★追い詰められれば強行姿勢を採るのが権力の常ー(田中良紹氏)

19日の衆議院法務委員会で安倍政権はいわゆる「共謀罪」の採決を強行、

直後に加計学園を巡る問題文書の存在を「確認できなかった」と発表して

調査を打ち切った。一般の国民には「安倍一強」が思い通りに

政治を操っているように見えるかもしれないが、

政治の内実とはそうしたものではない。

国民の賛否が分かれる法案を野党の反対を押し切って採決することも、

同じ日に多くが認める文書の存在を打ち消すことも、

安倍政権が追い詰められているからこその行為であり、

権力が万全であるなら別の対処が考えられる話である。

安倍政権は現在まさに追い詰められているのである。

追い詰められているからこそ弱みを気取られぬよう平静を装い強い態度で押し通す。

少しでも弱みを見せればそこから付け込まれるという恐怖感が

強い態度を必要にさせている。

従って安倍政権はこれからも強い態度を貫き続けることになる。

それが続くとどうなるか。フーテンはこれまで権力の強さと弱さ、

その栄枯盛衰を見てきたが、権力が強くあり続けなければならなくなった時に

権力は崩壊を始める。内部からの自壊が始まるのである。

文科省から加計学園の問題で内部文書がリークされたのはその一端だが、

安倍政権内部の自壊現象が見え始めたのはこれが初めてではない。

森友学園問題が発覚して以来、安倍政権の打つ手はことごとく裏目に出たが、

その裏目の出方が尋常でない。そこにフーテンは権力の崩壊を感じていた。

初めに異様だったのは森友学園の国有地払い下げに

安倍総理が「自分も妻も事務所も一切関係がない。あったら総理も国会議員も辞める」

と答弁したことである。よほど深刻な問題が背後にあると感じさせた。

何もなければあれほど強い否定をするはずはない。

一方の財務省はすべての資料を破棄したと言う。

少しでも官僚機構を知っている人間ならありえない話である。

ますます深刻な問題であることが分かる。

そして驚いたのは森友学園の前理事長を「しっぽ切り」しようとしたことだ。

権力はそんなことはやらない。抱き込んで敵に回さないのが普通である。

すると面白いことに自民党麻生派の鴻池祥肇参議院議員が

森友学園前理事長夫妻の陳情内容を共産党にリークして国会で追及させた。

表向きは「悪いのは森友学園、安倍総理夫妻は被害者」と言うが、

それによって全マスコミが注目するところとなる。

こういうのを永田町では「さすっているようで叩いている」と言う。

味方であるように振る舞いながら実は打撃を与えるのだ。

その鴻池氏は2015年に安保法制を成立させた参議院の委員長である。

審議を見ていると成立させなければならない役目ではあるが、

野党と同じくらいにこの法案の成立に疑問を抱き、

フーテンには人知れず抵抗しているように見えた。

安倍総理の政治手法とはそりが合わないのだ。

そして鴻池氏は森友問題が燃え盛る3月中旬に

輿石東元参議院副議長の叙勲パーティに駆け付け、

「東の小池に西の籠池」とスピーチして、

森友学園の前理事長を安倍総理の好敵手と持ち上げた。

輿石氏は元日教組委員長であり、安倍氏周辺が蛇蝎のごとく嫌う人物である。

教育勅語を教える森友学園に対する支援は反日教組の団体「日本教育再生機構」の

シンポジウムで松井一郎維新の会代表と安倍総理が接点を持ったことから始まった

と言われる。

その「日教組のドン」のパーティには注目の人物が出席した。

安倍総理の女房役菅官房長官である。

輿石氏とは全く接点がないだけになぜ駆け付けたか分からないが、

自由党の小沢一郎代表や自民党二階派の伊吹文明元衆議院議長ら

出席メンバーはみな安倍総理とは距離がある。

フーテンにはなにやら政局が動き始めていることを感じさせた。

それより前、籠池前理事長の国会招致に自民党は否定的だったが、

前理事長が「安倍総理から寄付金を貰った」と発言したことを受けて

一転し証人喚問を決めた。

偽証をすれば逮捕される可能性のある証人喚問は安倍総理の指示だと言われたが、

テレビ中継されれば逆に火に油を注ぐ結果になりかねない。

それを竹下国対委員長は即決で決めた。

フーテンにはこれも「さすっているようで叩いている」と見えた。

案の定、証人喚問で籠池氏は昭恵夫人の秘書官が財務省にファックスを送付して

森友学園の便宜を図っていたことを明らかにした。

昭恵夫人秘書官の事実上の上司は総理首席秘書官今井尚哉氏である。

安倍総理の政権運営の凡てのシナリオを書いている。

なるほどシナリオライターが深々と関与している疑惑だから

正常な感覚でことを処理することが出来ないのだ。

だから必要以上に強い姿勢で拒否を貫き、それがことごとく裏目に出ている。

そして維新の会と自民党との連携に批判的な自民党の西田昌司参議院議員は

国会で質問する前に安倍総理から直接電話を受け、

質問内容を変えてくれと頼まれたことを朝日新聞に明らかにした。

そのうえで西田氏の質問から昭恵夫人の携帯メール内容が明らかとなり、

昭恵夫人が「神がかりの人」であることが世間に公表された。

西田議員は昭恵夫人を守る発言をしているのだが、

これもフーテンには「さすっているようで叩いている」と見える。

追い詰められているのは安倍総理だけではない。

森友学園問題の端緒を作った維新の会も追い詰められている。

だから安倍総理は質問内容を変えてくれと西田議員に頼んだ。

党総裁から頼まれれば断るわけにはいかないが、

その事実を西田議員はメディアに明らかにした。

森友問題以来、安倍総理と維新の会は一蓮托生の関係にある。

追い詰められた同士の距離はどんどん縮まる。

その結果が5月に入り突然安倍総理が発表した憲法改正の話になる。

あれは維新との連携を強調した話である。

しかも2020年までと期限を切ったのは、

自分に残された時間があまりないことを自覚しているためではないか。

2015年の集団的自衛権行使容認によって米国にとり安倍政権は

すでに用済みになった。平和憲法を改正して自立でもされたら米国にとって不利益だ。

だからこれまで問題とされてきた9条2項(戦力不保持・交戦権否定)を

安倍総理は削除しようとしない。永久に米国の属国になろうとするわけだ。

そんな憲法改正なら急ぐ必要もないのに急いでいるのは、

次々に何かを打ち出し一蓮托生の維新の会との関係を密にしておかないと

不安なのである。維新との密なる連携は「共謀罪」の採決時に如実に表れた。

それまで法務委員会の議論に参加したことのない維新の議員が

採決を促す発言をするためだけに出席した。

そしてこの日に採決しなければ会期内に成立させることは出来ず

大幅な会期延長が必要になると国対から言われ、大幅会期延長をすれば

森友問題と加計問題でどんな爆弾が飛び出すか分からないところから

安倍政権は無理をせざるを得ない。

そういうところに現在の安倍政権は追い詰められている。

強い姿勢を見せざるを得ないのは米国のトランプ政権も同様である。

こちらもロシア疑惑のスキャンダルで追い詰められている。

だからロシアと対立するように見せかける突然のシリア爆撃と、

核ミサイル技術を向上させている北朝鮮に対する軍事威嚇を煽ることで

窮地を脱しようとした。

さらにFBI長官を電撃解任することで捜査に委縮効果を与えようとしたが、

それはスキャンダルを力で封じ込めようとしたニクソン元大統領の

ウォーターゲート事件を想起させ、一方では軍事威嚇は見せかけだけと

北朝鮮の金正恩委員長に一蹴され新型ミサイル実験を許す結果となった。

それでも追い詰められているが故にトランプは強気の姿勢を崩すわけにはいかない。

しかし国際社会はトランプ政権の内実を冷静に見ている。

オランダ、フランス、ドイツの選挙結果を見るとトランプ流の政治とは

決別したいと考える欧州国民の投票行動が読み取れる。

政治の振り子は再び揺れ始めた。

トランプ大統領とケミストリーが合うと言われて喜んだ安倍総理だが、

何でも言うことを聞くと思われた日本に対する米国の要求は

これからますます強まることになる。

米中が手を組む流れが前面に出てくる可能性もある。

ただし似た者同士のトランプ大統領と安倍総理が

いつまで共に在職していられるかは予断を許さないとフーテンは思うのである。

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