★「米国政治を既得権者から取り戻す」がトランプ新機軸-(植草一秀氏)

ドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任し、1月20日、就任演説を行った。

トランプ氏は演説で

「この日から「米国第一」だけになる」

と宣言した。

同時に、

「私たちは世界中の国々との友好と親善を求めます。

しかし、私たちがそうするのは、

すべての国々が自己の国益を第一に考える権利があるという理解のもとにです。

私たちは、米国の生活様式を誰にも無理強いしようとはしません。」

と述べた。

米国が米国第一主義を採ることは、米国の正当な権利である。

演説の冒頭でトランプ氏は、

「私たちは、首都ワシントンから権力を移し、国民の皆さんに戻す」

と述べた。

「長い間、ワシントンの小さな集団が政府からの恩恵にあずかる一方、国民はそのつけを背負わされてきた」

と述べた。

ワシントンの既得権者ではなく、米国の国民の利益を第一に考えることが重要であることを述べた。


そして、トランプ新大統領は、公約通り、TPPからの離脱を大統領就任初日に宣言した。

トランプ氏は演説で

「私たちの企業を奪い、雇用を破壊する他国の行為から、私たちは国境を守らなければならない」

と述べた。

TPPは日本国民や米国国民の利益を守るための協定ではない。

グローバルに活動を広げる強欲な巨大資本の利益を極大化させるための協定である。

トランプ氏がワシントンの少数の既得権者や、

グローバルに活動を広げる強欲巨大資本=多国籍企業の利益を第一にするのではなく、

米国国民の利益を第一に掲げると宣言したことは、完全に正しい。

驚くべきことは、日本の安倍首相が

「米国第一主義」

を掲げてきたことだ。

ここで言う「米国第一主義」は、

「米国国民の利益第一主義」

ではない。

「米国の巨大資本の利益第一主義」

なのである。

「米国の巨大資本」=「多国籍企業」=「ハゲタカ」

である。

つまり、安倍首相が推進している政策の基軸は、

「ハゲタカファースト」

なのだ。


メディアが反トランプ攻撃を続けている最大の理由は、

トランプ氏が「ハゲタカファースト」のスタンスを示していないからである。

トランプ氏は明確に

「ハゲタカの利益を抑制して」

「米国民の利益を最優先する」

と述べている。

これが、ハゲタカにとっては許し難いことなのである。

ハゲタカは、世界市場を統合して、利益を極大化することを目指している。

この目的を実現するには、

ヒトの移動

カネの移動

モノの移動

のすべてを完全自由化することが必要だ。

しかし、これは、ハゲタカの利益を極大化するものではあっても、

米国国民の利益を極大化するものではない。

トランプ氏は、

「一つずつ工場がシャッターを閉め、海外へ流出していったのに、

取り残された何百万人もの米国人労働者のことは一顧だにされなかった」

と述べたが、政府が「ハゲタカファースト」の政策を遂行したために、

米国民が犠牲を強いられてきたことは紛れもない事実なのである。

トランプ氏の演説内容を、色眼鏡を外して、じっくりと読み解くことが必要である。


自由貿易そのものを否定することは得策ではないだろう。

デイビッド・リカードが明らかにしたように、

貿易は全体としての生産性を引上げる効果を有するから、

自由な貿易を促進することによって、人々の生活が豊かになる側面があるからだ。

しかし、これは

「モノの移動の自由化」

であって、

「ヒトとカネの移動の自由化」

までを包含しない。

トランプ氏がよく例示する、メキシコからの不法入国者の問題を考えてみよう。

メキシコからの不法入国者が米国で法外に安い賃金で働き始めれば、米国民の労働環境に異変が生じる。

資本は1ドルでも低い賃金で人を雇えるなら、喜んで不法入国者を働かせるだろう。

米国民は賃金の低下、雇用の喪失という状況に直面する。

世界中のすべての国が移民の受け入れを全面解禁してはいない。

「ヒトの移動」

を完全に自由化するなら「国境」は意味を持たなくなる。

パスポートも無意味になる。

永住許可証も国籍も無意味になる。

「国境」

を保全することは、独立国家としての基本である。


「カネの移動を完全自由化」

して、すべての企業の所有権が外国資本に支配されれば、

その資本は国民の利益を優先して行動しないだろう。

その国の資本でさえ、国民の利益を優先しないのだから、

外国資本が支配する企業が国民の利益を優先しないことは論を待たない。

「ヒトの移動」



「カネの移動」

を完全に自由化するなら、

もはや国家は国家でなくなる。

多国籍企業=ハゲタカ

が目指しているのは、この状況なのである。

「世界統一市場」

を造る。

「世界統一国家」

を造る。

これが、彼らの言う

「NWO」=New World Order

である。


この世界統一市場に君臨するのは言うまでもない。

強欲巨大資本=ハゲタカ

そのものだ。

すべての人民は、資本の利益に貢献する「奴隷」なのである。

1%の資本が99%の労働者を「奴隷」として支配する。

これが彼らの目指すNWOである。


トランプ氏が指摘するように、これまでの政府は、

国民のための政治

ではなく

大資本のための政治

を追求してきた。

そして、この大資本に

コバンザメのようにつきまとって、利益のおこぼれに頂戴しているのが、

官僚

利権政治屋

そして

電波産業

なのである。


私たちは日本の政治を

「ハゲタカファースト」

から

「国民ファースト」

に転換させなければならない。

その判断を示すのが次の衆院総選挙である。

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