(注目記事)★なぜ在日米軍はオスプレイの訓練を再開させたかー(田中良紹氏)

オスプレイの飛行訓練が事故から6日しか経っていない19日に再開された。

そのニュースを見てフーテンの頭に浮かんだのは、

先日の日ロ首脳会談で安倍総理が見せた「すり寄り外交」である。

あの会談は「強腰」を見せれば日本は「引っ込む」という教訓を全世界に見せつけた。

プーチン大統領の対日外交姿勢は明確である。

まず日本に極東地域で経済協力をやらせ、

次に日本が主権を主張する4島においてもロシアの主権下で経済協力をやらせる。

その協力がロシアを満足させるものであれば平和条約の締結に応ずる。

その先に日本の求める領土交渉はある。

基本的に4島はロシアが第二次大戦で勝ち取った領土だが、

1956年に「日ソ共同宣言」で「平和条約を締結して歯舞、色丹の2島を引き渡す」とした経緯がある。

従ってそこは認めて「引き渡し」に応ずるが「引き渡し」が直ちに「返還」を意味するものではない。

1956年の「平和条約締結と2島返還」はアメリカの妨害で実現しなかった。

アメリカは安全保障の見地から2島返還と平和条約を結ぶことに反対した。

だから日本に「4島一括返還」という高いハードルを主張させ、平和条約締結が難しくなるようにした。

従って今後の領土交渉でも日米安保体制をどうするかが大きな課題となる。 

プーチン大統領が日本において行った発言はそういうことである。

これに対して安倍総理は「領土交渉を行うためにはプーチン大統領の信頼を得るしか道はない。

私はプーチン大統領を信ずる。経済協力を重ねて一歩ずつ領土交渉を行う」というものであった。

鳩山総理が行った1956年の日ソ交渉は、経済協力などなくとも

「平和条約を結んで2島を引き渡す」だったが、

安倍総理の交渉ではその前に経済協力の実を上げなければならなくなった。

さらに日米安保体制の見直しも条件となる可能性が示唆された。それを先週全世界が知ったのである。

当然アメリカの政治家、官僚、軍もこの交渉をみてその先行きがどうなるかを分析し、

いかなる対応をとるべきかを検討しているはずである。

そして安倍総理に対しては「強腰」が有効であることを再確認した。

その時期に沖縄でオスプレイが「墜落」した。

在日米軍にとっては由々しき事態で、沖縄の反米感情が高まることは必至である。

それは在日米軍も分かっている。

しか安倍総理は在日米軍の目の前でプーチン大統領と信頼関係を強めていく決意を語り、

さらに日米安保体制の弱体化が領土交渉の前提であるかのようなプーチン発言を許した。

それはオバマ政権、ペンタゴン、在日米軍にとって面白かろうはずはない。

それがオスプレイの早期訓練再開につながったとフーテンは思うのである。

1956年の時は、「平和条約を結んで2島引き渡し」を日ソで合意するのなら

「沖縄を永遠に日本に返さない」とダレス国務長官は日本を脅し、

日本は脅しに屈して「平和条約締結」をあきらめた。

その後日本は「4島一括返還」という高いハードルを掲げ、

実現するはずのない目標に向かって国民運動を展開してきたが、

日本にチャンスがあったとすれば冷戦が終わった時である。

ソ連という「仮想敵国」がなくなったのだから日米安保条約は白紙にしてもおかしくない状態になった。

ゴルバチョフやエリツインとは日本の要求である4島の外に国境線を引く構想が検討されたりした。

しかしその頃の日本は金満バブルに酔いしれ、日米安保体制の見直しを真剣に検討することもなく、

アメリカの言いなりになって在日米軍基地を強化する方向に向かった。

その頃、同じ敗戦国のドイツは日本と異なる道を探る。

冷戦期の西ドイツはアメリカに頼って生きてきたが、

冷戦の崩壊と東西ドイツ統一を機に長年の宿敵フランスと手を組み、

EU統合に向けて中心的役割を果たしていくのである。

一方の日本は冷戦期はアメリカをきりきり舞いさせるほどの経済成長を成し遂げたが
(要因は平和憲法を盾に軍事負担を極力抑えたことによる)、

冷戦後はソ連ではなく日本を「仮想敵国」と考えるアメリカによって蓄積した富を吸い上げられる仕組みに

押し込められた。仕組みとは日本に軍事負担を押し付けてそこからアメリカが利益を得るのである。

従って在日米軍は日本を守るためではなく日本から利益を吸い上げるために存在する。

しかし彼らは「日本を守るために我々は存在している」と言えば

日本がそれに文句を言えない国家であることも知っている。

目の前でプーチン大統領に言いたい放題を言わせ、日本の富をロシアに吸い上げさせる様を見せつけられ、

さらに在日米軍の弱体化まで言わせる日本政府に対し、

在日米軍が嫌がらせというかアメリカの論理を押し出す気分になったとしても不思議ではない。

1956年と同じで北方領土交渉に道筋をつけようとすれば、アメリカは沖縄を材料に脅しをかけてくる。

問題は日本政府の強者に対する「すり寄り」が国民に不幸を押し付ける結果になることだ。

日本政府はいつまでこの構図を繰り返すつもりなのか。

国民はこの構図に気づいてこれからの国のあり方を考える時に来ているのである。

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