★森友問題は日本の敗戦を招いた「無責任体制」の再来を示す統治構造の危機
ー(田中良紹氏)

「北朝鮮のミサイル発射という危機的な状況の中で

日本の国会は数億円の国有地の払い下げ問題で大騒ぎしている」。

先月末、橋下徹前大阪市長はワシントンDCのシンクタンクで

日本の国会は愚かだと言わんばかりの講演を行った。

しかし愚かなのは橋本氏の認識の方である。

この男はまるで政治が分かっていない。

北朝鮮の核ミサイル問題は日本の国会が騒いでどうにかなる問題ではない。

根本にあるのは1950年に始まった朝鮮戦争がまだ終わっていない現実である。

北朝鮮は戦争を終わらせて米国と平和条約を結びたい。

しかし米国は戦争を終わらせない方が国益になる。そこに問題の本質はある。

核ミサイル開発はけしからんことではあるが

北朝鮮が米国と平和条約交渉を行うための手段でもある。

米国はそれが分かっているからこれまで放置してきた。

北朝鮮の脅威を煽れば日本と韓国をさらに従属させ、

また台頭する中国との交渉カードに使える。

クリントン政権は1994年に北朝鮮空爆の一歩手前まで行った。

しかしやった場合の韓国の被害の大きさを知り断念する。

またクリントン政権は逆に朝鮮半島統一を実現しようとしたこともある。

それもやめたのは冷戦状態をアジアに残す方が国益になると考えたからである。

だから北朝鮮問題は米国と中国の外交ゲームで日本が主体的にできることなどない。

しかし森友学園問題は我が国の国家システムが危機的状況にあることを

端的に示した極めて深刻かつ重大な問題である。

国会はその認識のもとで統治構造の欠陥を徹底的に洗い出す必要があると

フーテンは考える。

かつて1945年の敗戦後に丸山眞男は『超国家主義の論理と心理』(岩波文庫)で、

日本を戦争に駆り立て敗戦に導いたのは、具体的な独裁者の命令ではなく

すべてを天皇という見えない存在に起因させた「壮大な無責任体制」と指摘した。

また山本七平は『「空気」の研究』(文春文庫)で日本人の思考を支配する

見えない「空気」の存在を指摘した。

その「無責任体制」と「空気」を我々は2011年の福島原発事故後の日本政府の対応

で再び見せつけられる。

誰も責任を問われないまま原発問題を徹底検証することもなく、

しかし「空気」によって原発は次々に再稼働されていく。

そこに森友問題が起きた。安倍総理の昭恵夫人が名誉校長となり、

戦前回帰の教育を行う小学校に国有地が安く払い下げられたのである。

これは疑惑だらけの問題である。

払い下げをめぐる資料がすべて廃棄されたと財務省は主張するが

常識ではあり得ない話で、値引きの根拠となるごみの算定基準についても

国交省の説明は全く納得できない。

しかも真相を「隠蔽」する意図が初めから見えて、

この問題が統治の根幹に関わることを自ら告白している。

そのため初めから「トカゲのしっぽ切り」で真相をうやむやにしようとする姿勢が

明らかだった。

一人目の「しっぽ」は森友学園の理事長であり、

二人目の「しっぽ」は昭恵夫人付き秘書を務めた経産省役人である。

事と次第によっては三人目の「しっぽ」が大阪府あたりから出るかもしれない。

しかしこの「しっぽ切り」は「しっぽ」の反撃を招き、

隠蔽工作を進めてきた安倍政権にとって裏目となった。

第一の「しっぽ」である籠池前理事長は昭恵夫人からの寄付金の受領を国会で証言し、

また昭恵夫人付きの秘書からのFAXを公開して昭恵夫人の関与を明らかにした。

すると官邸は「秘書個人がやったこと」にして逃げ切りを図ろうとするが、

それが逆に総理夫人付き秘書の存在をクローズアップし、

統治構造の中での総理夫人の位置づけと秘書の任務に

国民の目を向けさせることになった。

また森友問題で有名になったのが「忖度」という言葉である。

誰の指示も受けていないのに現場の人間が勝手に上司の思惑を推し量り

上司に気に入られるようにさじ加減するというのだが、

安倍総理が関与を強く否定すると時を同じくして

「忖度」によって国有地は安く払い下げられたとの「空気」が日本中に蔓延した。

フーテンはそれが事実だとは思わないが、

仮に事実ならそれこそ丸山眞男が言った戦前の「壮大な無責任体制」が再び復活した

ことになる。そして山本七平の言う「空気」が

安倍総理と松井大阪府知事の親密な関係、さらに昭恵夫人の関与から生み出され、

それが統治機構を小学校建設に向かわせたと思わせる。

そこで問題になるのが2014年に内閣官房に設置された内閣人事局の存在である。

総理大臣が霞が関の官僚をコントロールするために作られた。

米国の政治任用(ポリティカル・アポインティ)を真似た制度である。

大統領制の米国では大統領が変わるたびに4千人を超える官僚が交代する。

官僚を大統領の命令通りに動かすためである。

一方の日本は古くは中国の科挙の影響を受け、成績優秀をもって官僚は登用され、

明治維新後は欧州の官僚制度の影響も受けてきたが、

安倍政権は米国型の統治の仕方を取り入れた。

しかし日本は大統領制ではなく英国と同じ議院内閣制である。

英国は政治任用制を採っているわけではない。

米国と英国では選挙の仕方も議員の活動の仕方も民主主義の根本が異なる。

議院内閣制の日本が真似るべきは英国型であるが、

敗戦後米国によって占領されたため米国の影響を受けることになり、

英国型と米国型を折衷する政治の仕組みになった。

フーテンはそれを「接ぎ木民主主義」と呼んでいるが、

安倍政権は2年前に内閣人事局を設置して官僚の人事権を官邸が掌握し

米国型により近づいた。そのため官僚は総理の意向に逆らえない。

安倍総理と松井大阪府知事の共通目標で、

しかも総理夫人が名誉校長を務める小学校に便宜を図ることは

官僚として当然の「空気」になる。

昭恵夫人に5人も秘書を配置したのも安倍政権になってからのことで、

これも米国のファーストレディを真似たのだろう。

しかし米国のファーストレディが昭恵夫人と同じような行動をしているかと言えば

そうではない。公私の別をつけることは当然で、

納税者の意向を最も尊重する米国で公私の別がつかない行動は許されるはずがない。

いずれにしても森友問題は、我が国の統治構造のゆがみが表に出てきた話である。

この際、問題の構図を徹底的に明らかにし、欠陥を抉り出して是正しない限り、

日本は1945年、2011年に続く「第三の敗戦」を迎えることになると

フーテンは思う。

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