★アベノミクスでエンゲル係数は急上昇し一人当たりGDPは急降下したー(田中良紹氏)

先週17日に総務省が発表した2016年の家計調査によると、

支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」が1987年以来29年ぶりの高水準になった。

食費は生命維持に関わるため極端に切り詰めることが出来ない。

そのため「エンゲル係数」は生活水準を示す指標と考えられる。

生活水準が上がれば「エンゲル係数」は下がり、生活水準が下がれば「エンゲル係数」は上がる。

戦後の日本は焼け野原から高度経済成長を経て経済大国になった。

国民生活が豊かになるにつれて「エンゲル係数」は下がり、

2005年には22.9%とそれまでの最低を記録した。

ところが第二次安倍政権が誕生した2013年から急激な上昇に転じ、

2016年は25.9%と29年前の水準に戻った。

その原因を総務省は、

1.円安による輸入価格の高騰、

2.全体的な節約志向による消費の抑制、

3.夫婦共働き世帯や単身高齢者の増加による外食や調理食品への支出増にあると分析している。

しかし3は安倍政権以前から続く傾向であり、

第二次安倍政権誕生から上昇が著しくなったのは、主たる原因が1と2にあることを示している。

つまりアベノミクスの金融政策による円安が輸入食料品価格を押し上げ、

また全体的な節約志向を生み出し、「エンゲル係数」を上昇させたのである。

アベノミクスは輸出企業や投資家を潤す効果を生んだが、一方で国民生活の水準を押し下げ、

景気回復のカギを握る個人消費の抑制につながったことになる。

「エンゲル係数」の動向はそれを物語っている。

安倍政権の誕生で顕著になったもう一つの統計資料を以前にブログで紹介したことがある。

国民生活の豊かさを示すと言われる「国民一人当たりのGDP」についてである。

GDPは国全体の生産量を表すもので、人口が多ければそれだけGDPも大きくなる。

中国のGDPが日本を追い抜いたのは10倍の人口を持つからで、

国民の豊かさにおいて日本を追い抜いたわけではない。

一方、国民一人がどれだけ生産したか示す「一人当たりのGDP」は先進国ほど高く、

新興国ほど低くなる。豊かさを示すのはこちらである。

米国はかつてGDPでも「一人当たりのGDP」でも世界1位だった。

日本はGDPで米国を抜くことはできないが、

「一人当たりのGDP」で1987年に世界7位となり、8位に落ち込んだ米国を抜き、

その後も3位か4位の地位を維持して10年間も米国より上位に居続けた。

米国は日本に深刻な脅威を感じ日本を「仮想敵国」と看做した。

クリントン大統領は「スーパー301条」を発動、

日本を不公正貿易国に指定してなりふり構わぬ脅しをかけてきた。

現在のトランプ大統領はそれをアナクロ(時代錯誤)的に真似しようとしているが、

その米国のやり方はむしろ米国に不利益な結果をもたらした。

しかし一方でクリントン政権は、デジタル技術の開発などIT革命を主導し、

情報産業と金融市場の分野で世界経済を主導する地位を獲得する。

そのためグローバリゼーションによって優秀な頭脳を世界中から集め、IT企業の繁栄を促す一方、

「モノづくり」は新興国の低賃金労働者にやらせて安い外国製品を輸入する構造を作り出した。

それが成功して米国は98年に「一人当たりGDP」で世界5位となり6位の日本を追い抜く。

トランプ大統領はそれを知ってか知らずか、昔「モノづくり」で日本に敗れた時代の怨念を引きずって、

IT企業が世界中から集めてきた優秀な頭脳に入国制限を課そうとするなど

全くのアナクロ(時代錯誤)対応に陥っている。米国のIT企業が軒並み反発するのは当然である。

日本は98年に再び米国に抜かれたが、

それでも「一人当たりGDP」で世界の10位以内の地位を2002年まで維持した。

それが小泉政権下の03年に11位に転落、第一次安倍政権の07年には20位に下がり、

民主党政権の09年から12年までは10位台に戻ったが、

第二次安倍政権誕生の13年に再び20位に転落、それから年々下がり続け、去年は世界26位になった。

「アベノミクスでデフレからの脱却はできない」。

これは世界の経済学者の共通認識だとフーテンは思うが、

国会審議を見ると相変わらず安倍総理がアベノミクスの成果に胸を張り、

民主党政権時代の経済政策を批判して、

それに野党が有効な反論をしていないという奇妙な光景が繰り返されている。

しかしアベノミクスの「理論的支柱」であるエール大学名誉教授で内閣参与の浜田宏一氏は

既にアベノミクスの行き詰まりを認めている。

そのうえで財政健全化を放棄した財政政策が必要だと主張している。

政府は財政支出をどんどん行い、

財政赤字が拡大しても増税はしないと国民に信じ込ませれば個人消費が増えて

デフレから脱却できるというのである。

これって民主党政権時代に自民党が批判した「バラマキ」を安倍政権に「やれ」と言っている話ではないか。

2009年の総選挙で民主党は「消費増税を4年間はやらない。

やる場合は国民に信を問い同意を得てからやる」と選挙公約した。

そして「生活が第一」の視点から、子供手当の拡充や高校授業料の無償化を行い、

農協改革や米国とのFTA(自由貿易協定)を目指すと訴えていた。

これを自民党は財源の裏付けのない「バラマキ」と批判、

選挙では「FTA絶対反対」のビラを大量にまいて、農協が自民党候補応援の先頭に立った。

しかし選挙に敗れ野党になると自民党は財政健全化こそ最優先課題だとして

10%の消費増税方針を打ち出した。

「民主党の失敗」は、菅政権が選挙公約を破り捨て、

自民党に同調して消費増税10%を言い出したことにある。

さらにその方針を引き継いだ野田政権は、党内の消費増税反対派を排除し民主党から追い出した。

この党内分裂のバカバカしさに国民は呆れた。

選挙公約を破る行為は国民に対する裏切りであり、民主主義の破壊を意味する。

民主党が選挙公約破りをごり押しした結果が自民党の復権と安倍政権誕生をもたらす。

その安倍政権はアベノミクスという「目くらまし」で国民の支持を得るが、

結局デフレからの脱却を果たせないどころか、「エンゲル係数」を急上昇させ、

「一人当たりGDP」を急降下させた。

そして今やアベノミクスの「理論的支柱」がアベノミクスの失敗を認め、

財政赤字を気にせずにどんどん「バラマキ」を行い、増税しないことを国民に信じ込ませろと言いだした。

これは2009年の民主党の選挙公約に戻れと言っているようなものである。

あの時、民主党が選挙公約通りにしていれば、「デフレからの脱却」は可能になっていたのかもしれない。

あの時の選挙で自民党は農協を先頭に「FTA絶対反対」を叫んでいたが、

米国追随から逃れられない安倍政権は、

選挙公約破りを「カエルの面にしょんべん」とばかり平然と行いFTA交渉に臨むのだろう。

そして追随の姿勢は減税と公共投資を選挙公約にしたトランプ政権からそれによる財政赤字の尻拭いを

押し付けられる可能性がある。

ここまで書いてきて、

「エンゲル係数」も「国民一人当たりのGDP」も1987年が節目の年であることに気づいた。

その年は竹下政権が誕生したが、フーテンは竹下登氏の遊説に密着し「世界一物語」と題する演説を

毎日聞いていた。何が「世界一」か。「日本は格差が世界一少ない国」という演説だった。

それから30年、あの頃の日本は遠い記憶の中だけになってしまった。

Reply · Report Post