★日本で反グローバリズムが勝利する方策ー(植草一秀氏)

フランス大統領選の第1回目の投票が行われ、

極右政党NF(自由戦線)のルペン氏と

中道のマクロン氏が決選投票に進むことが確実になった。

決選投票は5月7日に実施されるが、

決選投票ではマクロン氏が勝利すると見込まれ、

欧州情勢がさらに急変するリスクが後退する。

市場が警戒したのは、

第1回目投票でルペン氏と急進左派候補であるメランション氏の2名が

勝ち残るケースだった。

この場合には、ルペン氏かメランション氏のいずれかが大統領に就任することになり、

どちらに転んでもフランス政治が激変することになる。

両者はともにEUに対して否定的であり、

英国に続いてフランスがEUから離脱することになれば、

EUの事実上の崩壊という事態に発展することも想定される。

ユーロ急落、欧州株価の急落などの反応も警戒されていた。

大統領選直前にパリでテロが行われたことは、

イスラム勢力に対する排他的な主張を提示してきたルペン氏に有利に働き、

急進左派のメランション氏には不利に働いたと考えられる。

こうした政治的な背景からテロが仕組まれた可能性も否定できない。

また、左派陣営では社会党のアモン氏が選挙戦の最終局面で

上位4候補者から水をあけられて失速したが、

急進左派メランション氏との候補者一本化は実現しなかった。

候補の一本化が実現していればメランション氏が決選投票に進んだ可能性が高い。

選挙においては、こうした「大同団結」が果たす意味が極めて大きい。

マクロン氏は39歳の若い候補者で、

フランスの主権者は、この若い候補者に政治刷新を託す選択を示したとも言える。


世界政治で大きなテーマになっているのが

反グローバリズム

である。

「グローバリズム」

とは、

「大資本の利益を極大化するために、国境を超えて、市場原理のみによって
経済社会を動かすことを目指す運動」

のことだ。

グローバリズムを推進しているのは、

国境を越えて活動を展開する巨大資本=多国籍企業=ハゲタカ勢力である。

彼らは市場原理が支配する世界統一市場を形成しようとしている。

資本が利益を極大化するための方策は、

コストの極小化

であり、その最大のターゲットになるのが労働コストである。

労働コストには地域差がある。

労働コストの低い地域の労働力を活用することにより、

労働コストの高い地域の労働コストに下方圧力がかかる。

国境を超える労働力の移動を促し、グローバルに労働コストの引き下げを実現する。

移民が流入し、既存の労働者の所得が減少する。

このことによって、排外的な主張が欧州でも拡大しているのである。


グローバリズムの加速によって、世界全体で労働者の没落が広がっている。

1%の富裕層に富と所得が集中し、99%の一般労働者の富と所得が減少する。

格差拡大は資本主義の進展に伴う必然的な結果であるとも言える。

こうした経済現象を分析して脚光を浴びた経済学者が

フランスのトマ・ピケティである。

問題は、このような性格を有するグローバリズム進展に対する民衆の反対、反抗が

広がる際に、これが二つの潮流に分かれてしまうことだ。

所得分配の平等化を求め、最低所得水準の保障を求める

社会民主主義的な政策を求める主張が拡大する一方で、

移民排斥、人種差別的な反応も拡大する。

フランスではルペン氏への支持とメランション氏への支持に、

反グローバリズム勢力が分断された。

米国では民主党のサンダース氏と共和党のトランプ氏に分断されたのである。

英国のEU離脱国民投票では、両者の投票が融合された。

どちらの立場を取るにせよ、EUからの離脱が正しい選択であるとの判断が

持たれたのである。

米国大統領選では、クリントン氏のグローバリズム推進に反対する国民の一部は、

最終的にトランプ氏に投票したと見られる。

本来の民主党支持者の一部がクリントン氏支持からトランプ氏支持に流れたのである。

グローバリズムを推進する政治を刷新するには、

反グローバリズムの主張を持つ主権者の投票を融合することが求められる。

その実現がなければ、現実政治を打破することが難しくなる。

日本でも格差拡大、グローバリズム進行に対する反対勢力は拡大しているが、

それが排外主義と社会民主主義の主張の二つに分断されてしまうと、

政治変革の可能性は低下してしまう。

逆に言えば、それがグローバリズム推進勢力のねらい目になっているとも考えられる。

フランス大統領選の結果が日本の政治変革のあり方に示唆する点は大きいと言える。


欧州の場合、現実に数十万人、数百万人単位で移民が流入している。

その結果として、社会の不安定化が進行している。

既存の労働者にとって移民の流入が脅威として感じられることも事実であろう。

賃金に下方圧力がかかり、所得が減少する、職を失う、という現実も生まれている。

このような現実を背景に、欧州全体で移民の流入に対する制限を求める主張が拡大し、

排外主義的な運動が拡大しているのである。

欧州における排外主義の拡大には、それなりの現実の背景があると言える。


これに対して、日本の現実はまったく異なる。

日本は移民をまったく受け入れていない。

欧州諸国における排外主義を日本が批判しても、説得力は乏しい。

日本自身が極めて「排外的な移民政策」を採用しているからである。

この日本での排外主義の蔓延は批判されるべきものだ。

しかしながら、その日本においてさえも、排外主義的な主張が広がっている。

この現象は、日本における急激な格差拡大、中間層の没落を背景とするものである。

下流に押し流された民衆の不満のはけ口として、排外主義が利用されている。

同時にこのことは、格差拡大を推進する政治権力に対する不満が

ひとつにまとまらないための「策略」でもあると考えられる。


日本において排外主義的な主張を展開する政治勢力が安倍政権と結託する傾向が

観察される。

安倍政権自身が排外主義的な主張に同調する傾向を有し、

このことによって、排外主義的な民衆勢力と結託しているのである。

このことが、安倍政治を打破する際の最大の障害になりつつある。

逆に言えば、これが、格差拡大=グローバリズムを推進する勢力の狙いであるのかも

しれない。

格差拡大=グローバリズムを推進する政策を実行しても、

これに反対する民衆の政治運動が一本化せずに、

分断されれば、政治的に強い勢力にはならない。

「分断して統治」

という言葉があるが、

グローバリズムを推進する際には、

反グローバリズム勢力の分断

こそが重要な課題になっているとも考えられる。


日本において重要なことは、

排外主義に走らずに、

グローバリズム推進による

格差拡大

労働者の権利保障の圧縮

食の安全・安心の軽視

国民医療保障制度の破壊

等への抵抗を

一本化することである。


「連帯」

こそ、現実を変革するための最強の方策である。

安倍政治は

原発を推進し、

戦争を推進し、

TPPを推進し、

辺野古米軍基地建設を推進し、

格差拡大=消費税増税を推進している。


この政策運営に反対する主権者勢力は大きい。

この勢力が

「政策を基軸に」

「党派に関わりなく」

「連帯」

することが重要だ。

この「連帯」が実現すれば、安倍政治を打破することができる。

現実を打破する最良の方策は

「民主主義の活用」

である。


このとき、最大の障害になるのは、

小異によって分裂することである。

大異を残すことはできないが、小異は残し、

大同につくことが重要なのだ。

排外主義と連帯することはできないが、

安倍政治の「戦争と弱肉強食」の政治に反対する勢力が、

「平和と共生」の政治実現を求めて

オールジャパンで連帯することが求められている。

これを実現できれば、日本では、必ず政治刷新を実現することができる。

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