★腹八分・腹六分のあいまい共闘がもたらした現実ー(植草一秀氏)

沖縄情勢の変化に注視が必要である。

4月23日投開票の沖縄県うるま市長選で、自民、公明両党が推す現職が、

翁長雄志知事や民進、共産両党などが支援する新人に勝利した。

本年1月の宮古島、2月の浦添の市長選に続き、沖縄県内の市長選で

自民党系の候補者が3連勝した。

翁長雄志知事の「オール沖縄体制」に明確な翳りが生じている。

このまま推移すれば、来年1月の名護市長選、

11月の沖縄県知事選に影響することは必至である。

朝日新聞世論調査によれば、沖縄県民は辺野古米軍基地建設に反対し、

翁長知事を支持しているということになる。

しかし、国政を安倍政権が握り、辺野古米軍基地建設を強行している。

安倍政権は財政支出を沖縄を揺さぶる手段として活用し、言わば、

札束で頬を叩くような対応で沖縄の選挙戦に影響力を行使している。

こうした「利益誘導型政治手法」が沖縄の選挙に強い影響を与えている。

翁長知事を中心に据える「オール沖縄」陣営は、

沖縄政治情勢の重要な変化を直視して対応しなければ、

沖縄での政治的支持をさらに失うことになるだろう。

2018年11月の沖縄県知事選での翁長氏再選には明確に黄信号が灯り始めている。

安倍政権は辺野古米軍基地建設を加速させている。

沖縄防衛局は4月25日、辺野古米軍基地建設に向け

米軍キャンプ・シュワブ沿岸部を埋め立てる護岸建設工事に着手する。

埋め立て工事が本格的に始動することになり、

大量の石材や土砂などが投下されれば原状回復は困難となる。


「オール沖縄体制」の翳りの主因は、翁長雄志知事が、

「辺野古に基地を造らせない」

との公約実現に全力を注いでこなかったことの順当な帰結であると

判断せざるを得ない。

「オール沖縄」は、

翁長知事が「辺野古に基地を造らせない」ために、尽力してきたと反論するだろうが、

現実は異なる。

そもそも、2014年11月の沖縄県知事選に際して、

辺野古米軍基地建設阻止を求めてきた県政野党5会派は、知事選公約に、

「埋立承認を撤回し、政府に事業中止を求める」

に盛り込むことを要請していたが、翁長雄志氏を「オール沖縄」の統一候補として

擁立する際に、

「新しい知事は承認撤回を求める県民の声を尊重し、辺野古基地を造らせない」

に変化した。

つまり、翁長雄志氏は沖縄知事選出馬に際して、

埋立申請承認に撤回または取消を公約に明示しなかったのである。

私は、「辺野古に基地を造らせない」との目標を実現するには、

辺野古米軍基地に反対する勢力が候補者を一本化すると同時に、

統一候補者が埋立承認の取消または撤回を公約に明記することが必要であると訴えた。


2014年10月7日に沖縄県那覇市で開催されたシンポジウムで基調講演を行い、

このことを訴えた。

【2014.10.07】基調講演 植草一秀

https://www.youtube.com/watch?v=NP67c8WyGPg

本ブログ記事でも、

「詰め甘の あいまい公約 怪我のもと」

http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/post-eb74.html

などと訴えてきた。

しかし、翁長氏は知事選出馬に際して、埋立承認撤回・取消を公約に明記することを

頑なに拒絶した。

動画映像

https://www.youtube.com/watch?v=aZEIXJRXFiY#t=421

の4分45秒~6分45秒の部分でこのことを確認できる。

翁長氏は2014年12月に知事に就任したが、

埋立承認取消に動いたのは2015年10月である。

翁長氏の有力な支援者である、

翁長氏の後援会長を務めてきた宮城篤実前沖縄県嘉手納町長は、

2015年7月5日付日本経済新聞

『日曜に考える』

「政府・沖縄 対立深まる基地問題」

で、

「辺野古への移設を阻止できると思いますか」

の質問に対して、

「相手は国家権力だ。

辺野古での工事が完了し、日米で使用を開始するとなったときに

それを止める方法は県にはない。

しかし、それで翁長知事が負けたことにはなるとは思わない。

知事は権限の範囲内で精いっぱいやればよい」

と述べている。

つまり、翁長氏は「辺野古に基地を造らせない」ポーズを示せば、

結果として辺野古に基地が造られてもやむを得ないとのスタンスを示している。

要するに、翁長氏のこれまでの対応は、

国による辺野古米軍基地建設をいかなる手段を用いてでも

絶対に阻止するというものにはなっていない。

この翁長知事の「あいまい対応」が、

沖縄県民の翁長支持離れを生み出していると考えるべきなのである。


上述の日経新聞記事で、宮城氏はさらに、

「日本国民全体として判断して沖縄に

『この程度は何とかしてほしい。その負担に応えて支援をしましょう』

ということで、何らかの妥協点が示されるならば、

基地をゼロにしろと言うつもりはない」

とも述べている。

これが翁長知事の後援会長の言葉である点を見逃せない。

この言葉は、

「基地建設に精一杯反対を唱えるなら、

辺野古に基地が造られても、翁長知事が負けたことにはならない」

と言っているものだ。

そして、

「基地建設受け入れと沖縄支援策で取引するなら沖縄が妥協できる」

と言っていることになる。


2014年の知事選において、

「埋立承認の撤回・取消の公約への明記」

を求めていた県政野党5会派は、翁長氏の擁立を決定する際に、

この要求を取り下げた。

そして、知事選公約を

「新しい知事は承認撤回を求める県民の声を尊重し、辺野古基地を造らせない」

に変えて、翁長氏擁立を決定したのである。

その理由は、翁長氏支持勢力に、上記の宮城氏の発言が示唆しているような、

国から財政支援などを獲得することと引き換えに

辺野古米軍基地建設を実質的に容認するとの考え方を持つ、

翁長氏の元来の支持勢力が存在していたと考えられることにある。


翁長氏は2014年10月の知事選出馬表明会見

https://www.youtube.com/watch?v=aZEIXJRXFiY#t=421

において、埋立承認の撤回・取消を公約に明記しないことについての記者からの

質問に気色ばむ対応を示した

(4分45秒~6分45秒の部分)

が、このなかで、「オール沖縄」の体制が

「腹八分、腹六分」

の共闘体制であると述べている。

つまり、

「オール沖縄」

は、言い換えると、

「辺野古米軍基地絶対阻止」を求める勢力と

「辺野古米軍基地建設実質容認」の勢力とによる

「腹八分、腹六分」の共闘体制であったと考えることができる。


そのために、翁長氏の基地建設阻止に向けての行動は、

すべてが遅れてきたのであると思われる。

結果として、このことが、国による辺野古米軍基地建設を実質容認する効果を

発揮してきた。

高江のヘリパッド建設にしても、

翁長知事はヘリパッド建設を阻止するための強い行動を示していない。

言葉の上では「反対」の意向を示しても、知事権限の行使という、

具体的な行動において、建設を阻止するための強い行動を示してこなかったのである。


基地建設を容認して財政支援を求める方が良い、との主張は存在し得るだろう。

それはそれで一つの見解である。

しかし、他方で、基地建設の問題を、

そのような「金銭解決」で決着するべきでなく、

沖縄の過大負担を固定化するような新たな基地建設を絶対に阻止するとの主張もある。

翁長氏の行動は、その両者をあいまいな形で取り込む戦術であったと

見ることができるが、そのような「あいまい戦術」は、

知事選に勝利するという目先の事情には有効であるかも知れないが、

最終的には純粋な「辺野古基地建設阻止」の主権者を裏切ることにつながり、

弊害が大きいと言わざるを得ない。

このことは国政においても当てはまる。

政権交代を実現するには「呉越同舟」が手っ取り早いかも知れないが、

「呉越同舟」で政権を奪取すると、政権発足後に大きな内部対立、矛盾が

生じてしまう。

政治において最終的に重要なことは、政策の実現である。

政策の対立を軸に選挙戦での対立が形成されないと、政権が円滑に推移しない。

選挙協力、共闘体制の構築は、

「政策基軸」

であるべきで、かつ、

「明確な公約の明示」

が極めて重要になる。

沖縄では、辺野古の海を守るために、

翁長知事は直ちに埋立承認の撤回に進むべきである。

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