★この分断なら歓迎するー(天木直人氏)

きょう1月24日の毎日新聞の「発信箱」というコラムで、

エルサレム支局長の大治朋子記者がトランプ大統領の就任式に関し、興味深い事を教えてくれている。

 トランプ大統領の就任式一色の報道の中で、こんなことが書けるのは大治記者くらいだと思って読んだ。

 すなわち彼女が個人的に注目したのは次の二点だったと言う。

 ひとつはキリスト教聖職者が居並ぶ中で、ユダヤ教指導者(ラビ)の姿があったこと、

もうひとつはイスラエルが占領するパレスチナのユダヤ人入植地住民代表がはじめて招かれたこと、

この二つであるという。

 このうち、ラビの参列はレーガン大統領以来だというから初めてではないが、

今回招待を受け、トランプ大統領に祝辞を述べたラビは、

サイモン・ウィーゼンタール・センターの創始者であるマービン・ハイヤー氏だったという。

 いうまでもなく、サイモン・ウィーゼンタール・センターとは、

ホロコーストの宣伝や反ユダヤ主義監視を世界的に行うユダヤ人機関である。

 その一方で、入植地住民代表の参加は、文字通り歴史上はじめてだという。

 これも言うまでもなく、入植地は、米国を含む国際社会がその違法性を指摘する存在である。

 だから、この二人の参加を在めぐって米国のユダヤ人の間で意見が分かれたという。

 そのことを大治記者は次のように書いている。

 そもそもサイモン・ウィーゼンタール・センター内に設けられた「寛容博物館」は

ホロコーストのような少数派排除の「不寛容」を徹底批判してきた。

 だから今回の参列も、「移民排除」を掲げる「不寛容」なトランプ大統領の就任を祝うなんて、

と米国ユダヤ人の反発を招いたという。

 ちなみに、正統派ユダヤ人である娘のイバンカ夫妻(筆者註:イバンカさんは結婚してユダヤ教に改宗)が通う

ダヤ教礼拝所のラビも招待されていたが、リベラル色の強い地元ニューヨークの信者の反対を受け、

辞退したという。

 また米国ユダヤ人の多くは民主党支持者で、先の大統領選でも7割がクリントンを支持したという。

 その一方で、トランプ大統領は史上最右翼とされるイスラエル政権との親密ぶりを隠さず、

入植地拡大にも理解を示している。

 こう書いた後で、大治記者はこう締めくくっている。

 「在米ユダヤ人社会も、さらなる分断と相克を見る事になるかもしれない」と。

 私は、いつも書いている通り、パレスチナ問題に関する大治記者の立ち位置がわからない。

 およそイスラエルに勤務するものは、外交官であれジャーナリストであれ、

イスラエル批判すればたちどころに追放されるから、

大治記者もイスラエル批判の記事を書きづらいとうジレンマはわかる。

 しかし、それを割り引いても、大治記者の書く記事はイスラエル寄りではないかとかねてから私は思って来た。

 果たしてこの記事も、在米ユダヤ人の分断を歓迎しているのか、危惧しているのか、その本音はわからない。

 少なくとも私は、この分断と相克がさらに拡大し、

いつの日か在米ユダヤ人がパレスチナとの共存の重要性に気づくようになるのなら、この分断は歓迎する。

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