★「トランプ砲」の攻撃に短絡的に反応する必要は全くないー(田中良紹氏)

アメリカのトランプ次期大統領がツイッターを利用して攻撃することを「トランプ砲」と言うそうだ。

その「トランプ砲」で攻撃された自動車メーカーは、

現在デトロイトで開かれている自動車ショーで自動車の売込みより米国経済への貢献度をアピールすることに

力を入れた。

「トランプ砲」の攻撃対象はメキシコに工場を建設しようとする米国の自動車メーカーだったが、

次いで日本のトヨタ自動車も対象にされたことから、

フーテンの脳裏にはレーガン政権誕生時の日米自動車摩擦の記憶が甦る。

あの時は「日本車の集中豪雨的な輸出」によって米国労働者の雇用が失われ、

デトロイトには「反日の火の手が燃えあがっている」と言われた。

その選挙区から当選した下院議員は

「アメリカが日本を守ってやる必要はない。在日米軍は撤退しろ」と叫び、

日本車をハンマーで叩き壊す男の映像がニュースで流れた。

日本政府は「輸出自主規制」を自動車業界に説得していたが、

トヨタだけはその方針に不満を表明していた。

新聞の経済面には連日「反日の火の手」の記事が掲載され、

アメリカ通と言われる日本人から

「デトロイトに行けば日本人は石をぶつけられる」と真顔で言われたことが

フーテンにデトロイト取材を決断させた。

JETRO(日本貿易振興会)や自動車関係のロビイストから話を聞くため、

ニューヨーク経由でワシントン入りすると、就任したばかりのレーガン大統領暗殺未遂事件に遭遇した。

そしてテレビでは自由貿易を掲げるレーガン政権が日本の「輸出自主規制」を認めることは

公約違反にならないかという論争が連日放送されていた。

フーテンが石をぶつけられることを覚悟してデトロイト空港から外に出ると、

なんと日本車がすいすいと走っている。数えてみると街を走る車の1割は日本車だった。

「反日の火の手」を取材しようとして来たのに「反日の火の手」がどこにも見えない。

それを探すためにデトロイト中を駆け回った。

失業中の自動車労働者に「日本のせいか」と質問するとみな首を振り

「アメリカの経営者が無能なのさ」と言う。

ハンマーで日本車を壊した男を探し出し質問しようとすると逃げ回る。

重い口を開かせると、日本車を壊したことで地元紙に批判され、

市民からも嫌われたと言って「もうこりごり」と肩を落とす。

そして「工場閉鎖のため明日から失業だ」という黒人労働者は「日本の車は性能が良いから売れる。

アメリカ製だから買うというのは本物のアメリカ人ではない。

品質の良いものを買うのが本物のアメリカ人だ。

我々は王座に胡坐をかいて油断したから負けた」と淡々としていた。

「反日の火の手」はデトロイトではなくワシントンの政治の世界で燃え上がっていた。 

結局、レーガン政権は日本政府の「輸出自主規制」を受け入れ、

輸出数量が減った分だけ日本車の価格は値上がりし、日本の自動車メーカーに損はなかった。

損をしたのは高い車を買わされたアメリカの消費者であった。

トランプ次期大統領は選挙公約を実現するパフォーマンスとして「トランプ砲」を打ち続けているが、

それが本当に米国経済のためになるかは分からない。

賃金の安いメキシコで作るのをやめれば高いコストで高い商品を作ることになり国際競争力はなくなる。

しかも東日本大震災で東北地方の部品工場が休業に追い込まれたら、

世界中の工場が影響を受けたように、

原材料や部品の調達から製造、販売に至るまですべては鎖のようにつながり、

それがグローバル化しているので、

アメリカが保護主義を唱えて国境を閉ざせば自らの首を絞める結果になる可能性もある。

トランプ氏はまだ大統領でないからツイッターで「トランプ砲」を打ち続けているのだろう。

大統領に就任した後も同じ行動がとれるかフーテンは疑問視している。

従って「トランプ砲」の一々に短絡的に反応する必要はないと考える。

日本時間の明日未明、初めて行われる記者会見で何を語るのか、

そこからトランプ次期大統領の考え方を読み解く必要は生まれると思う。

しかしそれにしても大統領職にそぐわない情報が次々に出てくるのはどうしたことか。

10日にCNNは「ロシアがトランプ次期大統領の不名誉な情報を入手している」と報道した。

「不名誉な情報」の内容は明らかにされていないが、

アメリカの情報機関はこの情報をオバマ大統領やトランプ次期大統領に報告したという。

トランプ次期大統領は「嘘ニュースだ」とツイッターで激しく非難している。

ただ大統領選挙の期間中にトランプ氏側とロシア政府側との間で

定期的に情報のやり取りがあったという疑惑や、

モスクワのホテルで撮影されたトランプ氏と売春婦のセックスビデオがあるという文書が

ワシントンで出回っているとの情報を伝えるニュースサイトもある。

またフランスの通信社AFPはトランプ次期大統領が中国で45件の商標登録を出願中だと伝えている。

それによるとトランプ氏は中国で既に少なくとも72件の登録商標を持っており、

さらに大統領選への立候補を表明した約1年後の昨年4月に42件、また6月に3件の商標登録を

出願したという。大統領選挙期間中に45件の商標登録を出願したことになる。

大統領が外国政府から利益を受けることは憲法で禁じられており、

AFPはトランプ氏の商標登録の申請がこれに違反する可能性があると報じている。

一方、娘婿のジャレッド・クシュナー氏を大統領上級顧問に起用したことも

「政権の私物化」と批判される恐れがあり、トランプ氏が20日に大統領に就任したとしても、

船出の先には荒波が待ち受ける。

まあとにかく初の記者会見に注目し、

トランプ氏の語る言葉を吟味してアメリカの何がどうなるかを考えていくしかない。

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