★心に響かない自画自賛と罵詈雑言の安倍演説-(植草一秀氏)

トランプ米国大統領の就任演説の柱は

「米国をワシントンの既得権者から米国民に取り戻す」

「アメリカファースト」

であった。

トランプのいう

「アメリカファースト」

とは、

「米国の一般国民の利益を第一に考える」

ということである。

元大統領が居並ぶ中で、トランプ氏は、

あまりに長い間、この国の首都の小さな集団が政府からの恩恵にあずかる一方、

国民はそのつけを背負わされてきた。

ワシントンは栄えたが、国民はその富を共有しなかった。

政治家は豊かになったが、職は失われ、工場も閉鎖された。

既得権層は己の身は守ったが、我が国の市民を守らなかった。

彼らの勝利は、皆さんの勝利ではなかった。

彼らの大成功は、皆さんの大成功ではなかった。

そして彼らが首都で祝っているとき、

私たちの国のいたる所で苦しんでいる家族にとって喜ぶことはほとんどなかった。」

と言い放った。


さらに、

「私たちは口先だけで、何も行動しない政治家はもう受け入れないだろう。

絶えず文句を言いながら、そのことに対処しない人たちだ。

中身のない話をする時間はおしまいだ。

行動する時がやってきた。」

トランプ大統領が今後、どのような実績を上げることができるのかは、今後の現実を待たねばならないが、

「政治をワシントンのエスタブリッシュメントのものから、米国国民のものに転換するべきである」

とのメッセージは米国国民の共感を呼んだはずである。

この共感こそ、トランプ氏が大統領選を制した最大の背景であると考えられる。

政治の中枢にいる者が、政治を私物化してしまっている。

そして、政治の中枢にある者は、自国民ではなく、経済を支配する巨大資本の利益のために動く。

これがこれまでの米国政治であり、トランプ氏はこの政治のあり方にNOを突き付けたと言える。

日本でも、同じ1月20日に政治トップが基本方針を演説した。

安倍首相による施政方針演説である。


しかし、演説は、旧態依然の

「自画自賛」



「政敵攻撃」

のオンパレードで、傾聴に値するものではなかった。

安倍政権は経済政策運営の実績を自画自賛する。

「五年前、日本には、根拠なき「未来の予言」があふれていました。

「人口が減少する日本は、もう成長できない」、「日本は、黄昏(たそがれ)を迎えている」。

不安を煽る悲観論が蔓延していました。

まさにデフレマインド、「諦め」という名の「壁」が立ちはだかり、

政権交代後も、「アベノミクスで成長なんかできない」。私たちの経済政策には、批判ばかりでありました。

しかし、日本はまだまだ成長できる。

その「未来を創る」ため、安倍内閣は、この四年間、三本の矢を放ち、「壁」への挑戦を続けてきました。

その結果、名目GDPは四十四兆円増加。九%成長しました。

中小・小規模事業者の倒産は二十六年ぶりの低水準となり、

政権交代前と比べ三割減らすことに成功しました。

長らく言葉すら忘れられていた「ベースアップ」が三年連続で実現しました。

史上初めて、四十七全ての都道府県で有効求人倍率が一倍を超えました。

全国津々浦々で、確実に「経済の好循環」が生まれています。」

「自画自賛」も度を過ぎると好感されない。

経済の実績を図る第一の尺度は実質経済成長率だが、

安倍政権下の経済成長率の実績は、その前の民主党政権の半分にも届かない。

経済運営に成功してはいない。失敗しているというのが現実である。

「失敗」を成功と言い換え、「虚偽」を国民に植え付ける。

まさに「大本営の手口」であり、この限界をいっこうに超えることができないのである。

日本国民は、米国に倣い、メディアの情報誘導を撥ね退けて、政治の大転換を実現しなければならない。

2017年は恐らく衆院選が実施される年になるだろう。

日本国民の底力が問われている。


安倍首相は、「有効求人倍率」や「ベースアップ」などを常に取り上げるが、

労働者の実質賃金は減少し続けているのである。

経済成長率は民主党時代の2分の1。

労働者の実質賃金は減少し続けている。

大企業の利益だけが拡大した。

雇用者数が増えたと言っても、経済の全体のパイが伸び悩み、

一方で大企業の利益だけが拡大しているのだから、労働者一人当たりの所得は減少し続けている。

これを「自画自賛」するのはみっともない。

これを実現することはできたが、

この実現はまだできていない。

今後は、この出来ていない部分の実現に向けて、具体的に何をどのように変える。

この方針を示すのが誠意ある姿勢なのではないか。


沖縄の北部演習場の一部が返還された。

しかし、これと引き換えに、高江地区にヘリパッド建設が強行されて、

危険な飛行物体であるオスプレイが運用されている。

沖縄県の翁長知事はオスプレイが運用される高江ヘリパッド建設に反対することを公約に掲げたが、

高江ヘリパッド建設を阻止するための実効性ある行動を採らなかった。

地元の住民にとっては、これまで使用されてこなかった訓練場の一部が返還されることのメリットが、

高江ヘリパッドでオスプレイが運用されることのデメリットよりもはるかに小さい。

米軍は沖縄県名護市でオスプレイを墜落させた。

この原因究明も行われぬなかで、安倍政権は米国の言いなりになって、

米軍によるオスプレイ飛行再開を容認した。

沖縄県民の気持ちに寄り添うどころか、沖縄県民の意思を踏みにじる行動を続けている。

このことについて、安倍首相は施政方針演説の冒頭で次のように述べた。


「先月、北部訓練場、四千ヘクタールの返還が、二十年越しで実現しました。

沖縄県内の米軍施設の約二割、本土復帰後、最大の返還であります。

地位協定についても、半世紀の時を経て初めて、軍属の扱いを見直す補足協定が実現しました。

更に、学校や住宅に囲まれ、市街地の真ん中にあり、

世界で最も危険と言われる普天間飛行場の全面返還を何としても成し遂げる。

最高裁判所の判決に従い、名護市辺野古沖への移設工事を進めてまいります。

かつて、「最低でも」と言ったことすら実現せず、失望だけが残りました。

威勢のよい言葉だけを並べても、現実は一ミリも変わりません。

必要なことは、実行です。結果を出すことであります。

安倍内閣は、米国との信頼関係の下、抑止力を維持しながら、

沖縄の基地負担軽減に、一つひとつ結果を出していく決意であります。」

厚顔無恥とはこのことを言うのだろう。

北部訓練場の一部が返還された「成果」だけを強調して、

オスプレイ墜落事故の事実



オスプレイが運用される高江ヘリパッドの現実

もひと言も触れない。

翁長沖縄県知事は直ちに埋立承認を撤回して、

辺野古米軍基地建設をストップさせなければならないが、翁長氏の対応が遅れているために、

「最高裁判所の判決に従い、名護市辺野古沖への移設工事を進めてまいります」

などの表現を許してしまっている。


沖縄県民は知事選、国政選挙、名護市長選、名護市議選のすべてにおいて、

「辺野古米軍基地建設=NO」

の意思を明示している。

この沖縄県民の意思についてもひと言も触れていない。

「かつて、「最低でも」と言ったことすら実現せず、失望だけが残りました。

威勢のよい言葉だけを並べても、現実は一ミリも変わりません。

必要なことは、実行です。結果を出すことであります。」

と安倍氏は述べたが、安倍氏はどんな結果を出しているのか。

「危険な飛行物体オスプレイの安全性を確認することもできず、

米軍のいいなりになって危険なオスプレイの高江での運用を容認していること」

が「結果を出す」ことなのか。

沖縄県民が総意で「辺野古に基地を造らせない」としているときに、

この民意を踏みにじって辺野古での米軍基地建設を強行することが、

「結果を出す」ことなのか。


現実を客観的に表現し、

できたこと

できなかったこと

目指すこと

を謙虚に示すべきではないだろうか。


一国のトップが、

きれいごとだけを並べて、

政治的な敵対者に

ただ感情的に罵詈雑言を投げつける

そんな施政方針演説を、

多くの主権者は共感しない。


要するに、安倍氏の行動は霞が関と永田町が、

自分たちの利益だけのために、動いているというものに過ぎない。

国民の目線で、何が必要なのか。

現実は、何はできているが、何はできていなか。

これらのことを謙虚に見つめて、国民と足並みを揃えて、

その解決に向かって進んでゆこうとする意志がまったく示されていない。

自画自賛と政敵に対する罵りだけでは、人心は離れる一方である。

メディアの世論調査は大本営発表そのもので、

本当の支持率が10%でも、メディアは支持率60%と報じるだろう。

しかし、本当の人心がすっかり離れ始めていることを安倍氏は知っておくべきである。


人心の本当の所在を明らかにするのは選挙である。

選挙に際して、主権者は主権者の本当の意思を正確に表示しなければならない。

そのためには、選挙の図式の大転換が必要だ。

メディアに誘導された、隠れ与党が主導権を握る野党連合は、本当の主権者の意思を吸収し得ない。

この問題を解決することが、日本政治を打破するために必要不可欠な事項である。

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