★情報の隠蔽と捻じ曲げが国民を無知にして国家の敗北を招くー(田中良紹氏)

24日付東京新聞は、朝刊一面トップで

アフリカの南スーダン国連平和維持活動に参加する陸上自衛隊の今年7月の日報が廃棄されていた事実を

報じている。7月には首都ジュバで大規模な武力衝突が発生していたが、

その時期の自衛隊の様子を国民が知ることはできなくなった。

陸上自衛隊の文書管理規則では三年間を保存期間の基準と定めているが、

例外として「随時発生し、短期に目的を終えるもの」や「1年以上の保存を要しないもの」は

1年未満での廃棄が認められる。

防衛省は今回の廃棄の理由を「上官に報告をした時点で、使用目的を終えたから」としている。

また同紙の三面では、ハワイの真珠湾に鳩山一郎、岸信介の二人の現職総理も

それぞれ1956年と57年に訪れていたことが現地の日本語新聞「ハワイ報知」で報じられたと報じた。

政府は当初、安倍総理の今月末の真珠湾訪問を「現職総理初」と発表したが、

その後、国内の過去の報道から1951年に吉田茂総理が訪れて慰霊したことが分かり、

また今回はハワイの現地新聞によって安倍総理の訪問は戦後四番目であることが分かったのである。

吉田総理の真珠湾訪問について外務省は、当初「現時点では明確になっていない」と答え、

その後「当時はアリゾナ記念館は建設されておらず、

アリゾナ記念館において現職総理が慰霊をするのは初めて」と変更した。

今回の鳩山、岸の両総理については再び「現時点では把握していない」と答えている。

しかし新聞が報道した総理の行動を政府が把握していないことがあり得るだろうか。

外務省も防衛省と同様に総理の外交記録を「保存の必要なしと認めて廃棄した」のか、

それとも「現職初」をアピールしたい安倍総理におもねり、

知っている事実を捻じ曲げてメディアに発表したということか。

いずれにしても「駆けつけ警護」の新任務を自衛隊に課した安倍政権の失点につながる情報は隠蔽し、

支持率維持につなげるための事実の捻じ曲げが行われていることを推測させる記事を

今朝は二つも目にすることになった。

それはこの国の国民が自国の歴史を正確に知ることのできない環境に置かれていることを示している。

そして同時にメディアがいともたやすく政府の発表を鵜呑みにすることをも明らかにしている。

当初、新聞もテレビも安倍総理の真珠湾訪問を「現職総理として初」という点に力点を置き、

安倍総理に「平和を希求する総理」のイメージを塗り付けた。

しかしよほどの馬鹿でなければ、安倍総理が大統領選挙でのトランプ勝利を読み違え、

そのため後先のことを考えずに「トランプ詣で」を行い、それがオバマ政権の怒りを買い、

さらにリマでの日ロ首脳会談でもプーチン大統領への読み違いがはっきりし、

そのままでは外交敗北が国民の目に露呈されることから、真珠湾訪問のカードを切ったと見るのが普通である。

だから安倍総理は真珠湾訪問を大々的に国民にアピールする必要があった。

「現職初の真珠湾訪問」を売りにしたかったのだろう。

それが過去の新聞報道によって覆されたことは本当に幸いであった。

それがなければ国民は嘘の史実を教え込まされるところだった。

ところが安倍総理の外交敗北の度合いが増すほどに、

逆に学者や評論家、さらにはテレビタレントらに至るまで安倍外交を擁護する発言が増大する傾向にある。

そのことにフーテンは考え込まざるを得なくなった。

トランプ次期大統領に真っ先に安倍総理が会いに行くと報道された時、識者と呼ばれる人たちは一様に

「良いことだ」と評価した。日米同盟が外交の基軸であるのだから「真っ先に会える」のは良いことなのである。

しかしフーテンには日本が米国だけを見つめて周囲の第三者が見えない恋の病に取りつかれた患者のように

見えた。まだ大統領にもなっていない人物にへりくだれば相手に手の内を見透かされ、

今後の交渉は思うようにいかなくなると思うのだが、この国の識者はそう思わないのである。

自分がどう考えるかではなく、

ご主人さまに喜ばれることが自分の喜びであるかのように考えるのが日本なのだ。

奴隷の苦痛はマゾヒズムによって快楽と化す。

そのマゾヒズムが次にご主人様が長年敵とみてきたロシアに対しても向けられている。

プーチン大統領を自分の選挙区の温泉宿に呼んで行われた日ロ首脳会談は、

フーテンの目にはとんでもない外交敗北と映り、さすがのメディアも批判的に報じていたが、

しかし識者やタレントの中には「突破口を開いた」、「仕方がない」と擁護の声が上がって

外交敗北を見えないようにしたのである。

そのせいか「領土交渉は厳しい」と思う国民が一方では「日ロ経済協力は良いこと」だと評価している。

しかしこの交渉の最大の問題は「領土」と「経済」を絡ませたところにある。

経済交渉を領土と切り離して行えば、お互いの経済的利益を主張し、

双方がプラスを得るところで決着することも可能だが、領土が絡めば「返してもらう」側に弱みが付きまとう。

そして「領土」は「安全保障問題」に直結するので「安全保障問題」の解決なくして解決されることはない。

どんなに「経済」で譲歩しても無理なのだ。

中国が太平洋への出口として南シナ海の領有にこだわるように、

ロシアも太平洋への出口として北方領土にこだわる。そこには国家の存亡がかかっている。

それを国民に知らせずに「経済」で「領土」が戻ると思わせるのはフーテンが以前から主張しているように

「見果てぬ夢」を追いかけさせる鼻先のニンジンに過ぎない。

真っ先にトランプ次期大統領に駆けつける「すり寄り外交」、

プーチンに押しまくられても国民が怒らない日本、辞めるオバマ大統領と会談しても意味はなく、

支持率アップのためだけに真珠湾を訪れる安倍外交を見れば、

世界の他の国々は「日本は外交的に組みし易い」と考えるだろう。

肝心な情報を国民に知らせずに「その場しのぎをする」体質は国民を無知にする。

そういう国はいざとなれば脆弱である。

戦前の日本は無知な国民がいたからこそ、

天皇も軍部も勝てないことを知りながら戦争に突き進むことになった。

戦争に進ませたのは国民である。

そしてそのようにしたのは国民に様々な情報を知らせなかった国の構造にある。

官僚機構とメディア、そして識者から発せられる情報に国民は踊らされ、不幸な結果を招いたが、

その構造が変わっていないことを確認させる今朝の新聞であった。

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