★ドル安誘導否定し米国債売却可能性を示すべきだー(植草一秀氏)

米国のトランプ大統領が公約通り、大統領就任初日にTPPからの離脱を宣言し、

TPP離脱の大統領令にも署名した。

米国はTPP寄託国のニュージーランドに、TPPからの離脱を正式に通知した。

同時にTPP最終合意に署名した11ヵ国にTPPからの離脱を書簡で通知した。

NZへの通知のなかで、米国は

「TPPから永久に離脱する」

ことを明記した。

これでTPPが発効される可能性は事実上消滅した。

それにもかかわらず、日本の安倍政権は米国の翻意を促す姿勢に変化はないと強弁しているが、

これは、米国の新政権の外交政策に対する

「敵意ある内政干渉」

にあたる。

米国のトランプ大統領は選挙公約にTPP離脱を明記しており、

この公約を踏まえて米国の主権者がトランプ氏を新大統領に選出した。

そして、トランプ大統領が公約通りに、大統領就任初日にTPPからの離脱を宣言し、

寄託国のNZに正式に通知した。

その米国の決定を覆すように働きかけるというのは、友好国の行動として適切でない。

安倍首相は、米国民の選択に基づくトランプ新大統領のTPP離脱決定に対して敬意を払うべきである。


TPPは最終合意に署名した12ヵ国のうち、6ヵ国以上、

かつ、署名国GDP合計値の85%以上の国が署名しないと発効しない。

米国のGDP比が約60%あるため、米国が署名しなければTPPは発効しない。

この米国が

「TPPから永久に離脱する」

ことを正式に通知したため、この米国の方針が変わらない限り、TPPは発効しない。

交渉参加国の一部に、米国を除く11ヵ国でTPPを発効してはどうかとの提案があるが、

そのためにはTPP最終合意を修正する必要がある。

「再交渉」

が必要になる。

昨年秋の臨時国会でTPP批准案を強行採決して可決させた安倍政権は、

「TPP再交渉には絶対に応じない」

と繰り返した。

「TPP最終合意に一切手を入れさせないために、批准を急ぐ」

としてきたのであり、

現在のTPP最終合意の見直しは、安倍首相の国会答弁に反するものである。

したがって、TPPが発効するには、米国の方針変更が必要不可欠になるが、

トランプ新大統領が「永久に離脱」と明言している以上、

トランプ政権下での米国の方針転換は想定されない。


唯一の可能性は、トランプ大統領を物理的に消滅させて、

後任の大統領がTPP参加方針を提示するケースだけである。

トランプ大統領が選挙で勝利して以来、メディアは異常な勢いのトランプ攻撃を継続しているが、これは、

トランプ大統領の物理的除去

の環境づくりを進めているものであるとの見方も可能である。

そうなると、安倍政権の米国の翻意を引き続き求めるとのスタンスは、

トランプ氏の物理的除去を目論む、米国支配勢力の意向と通じるものであるとの疑いも生じてくる。

このような非礼な外交姿勢が許されるわけがない。

安倍政権は米国のトランプ新政権がTPP離脱を正式に決定したことを受けて、

TPPの発効可能性が消滅したことを謙虚に受け入れるべきである。

他方、トランプ大統領は日本との間の二国間交渉を求める可能性が高い。

何よりも警戒するべきことは、これまで米国の言いなりになってきた安倍政権が、

トランプ新政権の新たな要求を丸呑みすることである。

そもそも、TPPは日本の主権者にとって、

「百害あって一利なし」

の条約である。

このTPPがトランプ大統領の登場によって消滅することは、天祐と言ってもよい吉報である。

ところが、そのなかで、安倍政権が米国の言いなりになって、

日米の二国間交渉で、米国の要求を丸呑みするなら、

TPPが消滅した天祐は消えてしまうどころか、大きな災厄に転じてしまう。

安倍首相は2月10日に訪米して日米首脳会談を行うとしているが、

隷属国の御用聞きのような気分で訪米するなら、日本国民には災厄しかもたらさない。

安倍政権の対米隷属外交を、国民が監視し、これを未然に阻止しなければならない。


トランプ大統領が問題にしているのは、

自動車

である。

米国はもともと自動車大国であるが、米国自動車産業が傾き、自動車の大幅輸入超過国になってしまった。

さらに、米国のメーカーは生産拠点をメキシコに移し、メキシコで低賃金労働を活用して生産を行っている。

日本メーカーもメキシコに生産拠点を置いて、メキシコで生産して米国に輸出している。

また、米国ではメキシコからの大量の不法入国者が安価な労働力を提供し、

米国企業がこの低賃金労働力を活用している。

これらの結果、米国における自動車産業の雇用数が減少し、

また、米国における労働者の賃金水準が大幅に低下する事態が発生している。


こうした事態に対して、トランプ大統領は、

メキシコに移転した生産拠点の米国回帰を促す

米国への不法移民を減少させて、米国労働者の賃金低下を防止する

などの方針を示している。

メキシコからの安価な製品の流入を防ぐには、

米国がNAFTAから離脱するか、NAFTAの見直しが必要であるとの見解が示されている。

メキシコからの製品輸入に対する関税率を引き上げれば、

メキシコでの生産が米国での生産にシフトする可能性が高まる。


自動車の生産拠点がメキシコから米国に移動し、

自動車産業が従来よりは高い賃金コストで自動車生産を行うことになると、

米国での自動車価格は上昇する。

しかし、米国内での雇用は増加し、米国労働者の賃金水準も上昇することになる。

これらの変化を「是」とするか、「否」とするかは、判断の基準をどこに置くのかによって変化する。

グローバリズム

が目指す方向は、

世界最低価格

世界最低賃金

世界最高利益

であるが、

労働を提供する側は、

最低価格でモノを買えるが、

自分が受け取る賃金も最低価格になってしまう。


米国が自動車産業を国内に残すことを重視するなら、

自動車産業を保護するための方策を取ることは是認される。

どの産業が重要で、どの産業が重要でないかの判断は、

それぞれの国、それぞれの国の主権者の判断に委ねられるべきだからである。

日本のメーカーが、米国での自動車販売を重視し、

かつ、現実政治のなかでの存続を希望するなら、米国政府の要求と折り合うことが必要である。

トランプ新政権が自動車輸入について、

関税などの措置によって米国自動車産業を守る方針を正式に決定する場合には、

その方針を踏まえてビジネス戦略を構築することが必要になる。


また、トランプ政権は日本の円安誘導為替政策を批判しているが、

安倍政権が円安誘導政策を実行してきたことは紛れもない事実である。

2012年12月の総選挙に際して、安倍晋三氏は、明確に

「円安誘導」

の方針を明言していた。

その後、米国から、円安誘導であるとの批判が生じると、

「円安誘導を目的としているわけではない」

と発言を変えたが、当初、

「円安誘導」

を明確に提示していたことは事実である。


日本政府はこれまで、円安誘導、あるいは、ドル高誘導のために、巨額の資金を投入してきた。

いわゆる「ドル買い介入」である。

安くなり過ぎたドルを買い、ドルが値を戻したときに高くなったドルを売っていれば、

為替介入は巨大な利得を生んできたはずである。

ところが、日本政府はドルを買ったきり、一度も売ったことがない。

そして、趨勢としてドルが下落し、円が上昇してきたため、

この外為介入で想像を絶する規模の「為替損失」を生み出してきた。

結局、日本政府の行動は、

市場に自律的な為替変動を、人為的に円安方向に誘導するものであった。


これは、言い方を変えると、輸出製造業への政府からの補助金である。

円安でメリットを受けるのは輸出製造業である。

一般個人は、ガソリン価格も、灯油も、輸入食材品も、すべて、円安になるなら値上がりして損失を蒙る。

消費者、労働者、生活者にとっては、円高がメリットのある動きであり、円安はデメリットが勝っているのである。

結局、日本政府の行動は、

輸出製造業に対する補助金のバラマキ

であったと言える。


トランプ大統領が指摘するように、日本は為替操作国であることは間違いない。

この機会に、円安誘導を日本政府は放棄するべきである。

同時に、保有している外貨資産の売却に踏み切るべきだ。

中国は米国による通貨切り下げ誘導の批判に対して、保有米国国債の売却で対抗する可能性が高い。

米国は中国が米国債売却に動くと、

ドル安・債券安

の危機に見舞われる。


訪米する安倍首相は、

「円安誘導を行わない」

ことを約束するともに、

日本が保有する米国国債について、

「必要に応じて、これを売却する」

ことを通告するべきだ。

これが

「聞くべきことを聞き、言うべきことを言う」外交である。

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