男女共同参画会議 女性に対する暴力に関する専門調査会(第86回)に向けての照会状 2月3日付送付


平成29年2月3日
男女共同参画会議
女性に対する暴力に関する専門調査会 御中

一般社団法人 表現者ネットワーク
代表 川奈まり子

 当方は、実際にアダルトビデオに出演する女優および男優の観点から、貴方において議論なされている以下諸点に関し、ご確認させていただくべき事柄があり、本ご連絡を申し上げたく存じますので、ご対応のほど宜しくお願い申し上げます。

 男女共同参画会議「女性に対する暴力に関する専門調査会」(以下「貴会」といいます。)の議事要旨等をみますと、第81回(平成28年4月19日開催)以前の段階では、アダルトビデオ(以下「AV」といいます。)に関する話題は、議事にも上がっておらず、参考資料としても、なんら取り上げられていないように見受けられます。
 女性に対する暴力が重大な人権侵害であるという認識自体はそのとおりであると考えますが、「AVへの出演強要」が確固たる事実として存在するかのような、もしくは、それを前提として議論が展開されているのではないかという強い懸念を有しております(「若年層を対象とした性暴力の実態―いわゆる『JKビジネス』及びアダルトビデオ出演強要問題の現状と課題―」なる文書が作成されるやに聞いております。)ので、以下事実照会をさせていただきたく存じます。
 なお、当該事実照会に関しては、「貴会宛事実照会を行っているところである」という事実自体に関し、公表させていただくとともに、頂戴すべきご回答に関しましても併せて公表させていただく可能性がございますが、貴会において公に議論なされている事柄でもあり、支障ないものと考えております。
 加えて、当該事実照会は、貴会において対応方法・回答内容等につき検討なされるべきものと考えますので、次回に開催される貴会(第86回)の配布資料として位置付けられるものかと思料いたします。議事録等において配布資料となされなかったことが確認できた場合には、当方の合理的な懸念に対し、貴会として敢然と無視なされたものと理解せざるを得ず、この点も公表等させていただくこととなりますので、ご配慮賜われれば幸いです。

 以下事実関係の照会に関しては、当然のことながらすでに詳細に事実関係を把握・調査なされた上で、議事録の公表を含め公に討議なされているものと思いますので、回答に特段の時間等は必要ないかと考えます。したがいまして、当月末日限り到達する書面にてご回答いただければと存じます。
 合理的な時間的猶予があるにも関わらず、回答をいただけない、あるいは照会事項に相応しない形でしかご回答をいただけない等の場合には、合理的経験則上、「貴会においては詳細な事実確認を行うことなく、AVへの出演強要なる架空の問題が論議されていた」という事実が推認されるものと考えますし、以降、これを前提として当方としても種々の活動を行わせていただくことになろうかと存じます。

照会事項1 第81回議事録3頁以下をみますと、女性への暴力という視点からの重要な課題として、性犯罪への対策の推進、ストーカー事案への対策の推進、配偶者等からの暴力の被害者への支援の充実等、女性に対する暴力の予防と根絶のための基盤づくりとして4点が挙げられています。
 AVに関しては、「児童の性に着目した新たな形態の営業など…」「新しい問題がおきております」ということで、4点目に絡んで議論が開始されているように見受けられます。
 貴会が、AVについて、女性への暴力、という視点から問題提起及び調査を開始されたのはいつからか、何を契機として問題意識を有するに至ったのか、をまずはご回答いただければと存じます。
 加えて、この段階ですでに「AVへの強制出演等々」(4頁)として、強制出演、という事実認定が行われた上で議事録が公表されているわけですが、同時点において、どのような事実関係を前提に「強制出演」という事実認定を行われたのか、特段事実関係の調査は行っていなかったが、「そのような業界では当然強制出演というものもあるであろう」という偏見から、問題提起の時点から既に「強制出演」という文言を用いられたのか、につきご回答頂きたく存じます。

照会事項2 同第81回議事録からは、その15頁においてリベンジポルノ事案についての言及がありますが、AVについてはなんら具体的な議論がなされていないように見受けられます。
 この時点において、女性に対する暴力という観点から、AVについてどのような問題意識をお持ちであったのか、ご教示いただければと存じます。
 併せて、同第81回の際には、特段AVについて議論なされていない、という理解で良いかについてもご回答ください。

照会事項3 同第81回議事録によれば、小林暴力対策推進室長より、「AVへの強制出演などの問題について、被害者を支援しておられる団体の方のヒアリング等々を予定しております」として、「被害者を支援しておられる団体」なるものが突如として参加すること(決定)の報告がなされています。
 同ヒアリングに関し、
①どのような問題意識からヒアリングを行うことと決められたのか、
②その問題意識の共有についてどの議事録から理解でき、どのような議論が交わされたのか、
③「被害者を支援しておられる団体」は誰が選定したか、
④「被害者を支援しておられる団体」を選定するに際し、実際にヒアリングを行った団体のほかに候補団体はいくつあったのか(あるのであればその名称)、
⑤ヒアリング事項はどの段階で検討・策定したのか、
⑥直接、被害者と想定される女性に接触し、ヒアリングしたことはあるのか。ヒアリングを直接したことがないのであれば、それを試みようとしたことはあるのか、
につき、各ご回答いただければと存じます。

照会事項4 次に、第82回の議事録においては、「その他の若年層を対象とした暴力の被害等について(アダルトビデオへの出演強要など)」と記載されています。第81回までは「強制出演」という文言でしたが、特定の団体の報告書等で用いられているのと同じく「出演強要」という用語が用いられだしています。
 これに関しては、配布資料を参考に用語の統一を図られた、ということでよろしかったでしょうか。

照会事項5 同第82回では、冒頭に、ヒューマンライツ・ナウなる団体からの報告が行われています。
 議事録等を見させていただきますと、その他の例えばDV等問題に関しては、警察本部長等の援助申出の受理状況が具体的な件数まで表示され、前年比でどのような状況になっているのか、配偶者暴力防止法との関係でこれが適用された件数がどの程度か、また、リベンジポルノ事案に関しても相談件数等が明らかにされ、いずれの数値に関しても、警察という十分に信用に足る機関からの捜査を経た報告を前提に議論が展開されているように見られます。
 しかしながら、本件に関しては、上記団体等からの報告書、という形で被害状況なるものが報告されているようですが、この業界において長年経験を積んでいる我々からすると、大きな違和感があることも事実です。
 そこでお尋ねしますが、「出演強要」なる問題に関し、検討の前提とされている事実関係について、これら団体の報告書(議事録上確認できるもの)および口頭での報告の他にベースとされた調査結果等は存在するのかどうかにつきご回答いただければと存じます(存在する場合にはどのような団体からのどのような報告かにつきましてもご回答ください。)。

照会事項6 同報告は、「強制出演されるという女性の被害が近年相次いでいると考えております」として始められています(第82回議事録4頁)。この点に関してですが、増加傾向にある、という認識なのか、今までもあったが貴会では取り上げていなかった、という認識なのかについてお聞かせいただければと存じます。また、後者をご回答の場合に関しましては、今まで取り上げられていなかった理由に関してもご説明いただきたく存じます。

照会事項7 同報告によっても、「任意で参加していらっしゃる方もいらっしゃると思う」とされています。定量的に何%という話はなされておりませんが、貴会においては、どの程度定量的に女性への暴力という観点から問題があると思われているのか、ご回答いただければと存じます。
 また、「AVへの出演強要」という問題提起のなされ方、また、当該事項に関し報告書の作成も検討されているということからしますと、貴会がお考えになる問題がどの程度の広がりを有する問題なのかは相当に吟味されたものと考えておりますが、「AVへの出演強要」という文言からは、問題とされているAVについての定義も制限もないのですから、「全てのAVにおいて出演が強要されている」という理解しかできません。このような理解で良いのかどうかにつきご回答いただければと存じます。

照会事項8 同報告では、「若い女性たちがアダルトビデオに出演するという意識がないままプロダクションというところと契約を締結し…」との報告が行われています。かかる契約に関する意思表示の合致ないし錯誤の問題に関しては、当然のことながら、ここで問題とされている相手方である「プロダクションというところ」への聴取等も必要と思われますが、実施したことがあるかどうかにつきご回答ください。

照会事項9 また、当方の認識では、契約書において明示的にアダルトビデオへの出演ないし課されうる負担について記載されているのが通常の運用であると考えております。
 本件に関しては、違約金の問題や行為の内容等、契約の段階もしくは撮影の段階においてどのような契約処理がなされ、また、どのような同意書が徴求されたのかは極めて重要な観点であると思われます。
 したがいまして、
①契約書(対プロダクションか、メーカーか等を含む。)及び同意書等書面は実際にどの程度見聞され(確認された契約書、同意書等書面の件数)、その記載の中のどのような箇所に問題がある、というご認識か。
②およそ考えられないことではありますが、契約書等重要な書面をご覧になっていない、というのであればその理由(直接女性にコンタクトするわけでもなく、プライバシーの問題も無かろうと思われますし、それでも問題があるのであれば、ひな形の要請も考えられるところです。)
③「違約金を払えないのであれば出演するしかない」という報告が行われ、あたかもこのような異常な運用が、当業界の「一般慣行」であるかのような議事録が作成されていますが、極めて高額な違約金が請求され出演が強要されたなどという事例を具体的に何件把握しておられるのか(当方でも1件裁判になった事例は当然のことながら把握しておりますが、業界内部でも極めて「異常」な運用という認識であり、訴訟提起段階から強い反発がございました。)ご回答ください。
 当該違約金請求事例については詳しく説明がなされているようですが、その他に高額な違約金に関して裁判になった事例(公正なる裁判所の事実認定が行われた事案)があるのか、もしくはその1件をもって、「高額な違約金が『常に』設定され、強要の契機になっている」という認識を形成されているのかも併せてご回答ください。

照会事項10 出演後、映像等が公衆送信等なされることに関し、それを「苦にして自殺」(5頁)などという報告も行われています。当方としては、出演者より何らかの理由で配信の停止等が配信業者等へと依頼された場合、法律上の理由がなかったとしても可能な限りその停止に応じるという取扱いが業界において行われているものと認識しておりますが(その場合であっても、出演料の返還などを求めるなどということもないと伺っています)、削除要求があった場合にどのように事案が解決されるに至っているのか等これら事実関係の把握に努められたかどうかについてもご回答いただければと存じます(なお、付言しておきますと、最近ではかかる問題が喧しく取り上げられていることで、女優本人もしくは関係人等から、なんら事実が確認できないのに「強要」なる主張を道具として高額な金銭等の請求がなされだしており、対応に苦慮されているとも聞いております。)。

照会事項11 「身体に明らかに有害と思われるAV」なる紹介が行われています(同6頁)。
 そこには、集団強姦、拷問等のおどろおどろしい表現が行われおりますが、映像作品、すなわち表現物である以上、当然のことながら台本が存在し、それに基づく演技の一環として行われたものと思われます。
 真実性のある表現に見えた、というのであれば、迫真の演技というように通常は理解されるものかと存じますが(戦争映画の拷問シーンにおいて、拷問が実際に行われているなどとは通常は理解されません。)、ことAVに関しては、異なる論理による認定が行われているようにしか思われません。どのような理由でAVにおいては暴力が実際に行われていた、と認識されておられるのか、理由をお聞かせ願えればと存じます。
 また、その際には、脚本の確認を行われたのか、映像作品は出演者一人で作り上げられるものではありませんから、監督、共演者等に対する聴取等を行われたのか、そもそも該当作品をご覧になったのか、に関してもご回答頂きたく存じます。
 この点に関してですが、いくら演技であっても、性に関する事柄はご承知のように極めてセンシティブであり、感情面のコントロールが重要になります。男優側からしても、「無理やり」などという行為を敢行することは原理的にできないのであり(有り体に言えば、そのような場合には勃起しないのであり、そもそも「強姦」などという犯罪行為を行うことができる人物は極めて例外的であることは御理解いただけるものと存じます。)、仮にそう見える場合は表現行為としての演技が行われているに過ぎません。このような観点を踏まえ、上記ご回答いただければと存じます。

照会事項12 未成年であるかのような作品、過度に暴力的な作品に関しては、これらを殊更に強調する場合には、審査を通ることはありません。これは自主規制ですが、貴会において「AV」を議論される場合に、審査を経ているかどうかについて分けて議論されているのかどうかご回答いただければと存じます(もちろん、当該審査は、結果として出来上がった作品を検分いたしますので、その制作過程の実態にまで及ぶものではありませんが、審査基準を逸脱する作品は審査を通らないことが明らかであるため、撮影過程においても、当該基準に配慮して撮影が行われる、という構造となっております。)。
 併せて、審査基準についての調査等を行われているかどうかについてもご回答ください。

照会事項13 同報告においても、「被害実態がよくわからない部分が多くて、…十分な実態がわからない部分も多いのです。…全容をきちんと実態調査をして被害がどうなっているのかということを把握していただきたいと思います」という要請が内閣府に対して行われているように見受けられます(同8頁)。
 今般、貴会においても報告書作成を検討されている、ということですが、同要請に応じ、実態把握に臨まれたのか、もしくはそれを行わないままに報告書を作成されようとしているのかにつきご回答いただければと存じます。

照会事項14 森田委員の照会に対し、同団体からは、性感染症等について非常に罹患率が高く、しかも女性負担等の報告が行われておりますが、大きな疑問を感じざるを得ません。
 もとより、性感染症に関しては、出演者が罹患していたならば当然のことながら撮影には及ぶべきでないのであり、これは作品を作ることができず作品制作に関係する人・企業に経済上の損害が直接発生することを意味しています。したがいまして、このような損害を自ら招くなどということは考えられず、撮影の局面で性感染症に罹患するなどという事態はおよそありえないと考えております。
 そこで、出演者においては性感染症に罹患していないことの表明・保証が上記損害の発生を阻止するために必要となりますが、出演側においても私生活は当然にあるわけであり、性感染症には特段の留意をして頂く必要がございます。
 そのような観点から、医療費に関しては、そのような撮影に臨むのであれば少なくとも性感染症に罹患していては困る、という注意を行っております。しかしながら、貴会においては、あたかも「撮影の現場で敢えて性感染症に罹患させている」かのような議論が行われており大きな違和感がございます。貴会において、撮影の現場で性感染症に罹患するという認識をなされているのか、また、そのような認識を支える事実があったのかにつきご回答ください。

照会事項15 阿部委員からは「管理売春(同9頁)」なる表現も行われています。売春と言うからには、「女性が体を売って、その対価を得る」という構造かと思われますが、アダルトビデオは、性表現があるにしても映画の著作物としての表現物であると認識しております(付言すれば、直接的な性交渉の場面が存在しない作品もございます。)。
 そして、その表現物を作成するに際し、出演する対価として出演料が支払われるわけですが、貴会においては、表現物への出演の対価ではなく、なにか体を売る回数に比例するような売春行為が行われているという認識であり、かつ、憲法上の価値である表現の自由に支えられる「表現物」であるという価値観を否定されているのか、ご回答いただければと存じます(議事録を見ますと、JKビジネスと同列視されているような印象がございますが、当該JKビジネス、というものは表現物が作成される過程でもございません。)。
 かかる「売春」などという指摘は、女優側からすると最も受け入れがたいものと考えております。ある種、自己実現の一つとして表現物の制作に参加している、という矜持を有しているのであり、「騙された馬鹿で可哀想な女性」という認識が一般化されることは耐え難いものです。どのような理由・根拠でかかる認識を業界一般に普遍的に妥当するものと考えておられるのか、ご回答頂きたく存じます。

これら照会事項に関しては、第85回議事録25頁以下の平川委員の問題意識に収斂していようかと思われます。
 同氏は、AV出演に関し強要があることを所与の前提としつつ、性暴力であるといい、「実は女優となる出演する女性が強姦被害に遭っており、しかも、数人の男性に囲まれて、同意のない性行為をさせられている」と断定した上で、表現の自由に関しては議論を「保留」し、「AV制作過程において性暴力が行われているのだ」との書き込みを要請しています(どのような理由でもって憲法上の価値である表現の自由を措くことができるのか、困惑するほかございません。)。
 いずれに関しても、当方とは大きく認識の異なる認定が行われており(もしくは、報告書において行われる可能性が極めて高いと危惧しております。)、そのベースには、上記照会事項に関し十分な事実調査が行われていたのかという具体的かつ合理的な重大な懸念がございます。
 十分な事実関係の調査を前提としてなんらかの意見書等が公表されるのであればともかく、そうではなく、表現の自由を軽視する形で一方的な断罪が行われるというのは到底許容できるものではありません。
 ご検討の上ご回答いただけますようお願い申し上げます。
以上

Reply · Report Post