★次の総選挙で政権交代を実現する方策ー(植草一秀氏)

1月13日は名古屋税理士会熱田支部の新春研修会で講演をさせていただいた。

190名もの会員が参集下さり、熱気あふれる研修会になった。

米国でドナルド・トランプ氏が新大統領に選出され、

日本企業に対してもメキシコではなく米国での生産増大を求めている。

米国の新政権が発足する2017年の政治経済情勢に対する関心が極めて高い。

英国の主権者は昨年6月の国民投票で、EUからの離脱の意思を表明した。

メディアはEU離脱の選択が間違っているかのような論評を流布しているが、

決めたのは英国の主権者であって、民主主義を重んじるのであれば、

英国主権者の意思決定に敬意を払うべきである。

米国でトランプ氏が新大統領に選出されたのも同じ。

決定したのは米国の主権者である。

あらゆる論評が存立し得るが、論評者は米国の主権者の判断に対して敬意を払うことが必要である。

メディアは大きな勘違いをしている。

主権を有するのはそれぞれの国の主権者であって、メディアではない。

メディアが予測を間違えたこと、

メディアを支配する勢力にとって望ましくない結果が示されたこと

は事実だが、それを理由に、主権者が示した判断を、思慮なくののしるのは控えるべきだ。


メディアを支配する勢力が政治を支配してきた。

これまでの、この現実を踏まえれば、

メディアを支配する勢力が望まない判断を英国や米国の主権者が示したことは驚きであり、

メディアにとって戸惑うことであるのは理解できる。

この現実を冷静に見つめて、いま、何が起きているのかを沈思黙考することが必要だ。

ヒステリックに、「民衆の判断は間違っている」とわめいたところで、何の解決にもならない。

これまでメディアが垂れ流してきた

「自由化=善」

の図式に対する根本的な見直しが進んでいるのだ。

自由主義=善

保護主義=悪

の図式ですべてを処理する単細胞思考に誤りがあるのだ。

自由にするべきこと



自由に制限をかけるべきこと

の両方がある。

当たり前のことだが、この当たり前のことが見落とされてきた。

あるいは、無視されてきた。


「新自由主義論者」が求めるのは、

「カネ」と「ヒト」の完全なる自由な移動を認めるべきであるということだ。

そして、この「完全な移動の自由」を妨げるすべての規制を取り払うのが

「善」

である、というのが「新自由主義論者」の主張である。

その終着点は、

世界のすべての生産手段を巨大資本が支配し、

生産活動に全世界の安価な労働力が投入されること

である。

賃金の高い国には賃金の低い国の労働力が持ち込まれる。

その結果、賃金水準が暴落する。

失業しないためには、その安価な賃金水準を受け入れるしかない。

産業はグローバルな巨大資本に支配され、賃金水準はグローバルな最低価格に収斂する。

これが「新自由主義」の行き着く先である。

資本にとってデメリットはないが、労働者にとってはメリットがない。

この現実を直視したときに、「ヒトの移動」に制限をかけることが必要だと、

各国の主権者が考えるのはおかしなことでない。

英国の主権者も米国の主権者も、冷静な判断力を持ち、

メディアに左右されない行動力を有していることが示された。

極めて意義深いことだ。

私たちはメディアの上滑りした議論に惑わされずに、

英国や米国の国民が示した判断の意味をじっくりと考える必要がある。


「自由貿易を推進し、保護主義に立ち向かわねばならない」

と言われると、正しい主張のように聞こえてしまう。

大事なことは、このような施策が

「誰のための政策」

なのかを考えることである。

「貿易」を活発にして、それぞれの国が得意とする生産物、特産物を交易することは人々に便益を与える。

しかし、国内になければならない産業の生産物が、海外から安い価格で流入すれば、

その産業は淘汰されてしまうだろう。

このようなときには、この産業を守るための措置が正当化される。

輸入に完全をかける

その産業に補助金を出して存立を支える

あるいは

ここ両者を組み合わせることも検討される。

輸入関税で獲得した資金を国内産業に補助金として支給すれば、新規の財源は必要なくなる。


とくに大きな問題になるのは「ヒト」の問題だ。

たとえば、日本が外国からの労働者を制限なく受け入れるとしよう。

外国人労働者は、外国の賃金を基準に意思決定するから、極めて低い賃金で働くことを受け入れるだろう。

日本に多数の外国人労働者が殺到して、企業が著しく低い賃金で外国人労働者を大量に雇用すれば、

日本人労働者は失業し、職に就こうとすれば、著しく低い賃金を受け入れなければならなくなる。

これを

「自由主義は善」

の一言で片づけるのは適正でない。


このような事態が生じたときに、

メリットを受けるのは資本である。

資本にとっては、生産コストのなかで、もっとも重要な労働コストを大幅に圧縮することができる。

逆に労働者の側から見れば、仕事を失う、賃金が大幅に下がる

わけで、このような自由化によるメリットはない。

生産物の価格が下がっても、所得である賃金が激減すれば、トータルではデメリットの方が大きい。


政治の決定は、基本的に

一人一票

で行われる。

したがって、本来は、多数の労働者が反対する施策は、

多数の主権者によって支持されないから、

成立しないはずだ。

ところが、現実には、多数の主権者が望まないような施策が、

次から次に決定されて、実行されている。

ここに大きな矛盾がある。


その理由は、選挙の際に、

多数の主権者の意思が反映される仕組みができていないことにある。

小選挙区を中心とする選挙制度では、ひとつの選挙区で当選する候補者が1人であるため、

投票を集中させることが重要なのだ。

主権者の多数意思が選挙結果に反映される仕組みがうまく作られていない。

また、主権者の投票行動に影響を与えるメディアの情報が偏っており、

主権者多数の意思が現実政治に反映されないように仕向けられている。


これを打破するには、

「政策選択選挙」

を実現するしかない。

「政策」

に的を絞って選挙戦を構築する。

「政策選択」



「政党選択」

に対する言葉だ。

とにかく、

「政策」

を前面に打ち出して、

主権者に政策を選択してもらう。


原発・戦争・格差

について、主権者に選択を迫る。

大事なことは、

反原発・反戦争・反格差

の候補者を1人にすることだ。

政党はどこでもいい。

無所属でもまったく問題ない。

この政策を掲げる候補者を一選挙区にただ一人擁立する。


これを実現すれば、選挙結果が激変するだろう。

自由貿易全体を否定する必要はないが、自由貿易・自由主義万能の考え方は取らない。

日本でも、英国、米国に次いで、主権者が新しい政治の次元を切り開くことになるだろう。

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