★民進党がある限り政権交代は二度と起きないー(田中良紹氏)

参議院選挙後初の国政選挙となる衆議院東京10区と福岡6区の補欠選挙は予想通りの結果になった。

いずれも自民党の候補が当選し民進党は惨敗した。

民進党の惨敗は誰の目にも明らかだが、しかし自民党の勝利は単純でない。

与党幹部は「安倍政権が信任を得た」として今後の政権運営に弾みがつく見通しを示すが、

この二つの選挙区でアベノミクやTPPが争点になったわけではなく、

有権者はそれとは違うところで判断を下した。

東京10区は小池東京都知事の都政改革に対する信任投票となり、

福岡6区は故鳩山邦夫衆議院議員の「弔い合戦」の要素が大きい。

それを的確に把握して事前から布石を打った自民党の二階幹事長の手腕が

自民党に勝利をもたらしたと言える。安倍自民党の勝利と言うより二階幹事長の勝利と言うべきである。

仮に自民党が都知事選で「裏切者」となった若狭氏を公認せず、若狭氏が無所属で立候補していれば、

小池氏が自民党の公認を得られなかったあの都知事選の再現になり、

若狭氏は今回以上の票を獲得したかもしれない。そして安倍自民党は悪役を演ずることになった。

そうならなかったのは小池都知事誕生直後に幹事長に就任した二階氏が小池氏との融和路線を採り、

公募による候補擁立にして若狭氏を自民党の公認候補にしたからである。

また二階氏は福岡6区でも福岡県連が推薦する候補より支持率が高い故鳩山邦夫氏の次男を

小池氏に応援してもらう算段をした。

東京オリンピックを成功させるため小池都知事と対立する訳にはいかない安倍総理は、

緑のネクタイを締めて若狭候補の応援に入り、

小池氏の方も森喜朗東京五輪組織委会長と対峙するには安倍総理の協力を必要とする立場にある。

その両者の思惑を背後で二階氏が支える。

そして当選した若狭氏や鳩山氏が恩義を感ずる相手は二階氏や小池氏であって自民党ではない。

従って自民党内の権力構造に軋みも生まれてくる。

都知事選挙で増田寛也氏を公明党とともに担いだ菅官房長官にしてみれば、

国民の注目を集める小池都知事との協力関係に異論をはさむことはできないが、

しかし小池氏を利用して二階氏が影響力を強めていくことには抵抗があるはずだ。

また福岡6区でも麻生副総理兼財務大臣が福岡県連の推す候補の選対本部長として陣頭指揮したが、

故鳩山邦夫氏の次男に惨敗した。鳩山氏の側には二階幹事長だけでなく菅官房長官もついた。

安倍総理との強固な盟友関係を続けてきた麻生氏にとって、

菅官房長官と二階幹事長の台頭は自身の影響力の弱体化につながる。

何らかの対抗策を講じなければならない。

こうして安倍総理を取り巻く権力の構図はこの選挙結果で微妙に変化していく。

とりあえずは解散風を吹かせ続けてきた二階幹事長の口ぶりが変わった。

それは開票日に補選の結果を受け安部総理から二階幹事長に電話があってからのことである。

解散に慎重な口ぶりになった。

フーテンの推測はこうだ。

二階幹事長が解散風を吹かせ続けてきたうえに補選で全勝となれば、

議員たちはみな解散が近いと考え走り出す。それが誰にも止められない暴走と化せば、

総理の解散権も意味がなくなる。

暴走させずにその後の政局を見ながら再度考えようという電話だったと思う。

なぜ二階氏は解散風を吹かせたか。

選挙に勝利すれば総理の力も強くなるが幹事長の権力も強くなり、総理と五分に渡り合えるようになる。

かつて金丸幹事長を取材してきたフーテンは中曽根総理と渡り合った金丸氏と二階氏が二重写しになる。

だから解散を急ぎたかったのは二階幹事長の方だと思う。

しかし安倍総理は解散風によって自分の解散権が左右されるのを嫌った。

二階氏は一応それを受け止め、従って来年の1月解散は消えたとも消えないとも言えない。

いったん暴走させないようにして様子を伺う。何の様子を伺うか。野党共闘の行方である。

共産党を含む野党共闘が全面的に実現すれば、

自民党は公明党との選挙協力をもってしても壊滅的な打撃を受ける。

小選挙区で70以上の議席減になるというデータもある。

安倍自民党は思い通りの政権運営ができなくなる。そうさせないようにするのが自民党の選挙戦略だ。

ところが新潟県知事選挙を見ても、今回の補選を見ても民進党には選挙に勝とうとする意志が見えない。

まるで負ける選挙をやるのが野党の使命と思っているようだ。

フーテンは万年野党だったかつての社会党を思い出す。

国民が何を求めているかより支援労組の言いなりになり、しかしその労組は裏で自民党とつながっていた。

しかし考えてみればそれもそのはずだ。

負けるのが分かっていながら選挙をやって権力を自民党に差し上げた珍しい政治家が

民進党の選挙を差配する幹事長なのだから、誰にも理解できない思考で事を進める。

自民党を震え上がらせた新潟県知事選挙を巡り、

民進党の野田幹事長は蓮舫代表が応援演説に入ったことを謝罪するため

わざわざ連合新潟まで足を運んだという。

新潟県知事選挙の後でフーテンは「民進党が主導しなければ選挙協力はうまくいく?」というブログを書いたが、

「?」をつけたのは間違いだった。

蓮舫―野田体制を選んだ民進党がなくならない限り政権交代は二度と起きない。

万年与党と万年野党の時代が続き、与党の中の権力闘争で疑似的な政権交代が可能な時代が再来する。

たとえて言えば麻生対菅対二階の権力闘争によって自民党は国民の中の政治に対する不満をかぎ取り、

それを交代で実現していく。

その政治が訪れる予兆を今月に行われた新潟県知事選挙と衆議院の補選は感じさせてくれた。

何しろ自民党の幹事長は選挙の負けを深刻に受け止め、選挙に勝っても謙虚になろうと言っているのに対し、

民進党の幹事長からは新潟県知事選や補選を深刻に反省している様子が見えず、

勝てる構図があるのにそれを無視するのだからこの落差は大きい。

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