★裁判所はTPPの日本国憲法違反を認定すべきだー(植草一秀氏)

22年前の1月17日は寒波が到来して寒い日だった。

東京の天候は、昨日、1月16日と似た寒さの厳しい月曜日だった。

22年前は早朝に阪神淡路大地震が発生した。

あれから22年の月日が流れた。

多くの方が犠牲になられたが、心から哀悼の意を捧げたい。

この1月16日に

TPP交渉差止・違憲訴訟第7回口頭弁論が開かれた。

寒さのなかにもかかわらず、多くの市民が参集された。

裁判を指揮する東京司法裁判所の

中村さとみ裁判長は、

重要な論点を残したまま、

原告と被告が書面でのやり取りをすることも合意したなかで、突如、審理を打ち切ることを宣告した。

審理は裁判長の独断で打ち切られた。

原告は裁判長の忌避を申し立てたが、忌避請求は却下されることになるだろう。

判決期日が提示され、次回期日に判決が示されることになると予想される。

日本の裁判所の多くは

「法の番人」

ではない。

「行政権力の番人」=「行政権力の僕」=「行政権力のポチ」

である。


このことが改めて確認されたものと言える。

元裁判官の森炎氏は著書

『司法権力の内幕』(ちくま新書)

http://goo.gl/7iYDSu

のなかで、日本の裁判官は

「パノプティコンの囚人である」

と述べている。

パノプティコンとは

功利主義哲学者の代表者ジュミレー・ベンサムが提唱した近代的監獄の設計思想のこと。

パノプティコン型の監獄では、中央に配置された監視塔の周りをぐるりと囲む形で囚人棟が円形に配置される。

囚人は円形棟の狭い棟割房に閉じ込められ、房には必ず中央監視塔に向けて窓がつけられる。

この仕組みの中では、閉じ込められた囚人は、常に中央監視塔からの視線を意識しないわけにはいかない。

森氏は、

「そこでは、四六時中、食事中も入眠中も用便中も、嘆く時も笑う時も、怒る時も祈る時も、

ただ単に無為に過ごす時さえも、監視されているという意識が離れない」

としたうえで、日本の裁判官が位置する場所は、このパノティプコンの囚人房だと指摘する。

そして、

「狭い房の中で、中央監視塔の視線から逃れる場所はどこにもない。そうした毎日を繰り返すうちに、

人は、いつしか、規律を欲する中央監視塔からの視線を自己の内部に取り込むほかなくなる。

自分からそれに見合う姿勢や動作をするようになるだろう。」

と述べる。


圧倒的多数の裁判官が行政権力による「監視」の下に置かれており、

その「監視者」の期待に沿う訴訟指揮を行い、判決文を書くようになる。

だから、日本においては、裁判所の判断を「絶対化」してはならない。

「一つの判断」、「政治権力による判断」として「相対化」することが必要である。

したがって、日本の裁判に多くを期待することはできないが、

裁判を起こすことが無意味であるのかと言えば、そんなことはない。

例外的には「法と正義」に基いて判断する裁判官も存在する。

運良く良質な裁判体が担当になれば、適正な判断を期待することもできる。

また、裁判を通じて新しい事実を明らかにすることができる場合もあるし、

人々に重要な事実を分かりやすく明示することもできる。

これらの面から訴訟を提起することには大いなる意味がある。

TPPという、極めて重大な問題について、

日本国憲法が定める基本的人権を侵害するものであることを、主権者が訴えることは当然であり、

本来は、裁判所が「法と正義」を基本にして「違憲」判断を示さなければならないものである。

東京地方裁判所の中村さとみ裁判長がどのような判断を示すのか。

注目されるところである。


昨日の第7回口頭弁論期日においては、私も原告として意見陳述をさせていただいた。

準備書面によって提出した意見の要旨を口頭で陳述したので、口述した要旨を紹介させていただく。

1 私は元大学教員で、政治経済学の諸問題ならびに経済政策論、金融論に関する研究を続けて参りました。

2 政治経済問題を考察する際に常に意識していることは、

社会を構成するすべての個人の幸福を実現するための諸制度、諸規制、政治は

いかなる方法によって運用されるべきであるかという視点です。

3 日本国憲法は基本的人権として「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障しており、

また、政府に対し「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利について、

立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」ことを定めています。

すべての個人が個人として尊重され、基本的人権が全うされるとともに、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、

平和のうちに生存する権利が十分に守られなければならないと考えております。

4 今般の裁判事案であるTPPは、憲法が保障している生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を

根底から覆す明白な危険を伴うものであるとともに、

国民ならびに国家の主権を喪失させる重大な問題を内包するものです。

裁判所におかれましては、TPPが日本国憲法の規定に違反することが明白でありますので、

憲法第98条が定めているところの「憲法の条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の

全部又は一部は、その効力を有しない」という規定を適正に適用して

TPPの違憲性、違法性を正しく判断していただきたく思います。


5 TPPの構造上の問題点が三点あると考えます。

第一は、TPPの全体像ならびにTPPがもたらす結果が、TPP発効時点において不明確であること。

第二は、TPPの細目決定に至る過程が隠蔽されていること。

第三は、TPPに規定されているISD条項によって日本国ならびに日本国民の主権が喪われることです。

6 第一の、TPPの全体像がTPP発効時点で不明確であるという問題点の原因は、

第三の問題点であるISD条項にあります。

TPPの核心はISD条項にあり、日本の諸制度、諸規制は、長い年月が経過する過程で、

ISD条項が活用されることを通じて改変されることが予想されます。

8 TPPについての国民理解が進まない理由の一端は、

TPPが発効することによって最終的に到達する諸制度、諸規制の姿が、

今後活用されるISD条項によって大きく変化し得るために、

TPP発効時点では特定不可能であることも強く影響しています。

9 そして、ISD条項の活用による紛争事案の仲裁が日本の裁判所によらず、

国際仲裁裁判所に委ねられ、しかも、この仲裁裁判所の判断に対して日本国も日本国民も

いかなる抵抗もできないこととされています。

ISD条項によって司法主権が侵害されることは明白です。

司法主権の侵害は、日本国憲法第76条1項に違反しており、

この面でもTPPの違憲性は明白と言わざるを得ません。

10 また、第二の問題点である交渉過程にかかる情報の隠蔽が、

国民の「知る権利」を侵害していることも重大であり、

この点についての憲法違反の判断が示されることも必要であると考えます。


11 前述の憲法違反の問題が重大であることは言うまでもありませんが、

現実に日本がTPPに参加し、TPPが発効してしまう場合に、

現実に予想される事態について、これを予測し、

その事態がどのような問題をもたらすのかについてをあらかじめ検証することも必要です。

13 日本のTPP参加によって利益を拡大しようとしている資本、

いわゆる多国籍企業の狙いについての各種情報を総合的に判断すると、

とりわけ重大な変化が生じる分野ならびに事項を7点列挙することができると思います。

①国内農業の崩壊、

②食の安全・安心の崩壊、

③公的保険医療の著しい劣化、

④労働者の賃金その他の処遇の悪化、

⑤各種共済事業、組合活動の崩壊、

⑥政府調達分野における国内零細事業者の破綻、

⑦金融システム不安の急激な拡大です。

14 予測される具体的な状況としては、

①国内の主要農業が破綻し、新規参入の巨大資本による農業だけが存続する状況に移行し、

地産地消は崩壊し、主食の食糧自給体制が全面的に崩壊する、

②食の安全・安心にかかる諸制度、諸規制がほぼ全面的に米国制度に準拠させられることになる、

③混合診療が全面解禁され、公的保険がカバーする医療行為が質、量の両面で著しく劣化する、

④労働関連規制の緩和、撤廃により労働者の賃金その他の処遇が著しく悪化する、

⑤各種共済事業ならびに組合活動組織が解体に追い込まれる、

⑥公共事業などの事業主体である地方の中小零細事業者が多国籍企業との過当競争に直面して
破綻に追い込まれる、

⑦金融規制の変更により、金融システムの安定性を確保するための政策対応が事実上執行できなくなり、

金融システムの不安定性が劇的に上昇する、ことを指摘できます。

15 詳細の説明は時間の関係上割愛させていただきますが、

TPPは日本の主権者である国民にとって計り知れない損失を与えるものであるとともに、

日本国憲法の諸規定に違反するものでありますので、

裁判所におかれましては、法の番人としての役割を誠実に果たし、

憲法違反の判断を示していただくよう強く要望いたします。

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