ケヴィン・コスナーは表象体のobjectではない。


映画『ワイアット・アープ』は次の命令を発している。

命令A:ケヴィン・コスナーについて、彼がワイアット・アープであると想像せよ。

 ここで、文A「ケヴィン・コスナーがワイアット・アープである」という文を考える。
 1.現実世界において、「ケヴィン・コスナー」の指示対象と、「ワイアット・アープ」の指示対象は同一ではない。したがって、文Aは現実世界において、偽である。
 2.『ワイアット・アープ』-虚構世界において、「ケヴィン・コスナー」で指示される対象は存在しない。なぜなら、『ワ・ア』-虚構世界で「ケヴィン・コスナー」という固有名が用いられているとする理由がないからである。したがって、文Aはこの虚構世界で偽であるか、または真理値をもたない。
 3.現実世界において、文Aが、「ケヴィン・コスナーがワイアット・アープ の役 である」の縮約だと考えてみる。すると、文Aは、真である。
 4.『ワ・ア』-虚構世界で、文Aが、「現実世界のケヴィン・コスナーがこの世界のワイアット・アープである」の縮約だと考えてみる。だが、依然として、『ワ・ア』-虚構世界の中で、「現実世界のケヴィン・コスナーがこの世界のワイアット・アープである」に意味を与えることはできない(ように私には思われる)。この虚構世界の中には「現実世界のケヴィン・コスナー」の指示対象は存在しないからである。

 命令Aが理解できる(有意味である)のは、次の理由による。
 (ア)命令A「ケヴィン・コスナーについて、彼がワイアット・アープであると想像せよ」は、現実世界で発せられる命令文である。現実世界の聴き手(我々)は容易に理解できる。
 (イ)虚構世界においては、「彼がワイアット・アープである」という命題が成り立ち、これを我々は容易に理解できる。
 上の文Aは理解不能であるのに、「彼がワイアット・アープである」が理解できる理由は以下のとおり。指示詞「彼」の指示対象を同定するための情報は、固有名「ケヴィン・コスナー」の指示対象を同定するための情報と異なる。このことにより、虚構世界において「彼がワイアット・アープである」を理解するとき、「彼」と「ワイアット・アープ」の指示対象がその世界内の同一の実体になることが可能である。
 以上より、命令Aを理解するとき、「彼がワイアット・アープ」は『ワイアット・アープ』における虚構的真理になる。だが、「ケヴィン・コスナーがワイアット・アープである」は虚構的真理にならない。すなわち、ケヴィン・コスナーは、『ワイアット・アープ』の表象体のobjectではない。

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