💫T.Katsumi #BlackLivesMatter · @tkatsumi06j
7th Oct 2016 from TwitLonger
『IWGガイドライン』を無思慮に援用することの疑似児童ポルノ(疑似CP)への影響に関する個人的考察
国内法では現在、児童性搾取記録物(以下「CSEM」)を除く児童性虐待記録物(以下「CSAM」)に該当する製造物のみが児童ポルノ(以下「CP」)という法律上の整理になっている。ICPOが推奨する『IWGガイドライン』が提言しているのは、これを網羅的にするもの。つまり、ガイドラインの定義をそのまま採用するということは、CPにはCSEMが含まれることを認めることになるので注意が必要である。
このCSEMとは、「必ずしも明示的に児童の性虐待を描写するものではなくても、児童を性対象化し児童を搾取するあらゆる記録物」を意味する。その判断の決め手となるのは、「当該影像により児童を性対象化する意図があるか、或いは「当該影像を性的目的のために使用する意図があるか」だ。(ガイドラインの抄訳「Ⅱ」より)
http://tkatsumi06j.tumblr.com/post/150627479756/
これが意味するところがわかるだろうか。
この理解に沿うと、【児童でなくても】、性的目的(快楽・娯楽)のために【児童を性対象化し搾取する意図】のある影像=AV女優が児童に扮する疑似児童ポルノ(以下「疑似CP」)も、児童性搾取記録物CSEMであると解釈できる。ただ、この解釈の問題は、実在児童への被害がないものを「児童の搾取」と捉えている点にある。
例えば、
「①実在の者のようにも見えず、かつ、②実在しない児童を描いたポルノを犯罪とすることは、③自由な意見形成に対する脅威となるほど長期間の表現の自由及び情報の自由に対する制限となる」
とした、漫画イラストの違法性を扱った2013年のスウェーデン最高裁の判決に沿えば、疑似CPは違法と判断できる根拠を持ち得る。
http://www.twitlonger.com/show/n_1sp4p3e
なぜなら、疑似CPは、「①実在の者のようにも見え、だが、②実在しない児童を描いた”ポルノ”」であるからだ。残念ながら、日本の法制には③の根拠となる法理がないため、安易に疑似CPをCSEMだと認めてしまうと、国際法上は違法性を阻却し得ない。だから半知半解でその定義を援用するのは危険なのである。
http://www.twitlonger.com/show/n_1sp4p3e
CP規制は、国際法上も国内法上も児童の権利と尊厳を守ることをその法益としている。スウェーデン法では、明確に以下の法益によるものと解釈されている。
児童ポルノを犯罪とする目的
「(a)背後に隠された虐待の可能性からの児童の保護、(b)児童を性的な行為に勧誘するために用いられる可能性の排除及び(c)児童一般の尊厳の保護」(p.220)
それでもなお、スウェーデン法では、表現の自由及び情報の自由を制限しないことが優先された。
「表現の自由及び情報の自由の制限は、次の3点を満たす場合にのみ許される。①法律による制限である、②民主的社会において受け入れられる目的を満たしている、③民主的社会の基礎の1 つとしての自由な意見形成に対する脅威となるほど長期間でない。」(p.219)
ただし、
「②については、児童ポルノを処罰する目的は、児童一般の尊厳の保護であり、これは表現の自由及び情報の自由の制限を認めるに足る重大な理由と考えられる。」(p.220)
と、上記(c)の法益からの考察もなされた。
ここで、スウェーデン最高裁では、
「しかし、③については、本件で上告人を児童ポルノ罪で罰するならば、表現の自由及び情報の自由の制限が、目的に対して必要な範囲を超えるものとなる。」(p.220)
と結論した。が、これは次の理由によるものだった。
「問題となったマンガイラストでは、これらすべてに関して、実在の児童を撮影又は描写したポルノよりも侵害の程度やおそれは、相当に低い。」(p.220)
そして、前出の阻却理由となる。
「児童一般の尊厳の侵害についても、実在の者のようにも見えず、かつ、実在しない児童を描いたポルノを犯罪とすることは、自由な意見形成に対する脅威となるほど長期間の表現の自由及び情報の自由に対する制限となる」(p.220)
こうして、最終的にこの判決がくだされた。
「想像上の、非実在の児童を描写したマンガイラストが侵害しうる法益は、その他の児童ポルノよりも、程度が低く、表現の自由及び情報の自由の制限が認められるほどではないため、想像上の児童を描写したマンガイラストの所持は、児童ポルノ罪として処罰できないというのが、最高裁の判断である。」(p.220)
この判例を国内法の規定に基づき疑似CPに当てはめると、
「実在の成人により非実在の児童を描写した影像が侵害しうる法益は、その他の児童ポルノよりも、程度が【高い】。(法理がないので中略)実在の成人により想像上の児童を描写した影像の製造・頒布・提供は、児童ポルノ罪として【処罰できる】」
という解釈になり得る。
つまりCPを犯罪とする目的に沿えば、その規制により、「(a)背後に隠された虐待の可能性からの児童を保護し、(b)児童を性的な行為に勧誘するために用いられる可能性を排除し、(c)児童一般の尊厳を保護するためにも、疑似CPは取り締まる必要があるという整理になり得るのである。
疑似CPそれ自体がいかに適正に既存の審査基準をクリアしていて、『ポルノ』として適法であっても、「当該影像により児童を性対象化する意図」があることにより結果的に①児童一般の尊厳を侵害し、「当該影像を性的目的のために使用(頒布)する意図があることにより②児童を性的に勧誘するために用いられる可能性が排除できず、③これを利用して実在児童への虐待が行われる可能性から児童を保護するという法益を前にすれば、疑似CPは、国際法上は、その違法性を免れないのである。
つまりこれら一連の法益により児童を保護すること、「当該影像により児童を性対象化する意図」「当該影像を性的目的のために使用する意図」が、スウェーデン法でいう以下の表現の自由の規制の正当化事由により、国内法において正当とされるか否かの問題となる。
①法律による制限である、②民主的社会において受け入れられる目的を満たしている、③民主的社会の基礎の1 つとしての自由な意見形成に対する脅威となるほど長期間でない。
そうすると、①は現行法ではグレーで、②は十分な議論がされているとはいえず、③についてのみ、当該影像の頒布期間が「長期間」であるかの問題が問われることになる。つまり法的・社会的にはまだ環境整備が十分になされているとはいえない。
ただ、AV業界が国際的なCP規制の法益を真に理解し尊重するのであれば、その表れとして、上記法益のa~cに抵触するような疑似CPの製造・販売・頒布は自主的に規制するのが筋であろう。そうでなくとも、少なくとも②について改めて広く社会的議論を喚起し、社会に広く認められるよう努力すべきではないか。
尚、勿論、日本における改正CP法の主旨は、
「児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする」
ことにあるのだから、児童一般の「尊厳」の保護は、その範疇にはないという主張は理解できなくもない。だが、それならば外国の法令を持ち出し、その立派な(国内に存在しない)法理に基づき持論を構成するのは、「ご都合主義的である」との誹りを免れないであろう。判例は多面的に、様々な状況に適用して考察されるべきものなのだから。