★武装集団の縄張りで丸腰の民間人が商売をやるような共同経済協力-(田中良紹氏)

15日に日本を訪れたロシアのプーチン大統領は、

その前日に雑誌「フォーブス」の「世界で最も影響力のある人物」に去年と連続で1位に選ばれ、

37位の安倍総理を見下すように3時間遅れで到着し、

それが当たり前であるかのように日ロ首脳会談に応じた。

NHKによると、ロシアの国営放送は腕時計を見ながらまんじりともせず到着を待つ安倍総理の姿をニュースにしていたというから、そこにロシア側の考える日ロ首脳会談の構図が表れている。

ロシアは日本側の求めに応じて平和条約交渉を行うが、

求めているのは日本だから、ロシアの国益を最優先にして取れるものは取りまくり、

領土問題では1ミリたりとも譲らないという姿勢である。

そしてこの日、「世界で最も影響力のある人物」の3位に選ばれたドイツのメルケル首相が主導するEUは、

ブリュッセルで開いた首脳会議で、ウクライナ紛争を巡ってロシアに課した経済制裁を

来年の7月まで延長することに合意した。

アメリカのトランプ次期大統領が国務長官にプーチン大統領と親交のあるエクソンモービル会長の

ティラーソン氏を起用すると発表し、アメリカが制裁解除に踏み切る可能性を見せているのに対し、

EUの姿勢は揺るがないことを示して見せたのである。

またこの日、アメリカではホワイトハウスの高官が、

大統領選挙の前に民主党のコンピューターがロシア政府からサイバー攻撃を受けた問題で、

プーチン大統領が関与していたことを明らかにした。

さらにヨーロッパでも選挙に影響を及ぼすためロシア政府はサイバー攻撃を行っていると指摘した。

15日は日本のメディアがプーチン大統領の訪日を朝から晩まで大々的に報道していたが、

プーチン大統領はこの日世界中でニュースの主役を演じていたわけである。

だがプーチン大統領に好意的な報道が山のようにあふれていた日本と異なり、

欧米ではいわば悪役として報道されていたのである。

この日本と欧米の報道の落差にフーテンは

「目先の利益に目を奪われて世界の流れを見誤った」戦前の日本外交と共通するものを感ずる。

北方領土と経済協力だけに目を奪われ、世界の政治力学を見誤っていはしないかという懸念である。

プーチン大統領が「世界で最も影響力のある人物」1位に選ばれた理由を雑誌「フォーブス」は

「自国の影響力を地球上のほぼ全域に行使して」

「母国からシリア、米大統領選挙まで自分の望むものを手に入れ続けている」ことだとしている。

日ロ交渉は「フォーブス」が選んだ1位と37位との交渉になるが、

どちらの望み通りになるかは火を見るより明らかだとフーテンは思う。

今回の首脳会談では共同経済協力を北方4島で行うため特別な制度を作って主権の外に置くことを

日本政府が提案し、それにロシアが同意した。

それをロシアの譲歩であると御用学者や御用評論家は言う。

今日のテレビでも日本の経済力を持ってすれば北方4島はあっという間に

日本の経済力の支配下に置かれると楽観論を述べる学者がいた。

しかしである。国境の4島にはロシアの軍隊が存在する。

そこに丸腰の日本企業が出ていくわけである。特別な仕組みを作ろうが何をしようが、

いざとなれば力がものをいう。

フーテンには日本刀や拳銃を所持する暴力団の縄張りに

丸腰の企業が出て行って商売をするような話に思える。

もちろん相手に利益を差し出せば手出しはしないだろう。

しかし少しでも気に入らないことがあれば、脅しをかけられることがないとは言えない。

下手をすれば商売をやめるにやめられない状態が生まれるかもしれない。

ロシア軍の撤退を求め、真に民間人だけで日ロが経済協力する話にすることができるか。

それはロシアが認めるはずがない。それでは存在するロシア軍を抑止するため、

北海道のオホーツク沿岸にミサイル兵器を設置することができるか。それも日本はできないだろう。

世界の警察官をやめると言っているアメリカに助けを求めるわけにもいかない。

そうした中での経済協力が果たして「ウィンウィンになる」と言えるのだろうか。

今日のNHKテレビで択捉島出身の旧島民が、

安倍総理とプーチン大統領の共同記者会見を見た直後に

「総理がウィンウィンと言ったけど、そうなるとは思えない。

いざとなればまた追い出される」と首をかしげていたのが生中継された。

御用放送局NHKはあの発言を二度と使わないだろうとフーテンは思ったが、

旧島民の正直な気持ちはそういうことである。

そしてこの首脳会談を見た欧米は、

日本という国は自分たちとは異なる理解しがたい外交をやる国であることを思い知ったと思う。

かつてドイツのヒトラーがみるみるうちに領土を広げ、

国民から絶大な支持を得て「第三帝国」創生に乗り出した頃、ドイツが恐れていたのはアメリカの参戦だった。

そこでヒトラーはアメリカの参戦をけん制するため日本に軍事同盟の誘いをかけてくる。

軍部も天皇もドイツとの同盟は英米を敵に回すと反対したが、近衛内閣はヒトラーの強さに目を奪われ、

アメリカを抑止できればドイツがヨーロッパを統一し、

それに乗じて日本も目先の領土「大東亜」の建設が可能になると日独伊三国同盟を結んだ。

またそれより前、日本が満州事変を起こして満州国を建設した時、

国際連盟はリットン調査団を派遣して報告書を作成した。

報告書は日本を侵略国と糾弾せずに中国との協調、さらには国際社会との協調を説いていたが、

日本は満州という目先の領土に固執して国際連盟を脱退し世界の大勢に背を向けた。

プーチン大統領を招いた日ロ首脳会談が山口県の温泉宿という異例の場所で行われた日、

EUはロシアに対する経済制裁延長を決め、

アメリカのオバマ政権はプーチン大統領が大統領選挙に影響を及ぼすサイバー攻撃に関与したと発表した。

そして日本だけは欧米とは異なる道を歩む姿勢を世界に見せつけた。

アメリカでトランプ大統領が就任すればロシアとの関係を劇的に変える可能性はある。

しかし来週の19日にならないとトランプ氏は正式に大統領に選ばれない。

また大統領に就任しても対ロ関係がアメリカ議会の納得を得られる保証はない。

そうした時に「北方領土」という目先の領土問題で日本が世界の大勢と異なる道を選ぶのは、

戦前の愚と二重写しにフーテンには見えるのである。

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