権になってから施行された「特定秘密保護法」も,FATF勧告の項目の1つである「正当な業務上の秘密を主張する明確な手段」を履行するための法整備でした。アメリカのというより,世界の要請だったんですね。

更に,実は機能不全といわれている「マイナンバー制」も,FATF勧告の項目に基づいています。1ページ,項目5「顧客管理」を見てください。「本人確認書類の質が不明」とあり,「NC」となっているでしょう。
http://www.mof.go.jp/international_policy/convention/fatf/fatf_hyouka_201030.pdf

つまり,近年の不人気な秘密保護や個人情報管理の法律はすべて,FATF勧告を満たすために施行されたテロ対策法と考えるのがより妥当なのです。「パレルモ条約」の批准もこの一連の流れに沿った,政府の一環とした政策なのです。

●「共謀罪」との関係は?

そして更に,「パレルモ条約」の批准には必要でなくても,政府が共謀罪を成立させたがっているかの裏にも,FATF勧告があるのです。この資料の9ページ,項目37「双罰性」を見てください。
http://www.mof.go.jp/international_policy/convention/fatf/fatf_hyouka_201030.pdf

「日本の国際捜査共助法における双罰性の要件は、共謀罪や法人の起訴など特定のケースにおいて、障壁となっている」
「日本は共謀罪を有していないとともに、共謀罪で邦人を国内で訴追する権限を有しない」

これ以上ないほど明確ですよね。

だから日本政府は共謀罪を成立させたいんです。これは2008年の段階で「PC(一部履行)」という評価ですが,「C(履行)」という評価ではないのです。これをなんとしても「C」にしたいというのが,長年の政府(官僚)の夢だったのです。

これまで何度も噛み砕いて述べてきたように,本来,「パレルモ条約」に批准するのに「共謀罪」は必要ありません

https://tkatsumi06j.tumblr.com/post/160984121661/

。日本はこれまで共謀罪に関連する法律を整備してきましたが,本来「共謀」の概念は大陸法体系の日本には馴染まないものです。だから大陸法の法体系を持つ多くの国が「参加罪」を選択してきたわけです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88:%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%B5%84%E7%B9%94%E7%8A%AF%E7%BD%AA%E3%81%AE%E9%98%B2%E6%AD%A2%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E9%80%A3%E5%90%88%E6%9D%A1%E7%B4%84

□パレルモ条約の締約国の対応状況

締結国の状況
共謀罪で対応:アメリカ、イギリス、カナダ
参加罪で対応:イタリア、フランス、ドイツ、ロシア、中国、韓国
共謀罪を新設:ノルウェー、ブルガリア
参加罪を新設:ニュージーランド、オーストラリア

非締結国
日本、イラン、ブータン、パラオ、ソロモン諸島、ツバル、フィジー、パプアニューギニア、ソマリア、コンゴ共和国、南スーダン
(2017年1月現在)

しかし日本は,これまでFATFに沿って共謀罪に関連する法律を整備してきた経緯があります。更に,「パレルモ条約」を批准していないのは先進国では日本1国のみという汚名を返上したいという「感情」が根強くあります。推進派も,この「感情論」をよく出します。「日本だけなんですよ?」と

だから,なんとしても「共謀罪」を完成させ,「パレルモ条約」に批准して,FATF勧告の条件をすべてクリアして,2020年の東京五輪までに『国際テロ対策をすべて実施している国』という安心と安全の「実績」がほしいのです。"そんな理由"で,共謀罪は手を替え,品を替え推進されてきたわけです。

今度は名前まで変わりましたね。

「テロ準備等」と。いくら構成要件を厳格化しても(それでも定義や範囲が曖昧なのですが),その実態は「共謀罪」です。なにしろFATFは「共謀罪」の成立を求めているのですから,だから政府が何といおうと,FATF勧告に応える目的である限りは,新法案は「共謀罪法案」なんです。

このように,現在参議院で審議されている「組織犯罪処罰法」の改正法案は,FATF勧告と切っても切れない関係にあります。「パレルモ条約」批准も,FATF勧告あってのことです。更に、これを補完する安保理決議もあります。

そして,勧告を遵守することを焦るあまり,2005年からずっと,基本的人権を保障する保護規定を設けずに突っ走ってきました。更に,次のFATF共同レビューが2019年にあるので,推進派からすれば待ったなしの状況です。

●おわりに

これが「新共謀罪法案」を巡る,私の知る限りの事実関係のすべてです。

どうでしょうか?

FATF勧告を受け続ける屈辱を返上したい。「パレルモ条約」を批准していない唯一の先進国であるという汚名を返上したいという「感情論」からの推進。国際的なテロ等の国際犯罪抑止に貢献する国でありたい、安保理決議を履行する国でありたいという「国際協調論」としての推進。その混合としての「正論」としての推進論というものが,おおよそ推進派が唱える正当化の理由でしょう。

一方で,FATF勧告が重要であっても,安保理決議が重要であっても、パレルモ条約に批准することが重要であっても,基本的人権の尊重と保障,権力の濫用の監視の保障がなければ,おいそれと賛同できないというのが,賢明な反対派の意見でしょう。しかも政府は一向にこうした法の瑕疵に対応しようとしてません。

ただ,「範囲は限定的だから問題ない」「対象は厳格に指定しているから問題ない」と言い張るだけです。これに対し,プライバシーの権利に関する国連特別報告者が法案の見直しを推奨しても,あのように「怒って」抗議するだけのことしかできません。

ケナタッチ特別報告者は,次のことを理由に,プライバシーに関する権利との他の基本的な国民の自由の行使に影響を及ぼす「深刻な懸念」を表明しています。
https://tkatsumi06j.tumblr.com/post/160905707246/

「法の適用の実際の範囲」が不明瞭であること,「組織犯罪と関係のない犯罪に対して法が適用される」こと,「組織的犯罪集団」の定義が漠然としていること,「計画」の定義が明確でないこと,「監視が行われる可能性」に関する担保(令状主義の強化等)の不在,捜査当局や治安維持間の活動の監督規定の不在,,独立した第三者機関の不在等。

これはトレードオフの問題です。

国際的な栄誉のため,国際的に協力する姿勢を見せるために,基本的人権の軽視を認めるかどうか。国家の暴力装置(警察・治安維持機関)による職権濫用の可能性を一切排除して,政府というものを信任して,国際栄誉・協力という実績のために,このトレードオフを認められるかどうか。

政府与党が保護措置を行わないまま法案を衆院で可決してしまったいま,参院で大きくその内容が変更されるとは思いません。もし内容が修正されたら,それをまた衆院で再可決する必要があるからです。でなければ立法府として機能しません。

修正される余地がないなら,到底いまの内容はいち国民として承服できない。それが私の個人的な立場です。

皆さんはどうですか?

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